2021.02.22
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子どもを動かす魔法の言葉(その5)

「魔法の言葉」なんて、良さげな連載タイトルをつけていますが、実は、指導中に苦し紛れに飛び出したひとこと。それが積もり積もって、この度一冊の本になりました(『子どものやる気をどんどん引き出す! 低学年担任のためのマジックフレーズ』明治図書出版)。今回は、その新刊から一つ、そして刊行後に生まれた、未公開「魔法の言葉」を、二つ、お届けします。

東京都内公立学校教諭 林 真未

「できる・できない」は、よこ 「やさしい・やさしくない」は、たて

1年生も終わりに近づいてくると、だんだん学校的価値観に毒され始めるのか(笑)、「××ちゃんは勉強ができてスゴイ」「俺は、縄跳びが〇回跳べる!」と、「できること=えらい」という前提での発言が多くなっていきます。
学級が、その価値観で覆われ始めたことを感じた私が、朝の会で子どもたちに伝えたのがこの言葉。

ある日の朝。
「あのね、勉強や運動ができるかできないかって、どっちがえらいっていうわけじゃないんだからね。ただ、得意なことと苦手なことがあるだけの話。そのふたつは、こういう関係」
私はそう言って、横並びの大きな丸を二つ、黒板に書きました。

「でもね、こっちはちがうよ。やさしい子とやさしくない子だったら、もうぜったい、やさしい子の方が上です。だって、やさしい子は自分も人も幸せにできるんだから!」
今度は、縦並びの大きな丸を黒板に。

子どもたちは素直で、しかもお母さんや先生の言うことが、自分の考えよりも正しいと信じていますから、
「えーそうなんだー」
とすぐ納得してくれました。これでホッとした子もいるかもしれません。
「うんそうだよ、マミ先生、前にも言ってたじゃん」
と、援軍してくれる子まで現れました。
本人はすっかり忘れていましたが、たびたび似たようなことを言っていたんですね……(^_^;)

思ったことを言うのは、いいことなんだよ

「授業中にはしゃべらない」というのは、学校での当然のルール。
もちろん、授業スタイルに応じて、それは臨機応変に運用されますが、基本的にはそう。
けれど、低学年はアタマとカラダが直結ですから、思ったことがすぐ口に出てしまいます。
先生がなにかを伝える度に、いちいち「あー俺それわかった」「わたし知ってる」「えー××するの?」など、いちいちリアクションしてしまうのです。

それは授業に積極的に参加できている証拠ですから、歓迎すべきことなのだけれど、こちらとしては、静かに最後まで聞いてほしいとき、スムーズに説明を終わらせたいときもあるわけで。
それで、
「先生がお話しているときにはしゃべりません」
と、定番の指示をするのですが。

子どもの立場になったら、せっかく、先生の話を聞いて感じたことを素直に表現したのに、
「しゃべりません」
と封じ込まれるのは悲しすぎる。

そこで私は、予めこう伝えることにしました。
「思ったことを言うのは、いいことなんだよ!」
実際、子ども同士の争いの仲裁場面では、彼らはさんざん、「言いたいことをきちんと相手に伝えなさい」と言われています。
自分の思ったことを表現できる力は、否定されるべきものではありません。

ただし。
「先生が話しているときや誰かが発表しているときは、それを口に出さないで、心の中で思うだけにしてほしいんだ」
30人前後が一斉に1人の話を聞く場合には、誰かの不規則発言で、肝心の、話者の声が聞き取れない人が出てきてしまいます。そのことを説明し、そうお願いします。

そして。
「どうしても言いたいことがある人は、話が終わったら手を挙げてね。手を挙げずに勝手にしゃべると、『静かに聞いていなさい』って怒られるけど、手を挙げて指されてから言えば、『いい意見ですね』って褒められちゃうかもよ」
とも伝えました。

おしゃべりが止まらなかった子が、こう言われてからは、必死になって不規則発言を自己規制して、話が終わった瞬間に、全身の力を使って勢いよく手を挙げていたのが、とっても可愛かったです。

人生ってそういうもの

図画工作で、自分が思ったように制作物が仕上がらなかったり、体育のボールゲームでチームが負けてしまったり……。子どもは、学校生活の中で、様々な思い通りに行かないことに直面します。

彼らは、いつも目の前のことが全てですから、こんなふうに、なにかが思い通りに行かなかったとき、まるで人生の全てがうまくいかなかったような気分にとらわれています。

この言葉は、そんな子どもの中にある時間軸を、“今”から“人生”という長―い期間に転換してあげるしかけです。
人生という長い規模で考えたら、小学校低学年時代のたった一つの出来事は、そんなに嘆き悲しむことでもない。今回はうまくいかなかったけど、まだまだこれからうまくいくことだって、いいことだって、いっぱいある。そんな思いを込めて、
「人生ってそういうもんよ!」
と伝え、背中をポンッとたたきます。

こう言うと、子どものほうは、わかったようなわからないような怪訝な顔をしつつも、「どうも、今自分が嘆いていることは、大したことではないらしい」ということは理解してくれて、とりあえず、嘆きの淵から戻ってきてくれます。

(ちなみに、新作は上二つ。最後が本に書いたもののアレンジです)

イラスト/有田りりこ

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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