新学習指導要領を読んでみた
前回の記事で、「何のために勉強をするのか?」というテーマについて意見を書きました。
今回は、より具体的に一つの教科に焦点を当てて考えてみたいと思います。
私の専門教科は社会科です。社会科といっても、地理・歴史・公民と3つの分野に分かれており、それぞれに目的やねらいがあります。同時に、それらの学習を3年間通して行うことで生徒につかませたい社会科全体の包括的な能力や、概念というものがあります。
また、社会科だけでなく、すべての教科・領域を通して、目指すべき目標や手立てもあります。
今、しきりに叫ばれている「主体的、対話的で深い学び」もその一つですね。
新しい学習指導要領に目を通してみると、たくさんのキーワードが書かれており、すべてが大切に思えてきます。
これまでも学習指導要領は変化と進化を繰り返してきましたが、今回の改訂は、未だかつてないほどの大転換だと言われています。
もちろんこれまでやってきたことを全否定するわけではなく、蓄積されてきた実践にプラスアルファで取り入れていくといったスタンスでいいのでしょう。
とは言っても、変わらざるをえない時代を迎えていることを鑑みると、我々も今一度勉強をしなおし、積極的に挑戦する姿勢が求められるのかもしれません。
社会科のねらいは何なのか?
ここで、これからどのように教科指導のあり方を捉えていけばいいのか、私なりの解釈を、できるだけ平易な表現で書いてみたいと思います。
多々、不十分な理解や表現があるかと思いますが、ご容赦ください。
まず、中学社会科の最大のねらいですが、
それは
「よりよい社会・世界をつくるために、その一員としての自覚をもって行動できる人間を育成する」
学習指導要領では、〝公民的資質〟というキーワードを使っています。結局、利己的な社会から利他的な社会へのシフトしていかないと、世界は大変なことになってしまうということです。
もちろん自分自身を大切にすることは大前提です。自分を犠牲にしてまで、他者のために生きるのが美徳とは思いません。まずは、自分に嘘をつかず、自分のために生きることが必要です。
ただ、それは自己中心ではなく、自己を高めた結果、身についた能力や財産を他者におすそ分けするといったイメージです。
自分にだけベクトルを向けるのではなく、外にもベクトルを向けることができる、そんな姿勢をもとうというのが、〝公民的資質〟ではないでしょうか。
授業をつくる際のポイントは?
では、社会科においてそういった資質・能力を身につけるためにはどのような手立てが必要なのでしょうか。3つのポイントをあげてみたいと思います。
①ESDを大前提としたカリキュラムづくり
ESD(持続可能な開発のための教育)は、10数年前から日本でも急激な広がりを見せています。ユネスコスクールの認定校も増え、精力的に活動している学校も全国にはたくさんあります。
ただ、私自身もそうですが、そういった視点をもって日々の授業を行っているかと言えば、自信がないのが正直なところです。ESDは、社会科に限らず、学校教育全体にかかわる基盤です。新学習指導要領にもしっかりと書かれてあります。
これを社会科の3分野に落とし込むと次のような解釈ができます。
地理的分野では、日本を含めた世界が避けては通れない喫急の課題(地球的課題)や日本の各地域で起こっている個別的な課題(地域の課題)についてふれます。そして、それらをどう解決していくかといった課題解決的な学習が求められています。
歴史的分野では、過去を学ぶことを通して、現在から、未来へと視野を広げていきます。その時々の課題や、今後起こりうる危機的課題に対して意見をもち、その解決に向かう姿勢を身につけることが求められています。
公民的分野では、それらの課題を他人事ではなく、自分ごととして捉える姿勢を身につけます。主体者として参画したり、行動に移す実践力の基礎を培うことが求められています。
②「社会的な見方・考え方」を働かせる
そういった諸課題を解決するには、最低限の知識と汎用的な概念理解が必要になります。何も知識・経験がない状態で、解決策を考えさせても、それは絵に描いた餅で、あまり教育的効果があるとはいえません。
そこで必要になるのが、「社会的見方・考え方」を働かせるということです。どの教科にも「見方・考え方」が記されていますが、これも正直分かりづらいです。語弊を恐れず、書くとすれば、これは一種のフレームワークではないでしょうか。
例えば、ある砂漠での一場面を写した写真があるとします。普通なら、「砂漠の写真だ」といった認識しかもてない人が大半です。そこに「これはどこの写真だろう?」「同じような場所は他にはないのか?」「ここで生きる人々はどのような生活をしているのか?」「砂漠という環境が人々にどんな影響を与えているのか?」「ここに住む人々はどのよう問題を抱えているのか?」など、視点を与えることで色々な角度から思考が働き、一枚の写真からは見えないものが、次第に見えてきます。一つの何気ない社会的事象が、これらの視点をもつことで、地理的な事象へと変化したのです。
以上のようなフレームワークを使うことで、個別的知識である点と点がつながって線になり、さらに多面的・多角的に捉えることで面になります。
そういった過程を経て初めて、社会で起こっている諸課題が自分ごととなり、価値判断や意思決定をするなど解決のために動きだす第一歩になるのではないでしょうか。
③「主体的、対話的で深い学び」
では、最後にそういった学習活動を効果的に行うためにはどういった授業改善が求められるのかをお話をします。
ESDの視点を取り入れ、様々な課題を解決するためには、どうしたらよいかを考える学習指導が欠かせないことは前述の通りです。しかし、生徒が考えた解決策は多様です。個々の生徒が価値判断したり、意思決定したことをグループで話し合ったり、クラス全体で議論することが必要になります。
他者の意見を取り入れたり、自分の意見に対する批評を受けることで、頭の中を整理し直し、内省します。そして、最後にもう一度自分の意見を作り上げる。一人、家で思考しているだけでは決して実現できない、ダイナミックな思考活動が可能になります。
それがまさに対話を通して学びを深めるプロセスになるのではないでしょうか。
以上、社会科で大切にされているポイントを3つあげました。簡単に書いてしまいましたが、あまり複雑に考えすぎず、シンプルに捉える視点も必要だと感じています。

谷 信彦(たに のぶひこ)
練馬区立豊玉中学校 主任教諭
「何のために?」をキーワードに、教育の本質を求めて日々現場でもがいています。
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