〝目的〟と〝志〟で振り返る教育実践(第5回〜中学生が夢や目標をもつために必要な4つのこと②〜)
中学生が夢を描いたり、目標をもつために学校現場で何ができるのか、4つのキーワードをもとに考えていきます。
練馬区立豊玉中学校 主任教諭 谷 信彦
中学生が夢を描くために必要なこと4つのキーワード。
前回は、「知識を増やす」と「経験値を増やす」について書きました。
今回は、残りの「所属と愛の欲求」・「承認の欲求」についてです。
「所属と愛の欲求」・「承認の欲求」を満たす

教師をしている人なら誰もが一度は耳にしたことのある説。マズローの欲求5段階説がありますよね。ピラミッドの下位に位置する欲求が満たされると、段階的に上位の欲求を求めるようになり、それらが満たされて初めて最上位の「自己実現の欲求」を満たすための行動に向かうといったものです。ちなみに、現在の日本では「生理的欲求」と「安全の欲求」については、概ね満たされていると判断して良いと思います。そこで、ミソとなるのは「所属と愛の欲求」と「承認の欲求」です。この二つが満たされて初めて、自己実現、つまり自分の将来に向けて前向きに動き出せるようになるということなのです。
人間の究極の幸せとは?
先日、あるテレビ番組で日本理化学工業について紹介している映像をみました。日本理化学工業はチョークを取り扱う会社です。この会社には、社員の7割が知的障害者の方だそうです。会長の大山泰弘さんは、当初、障害者雇用を考えていなかったそうです。ある時、養護学校の先生に何度も熱心に頼み込まれて雇用したのが始まりでした。なかなか上手く仕事ができずに悩んでいる障害者の社員を見て、この人たちは仕事をしていて本当に幸せなのだろうかといつも自問自答していたそうです。そんな時、大山さんはある住職に相談にいったそうです。そして、その住職から「人間の究極の幸せとは何か」という話をしてもらいました。
住職曰く、人間の究極の幸せとは、
①人から愛されること
②人に褒められること
③人の役に立つこと
④人から必要とされること
大山さんたちはこの言葉の通り、会社で働く一人ひとりを愛し、頑張りを心の底から褒め、人の役に立つこと、人から必要とされることの喜びを、実感できるように働きかけたそうです。その結果、障害をもつ多くの社員が生き生きと仕事に励み、できなかったことができるようになることに生きがいを感じ始めました。そして、今ではそういった社員が会社にとって、なくてはならない存在になっているそうです。
集団づくりの本質とは?
私たち人間は、大人も子どもも他者との関わりの中で生きています。様々な集団の中で、自分の居場所を求め、自分の力を発揮できるようにもがいています。学級経営を含めた集団づくりという答えのない課題に私たち教師は日々取り組んでいます。本屋に行くと、学級経営に関するたくさんの書籍が並んでいますが、その多くに共通することは、「人間の究極の幸せ4か条」が満たされているかということです。
「所属と愛の欲求」・「承認の欲求」が満たされた初めて、「自己実現の欲求」が芽生える。これまでも生徒たちに夢や目標の大切さを語ったり、夢を探すための取組をしてきました。手を替え品を替えアプローチの仕方を工夫してきましたが、上手く響かなかったのはおそらく欲求のプロセスを無視していたからだと、今振り返って思えます。
今、生徒たちが生活している集団を、愛し合い、認め合える集団にすること。そして、その中で、世の中のことを知ったり、様々な経験を積んだりすること。それが、中学生に夢や志に気付かせるきっかけになると私は信じています。

谷 信彦(たに のぶひこ)
練馬区立豊玉中学校 主任教諭
「何のために?」をキーワードに、教育の本質を求めて日々現場でもがいています。
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