2020.07.29
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子どもを動かす魔法の言葉(その4)

今回は、子どもに自分を見つめ直してもらうための魔法の言葉です。なーんてカッコつけましたが、実際には、日々の指導の中で、苦し紛れに口から出たひとことがきっかけ。それが効果的だったとき、私の魔法の言葉コレクションになっていきます。


東京都内公立学校教諭 林 真未

「これじゃあ〇〇〇〇の無駄遣い!」

〇〇〇〇には、子どものフルネームが入ります。
たとえば「これじゃあ林真未の無駄遣い!」という感じ。
これは、生活科や理科、あるいはその他の科目で観察カードやワークシートの課題を出したときに使います。

観察カードやワークシートを、そこそこ仕上げて「はい、できました!」と持ってくる子がいますよね。
確かにこちらが指示したポイントはクリアしているから、受け取れないわけではない。でも、形のとり方だったり、色のぬり方だったり、あるいは字形や文章も、この子ならもっとできるはず。そういうときってありませんか。

わからないわけじゃないんです。
その子の意思にかかわらず「さあミニトマトのかんさつをしましょう」と言われ、やらされ感満載でやっているのですから、先生の指示したポイントをおさえて最小限の労力で仕上げたいわけです。
それもまた、その子なりの生き方、生きる知恵かもしれません。

もっと言えば、全員一律でミニトマトの観察をするよりもっと、全員が前のめりで参加できる授業を、私たち教師側が創るべきかもしれません。だけど、毎時間そんな授業を創るなんて、ただでさえブラック企業勤務の私たちには現実的に不可能です……。

というわけで、全員一律、ミニトマトの観察となるわけですが、多くの子は素直に前向きに課題に取り組んでくれます。本来、そういう子たちと同様に良い観察カードがかけるのに、前述した要領のいい子たちは、ちゃっちゃと雑にすませてしまう。私は、それはやっぱりもったいないなあと思ってしまうんですよね。

なにはともあれ目の前の課題にガッツリ向き合う。そういう姿勢を身につけることだって、決して彼らの損にはならないはず。

そう思って、この言葉が飛び出しました。
これじゃあ、〇〇〇〇の無駄遣い。あなたなら、もっとよく見たらもっといろいろ気づくことができるし、色だってもっと丁寧に塗れるはず。どうせやるんだったら、自分のベストを尽くしなさい」

「悪いところがあると思う人は手を挙げて」

個人的には、「これって教師の仕事なのかな?」と思いつつ、決して逃れられない、子ども同士のけんかの仲裁という役割。

次の授業が始まるまでの数分間で話をまとめたいのに、お互いの言い分を聞いているといつまでたっても終わりそうにない。
そんなときに使うのがこの言葉。

「もういいです。先生はけんかの現場を見ていなかったから、どっちの言い分が本当なのかはわからない。だから質問をかえます。質問です。少しでも、自分に悪いところがあると思う人は手を挙げてください

けんか両成敗と言いますが、この質問で、手を挙げない子はほぼいません。
けんか当事者も、相手が悪いと思ってくれていることがわかれば、とりあえずは満足。
お互い「ごめんね」「いいよ」と言い合って席に着けます。

これは低学年だから使える手法かもしれません。高学年はもっと複雑かな?

また、この方法一辺倒だと、子どもに不満が溜まってしまうことも考えられます。時間のあるときには、じっくり子どもの言い分を聞いて、けんかに至ってしまったポイントを、丁寧に整理してあげることも必要だと思います。

イラスト/有田りりこ

特別支援でも魔法の言葉

学級運営の都合上、どうしてもここでは同じ行動をしてもらわないと困る、という場面で、特別支援対象の子に効く魔法の言葉をご紹介します。

たとえば、どうしても着席させておかなければならないとき。

発達障害を持つ子には、子どもを動かす魔法の言葉(その2)でご紹介した「できますか」がよく効きます。

「あなたは、今、椅子に座ってじっとしていることができますか?できませんか?」
と訊くと、7-8割は「できます」と言って座ってくれます。
その日の状態によっては「できません」と言うこともありますが、「わかりました、いいですよ。できない人には言いません」と答えると、「できます、できます」と、あわてて座ってくれることが多いです。それでもだめなときもありますけどね……。

知的障害、あるいはグレーゾーンの子の場合は、学習への心配が離席の原因なので、安心できる言葉が効果的です。

ありがちなのは、ワークシートやテストが配られたときの離席。
できなくても離席せず待てる子もいますが、「できないかも」と思ってパーっと教室を出ていく子がいます。

そういう子には、配る際に、「先生が全部教えてあげるから大丈夫」と囁くと、座って待てます。そういう子用に、答えを予め書き込んだものを用意するようには心がけているのですが、私はすぐうっかりして、あわててその場で書いてあげることが多いです。

「テストはテストなんだから、ちゃんとやらせてその子の実力をはからないと」というご意見もあると思います。私も以前はそう思っていたのですが、冷静に考えれば、テストするまでもなく、その子の実力は、十分把握できています。それなら、テストの時間じゅう、なにも書けずに切ない思いをさせるより、なぞり書きで文字の練習ができる方が、その子にとって有効な時間。そう割り切ることにしています。

前回記事についてのご報告

私の前回記事、通常級の特別支援(その2)において、特別支援対象の子が離席してしまう、他の子を叩いてしまうことを、他の児童に「我慢する力が弱い」と説明すると書きました。
この件について発達障害を持つ子の保護者の方から、発達障害児は我慢する力が弱いのではなく、認知機能の特性の問題があるだけというご指摘を頂きました。
全くその通りで、そのハンディキャップを抱えながら学校生活に適応しようとしているという意味では、むしろ我慢強いとさえ言えます。
それなのに担任教師が「我慢する力が弱い」と表現してしまうと、「皆も我慢しているのだから本当はもっと頑張らなければいけないのにそれができない子」というニュアンスが含まれかねません。
他の学級の子にとってのわかりやすさを優先し、そのようなニュアンスを感じさせかねない点について配慮が足りなかった、とたいへん反省しました。ご意見を伝えてくださったことに感謝します。
そして、学級の子どもたちも、当事者も納得できる、特別支援の子の行動を理解し、その行動を容認するための、より良い言葉を、これからまた、考えていこうと思います。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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