2019.07.29
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子どもを動かす魔法の言葉(その2)

5月に続いての第2弾です。今回は、子どもが騒がしくなってしまったり、学習準備が遅かったり、学級・学校のルールを守れなかったりしたときの、魔法の言葉を集めてみました。

東京都内公立学校教諭 林 真未

「まぼろしかなあ〜」「そらみみかなあ〜」

「まぼろしかなあ〜」

授業の始まり。

あいさつがすんだのに、まだ子どもたちの机に学習用具がそろっていない。そんなときに使うのがこの言葉。

「あれ、まさか! まだ教科書を出していない人がいるなんて、そんなわけない。きっと、まみ先生が見ているのはまぼろしだ。よし、しっかり目を閉じて一回ぐるっと回ってから、もう一度目を開けて見てみよう」と大げさに言ってから、目を閉じゆっくり一回転。

すると子どもたちはくすくす笑いながら、その間にさっと教科書・ノートを出します。

私が目を開けた頃には、全員教科書を出して澄まし顔。中にはぼーっとしていて、隣の子にあわてて出してもらっている子もいますが、そこはご愛嬌。そのことにはとくに触れずに見逃してあげます。

そして一言「あーよかった。やっぱりまぼろしだったわ。よいこのみなさんが、学習準備がすんでないわけないもの!」

こうして、みんなニコニコ笑顔で授業を開始します。

「そらみみかなあ〜」

先生の話が始まっているのに、おしゃべりが止まないときの一言がこれです。

「おかしいな。子どもの声が聞こえるんだけど、まみ先生のそらみみかな。先生のお話を聞く時間に、子どもの声が聞こえるわけないもの」

”子どもの声”という表現がポイントです。「声が聞こえる」と言うだけだと、「声は聞こえるよ、だって先生がしゃべっているもん!」とツッコむ人がけっこういるので、この言い方を編み出しました。

せっかくこちらが「そらみみかなあ〜」ととぼけているのに、「そらみみじゃないよ!みんなしゃべってるよ!」とうったえるツワモノもいます。そういう子は、にっこり笑顔でじっと見つめるだけ。

ほとんどの子どもが、嬉しそうに「そらみみそらみみーー!」と答えていますから、「よかった、そらみみで。じゃあもう、子どもの声は聞こえないね。話を続けますよ」と伝えます。すると、しーんと静かになっています。

学年合同で100人近くいても、この方法は有効です。

「知ってましたか」「できますか」

「知ってましたか」

これらは、ルール違反をした子を叱るときに使います。

まず、どんなルールを破ったのか、なぜそのルールがあるのか、なぜルールを守らなければいけないのか、などをその子と共有します。その上で「知ってましたか、知りませんでしたか?」と聞きます。

もしかしたら、そのルールを知ってて破ったのではなく、そのルールの存在を知らないで、結果的に破ってしまった場合もあるからです。

「知らなかったです」と言う子には、「じゃあ覚えてください。今度からしないよ!」で終了。

もちろん、知っているのに叱られるのを逃れるために「知らなかった」と答える子もいますが、そこは臨機応変。相手の子のキャラクターに応じて、「あなたは知ってました!」と断言したり、「わかりました」と言いながら目で疑いを表現したり、あえて気づかないふりをしたり、いろいろです。

「知っていました」と言う場合は、「なぜ守れませんでしたか」と事情を聞き、「事情はわかりました。でも、ルールは守ります。今度から気をつけてください」という感じでしょうか。

「知っていましたか?」と問いかけることで、ただ禁止を伝えるだけでなく、ルールの確認をし、知っていたのに守れなかったという事実も強く印象に残し、再発防止につなげたい。

……つながるかなあ笑。

「できますか」

これは、うっかりルールを犯してしまうのではなく、確信犯的にルールに従わない子どもに対して言います。

「あなたは、今、・・しなくちゃいけないって知っているのにやっていませんよね。……することできますか?できませんか?」

確信犯的ルール違反をする子は、たいていプライドが高いので、こう聞かれると、しぶしぶ「できます」と答えます。そこにたたみかけるように、「そうだよね。あなたは賢いから、先生もできるはずと思っていますよ」と力強く伝えます。

こうなれば、もう、彼(彼女)は、やるしかありません笑。

「もしかして、うっかりしちゃった?」

いろいろ書いてきましたが、もちろん、毎日落ち着いて上記のような対応ができているわけではありません。

せっかく魔法の言葉を編み出しているのに、そんなことはすっかり忘れて、「うるさい!」「しずかに!」と子どもたちを一喝してしまうこともよくあります。お恥ずかしい限りですが、その上、お説教を積み重ねたりして、ますます教室の空気を悪くしてしまうことも。

でも大丈夫。悪くなってしまった空気を変え、シュンとなってしまった子どもたちを一瞬で蘇らせる魔法の言葉があるのです。

「あれ、もしかして、うっかりしちゃっただけだったのかな。まみ先生がお説教しなくったって、みんな本当は大丈夫だったのかな?」
私が笑顔でそう言うと、子どもたちは、うんうん! と大きくうなずいて、「うっかりしただけ」「もう大丈夫」「みんな静かに!」と元気を取り戻します。

本当は、うっかり大声を出してしまったのは、私も同じなんですけどね。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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