心を動かす言葉との出会いをつくる ー心の動きを意識してみるー(No.2)
前回の記事では、国語の授業において、これまでの連載でお話してきたような言語スキルだけを中心とするのではなく、生徒の言葉に対する「感性」を磨くことも取り入れていく必要があるということについてお話しました。では、この「感性」を磨くことというのは、どのような内容をどのような順番で扱っていくことが良いのでしょうか。
今回は、私が授業を行う上で考えていることについてご紹介したいと思います。
小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子
「なんとなく」でできる生徒、最初からシャットアウトする生徒
「言葉に対する感性を養う」ためにと、ただやみくもに「この作品の良さはどこかについて話し合いましょう」「自分の身の回りのものになりきって詩をつくってみましょう」といった活動をさせるだけでは効果がありません。授業において「その活動をすることによって、どのような力(ここでは言葉に対する感性)がなぜ身に付くのかを考えなければならない」という点については、これまでの連載でお話してきたことと変わりはありません。
特に「言葉に対する感性」という、なんとなくふわっとした感覚的なものを扱う時には注意が必要だと思います。「あんまり良くわからないけど、なんとなくこんな感じかなと思ったら良い評価をもらえた」という生徒もいれば、「この作品に対して何も感じない。詩を作れと言われても何をどうすればいいかわからない」と最初からお手上げ状態の生徒もいるからです。このような様々な状態の生徒が混在している教室において一様に「さあ、詩を作りましょう!」と言っても混乱を招きかねないと私は考えています。
自分なりの「なんかいい」に気づくところから始めてみる
言葉に対する感性を磨く上で一番ふさわしい教材は韻文、特に詩であると考えています。詩の中には様々な表現技法があり、行間を想像する必要があるからです。詩の中でも親しみやすさという点でハードルを下げるために口語詩から入るのが良いでしょう。
私が授業で詩を扱う中で、最初に意識することは、「インプット」を増やすということです。なぜなら、自分の中にたくさんの「詩のデータ」をもっていれば、そのデータと新しく出会う詩を比べることができるからです。比べることにより表現方法や表現内容の違いに気づきます。そうしたことを繰り返していくうちになんとなく自分の心が動く詩というものとの出会いもあるのではないかと考えています。
例えば詩の導入として次のような単元が考えられます。
【単元の目標】自分の心が動いた詩とその理由について、詩の中の表現をもとにしながら伝える。
【単元指導計画】(3時間)
① 教科書や資料集、図書室の詩集等に目を通して詩を選ぶ。
② 選んだ詩について、どこに心動かされたのかをまとめる。
③ 班ごとに分かれて選んだ詩と選んだ理由を共有し、他の人の発表を聞いて気づいたことや考えたことについてまとめる。
※どのくらいの詩の中から選ぶかと、振り返りをどの程度させるかを調節すれば、1~2時間でもこの内容を扱うことができます。
このような授業を行うにあたって気をつけていることは、「好きな詩」「良いと思った詩」という表現をできるだけ避けるということです。「好き」という言葉が出てきただけで拒否反応を示す生徒や、とたんに選べなくなってしまう生徒がいます。おそらく「好き」という感情に対する捉え方が生徒によって異なることが原因であると考えられます。
そこで私は「ちょっといいな、おもしろいな、不思議だな、など自分の心が動いた詩」という言い方をよく使います。そして、「『自分の心が動く』のは、いいな、おもしろいなというプラスの方向でも、なんだか嫌だな、悲しいな、などのマイナスの方向でもいいよ」と付け加えます。逆にこのように広げることで選べなくなってしまう場合は「好きだなと思った詩」というように「好き」という表現に戻すことで先に進める生徒もいます。このように、指示の仕方を工夫しながら、詩を読んだ時に自分の心がどのように動いているのか意識させるところから、「感性」を養うことが始まるのではないかと考えています。
そして、その「心の動き」について周りの生徒と共有することによって、「そんな風に感じる人もいるのか」という新しい発見があったり、「自分と同じように感じる人がいた」という共感の楽しさがあったりします。どの詩に対してどのように心が動かされるか、その感じ方は自由です。そうした自由な感情を共有し、認め合うことによって、その後の授業の中でも考えを自由に発信する雰囲気作りをすることにもつながります。新年度の授業開きのひとつとして詩を扱ってみるのも良いかもしれませんね。
終わりに
今回は、「言葉に対する感性を磨くための授業」の導入として、「自分の心が動かされた詩」を探すという活動についてご紹介しました。「感性」というとなんとなく自然に育っていくもの、というイメージがありますが、「あるものに対する自分の心の反応を客観的に捉えること」を繰り返すことで、表面化させていくことができるものであると考えています。
次回は、これを踏まえて、「自分の心の動きを相手に伝えるための方法」について触れてみたいと思います。
熊井 直子(くまい なおこ)
小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。
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