〝目的〟と〝志〟で振り返る教育実践(第2回〜何のために勉強をするのか?〜)
何のために勉強をするのか?社会科を学ぶ意味は何なのか?
それらの目的を教師自身が持ち続け、日々の授業に挑むことが、生徒の力を伸ばすだけでなく、ぶれない軸をつくることにつながります。
練馬区立豊玉中学校 主任教諭 谷 信彦
手段と目的がごちゃまぜ
「手段が目的化しているんじゃない?」
教師生活駆け出しの頃、先輩の先生から言われた一言。
手段?目的?
言葉の意味は何となくわかるけど、自分の仕事に結びつけることができず、その時は言われていることの真意が分かりませんでした。
仕方がないのかもしれませんが、とにかくガムシャラに色んなことにチャレンジしていました。教室を彩ることがいいことだと思い、やたらと掲示物をたくさん作ってみたり。社会科の授業でも、自分が面白いと思った資料を見せて、自己満足してみたり。
諸先輩方が残した実践や教育書を読み漁って、「これはいい!」と思ったものは何も考えずに取り入れていました。それはそれでいい面もありましたが、一つ一つの取り組みにどのような意味があって、どういった効果を期待したのものなのか、自分なりの信念というのもは無かったような気がします。
今、年齢的にも経験年数からしても中堅と呼ばれる立場になりました。一通りのルーティンはこなせるようになってはきましたが、自分のクラス、自分の授業、顧問をする部活動だけを見ていてはいけないなぁと感じるようになってきました。
少しずつ、学校全体を俯瞰して遂行しなければいけない仕事を任されるようになるにつれて、求められる視点が見えてきました。
それが、「何のためにやるのか?」ということ。
様々な生い立ち、異なった教師経験や考え方がもった人たちがあつまるのが学校現場(どの職場もそうかもしれませんが)。その中で、折り合いをつけながら、本当に必要なことは何かを問いながら、仕事をする必要性を痛感しているところです。そうしないと、何でもかんでもやってしまって、結局何も残らないといった状況に陥ってしまいます。
何のために勉強をするの?
今回は、数多ある仕事の中で、授業について考えてみたいと思います。
「何のために勉強をしなきゃいけないの?」
教師をしていると、必ず一度は自問自答を迫られる究極の問いです。みなさんは、この問いに対してどう答えますか?
また、中学高校になると、各教科で覚えないといけないことも増え、学習内容も難しくなる中、必然的に生徒の中から、「〜(教科)って何で勉強するの?役に立つの?」という疑問が増えてきます。
そういった生徒の純粋な問いに対して、真摯に向き合うのも教師の仕事の一つなのでしょう。もちろんこの問いに対する唯一の正解は存在しないのですが、教師自身が納得していて、それを生徒に納得させる気概をもって語ることが大切だと考えます。
私は、授業中ことあるごとに学ぶ意味を語るようにしています。歴史を勉強する意味、地理を学ぶ意味、社会科を通して何ができるようになってほしいか。
生徒に納得してもらうという意味もあるのですが、それ以上に
「自分の中に確固たる軸ができる」
ということに本当の価値があると思っています。
ここで私見を述べるとすると、社会科に限ったことではないかもしれませんが、学校に来て勉強をする目的は
「折り合いをつけることを学ぶ」
ことではないかと思っています。
AIの進化により、将来の授業のあり方が問われている昨今。学習内容を習得するだけなら、一流講師の授業を動画で見返したり、ロボットが個々の弱点を分析して、今必要な課題を瞬時に分析してくれるシステムが急速に広まっています。それはそれで大変喜ばしいことですが、私たちが日々相手にしているのは、学力レベルも学習意欲も異なる人間集団です。そういった生徒たちが将来、自分の持ち味を発揮しながら社会に貢献していけるように育てることが学校教育の使命だと思っています。
今流行りのアクティブラーニングは、まさにそういった人間を育成することを至上命題としているのではないでしょうか。
折り合いをつけるために大切な3つの視点
では、実際の授業で「折り合いをつけることを学ぶ」には何を意識していけばいいのでしょうか。
1.生徒が分からないことを受け入れ、それを放置することなく解決しようとする姿勢をもっているか。
2.自分一人ができることに満足せず、クラス全体の力が高まることに価値をおき、それが自分のためになることに気付いているか。
3.仲間の意見に耳を傾け、それをもとに自分の意見を固めたり、あるいは修正したりする視点をもっているか。
私は、以上の3点を常に意識しながら授業を行っていますし、生徒にもその大切さを何度も語っています。このことを意識することが、実は「手段を目的化」しないための一つのポイントになります。
この点が抜けていると、こんな失敗をしてしまいます。
・アクティブラーニングの流れに乗って、話し合い活動を授業の中に取り入れたのはいいが、男女間の交流がなかったり、ただのおしゃべりタイムになってしまって、顔を付き合わせる意味がない。
・グループを作って話し合いをさせても、個々の考えを報告するだけで、そこから練り合ったり、つなぎあわせたりするなど、学びが深まらない。
自分のこれまでの授業を振り返ってみても、こんな失敗は無数にあります。今もできているかといったら自信をもって答えられません。ですが、その度に社会科を学ぶ目的を問い直し、軌道修正をする。その繰り返しです。
〜という目的のために、4人組で話し合いをする。
〜という目的のために、全体で発表をさせる。
そういったことが自分の中に落とし込めて授業をやっていくことは、長い時間をかけて教材研究をすることよりも大切なことかもしれませんね。

谷 信彦(たに のぶひこ)
練馬区立豊玉中学校 主任教諭
「何のために?」をキーワードに、教育の本質を求めて日々現場でもがいています。
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