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教育インタビュー

2018.09.19
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田村 学 深い学びを語る

子どもの中でバラバラだった知識がつながり合い、“駆動”することで、「深い学び」が実現するのです。

田村学氏は、前・文部科学省初等中等教育局視学官として新学習指導要領のベースを築いたキーパーソン。現在は國學院大學で教員養成に携わる傍ら、学校訪問や執筆活動を通して今改訂の意図を伝えています。その田村氏が今回、上梓したのが、『深い学び』(東洋館出版社)。新学習指導要領実施のカギとなる「主体的・対話的で深い学び」の中の「深い学び」に焦点をあて、その構造を解き明かしています。「深い学び」の姿や、その実現に向けた授業づくりのポイント、求められる教師力について、お話を伺いました。

子どもの内面で進行する「深い学び」

学びの場.com「主体的・対話的で深い学び」のうち、特に「深い学び」に焦点をあてて『深い学び』(東洋館出版社)を執筆されたのは、なぜですか?

田村 学最も重要であるのに、最も具体像をイメージしにくいからです。子ども自ら課題意識をもって学習に取り組む「主体的な学び」、友達などとのやりとりを通して学び合う「対話的な学び」は、その活動の様子が見て取りやすい。しかし、「深い学び」は子どもの内面で進行するものなので、どういう状態を指すのかがわかりにくいのです。

学びの場.com「深い学び」が最も重要であるというのは、どうしてでしょう?

田村 学「主体的な学び」「対話的な学び」は「深い学び」と並ぶ大切な授業改善の視点であり、3つが連動してこそ学びの質を高めることができます。しかし、新学習指導要領が目指す実社会で役立つ資質・能力の育成には、「主体的な学び」と「対話的な学び」が、身に付けた知識・技能の活用・発揮につながる「深い学び」に向かうような、確かな学びになっていることが重要です。そのため、特に「深い学び」の視点を意識した授業改善が求められているのです。

知識中心に捉えることで「深い学び」が見えてくる

学びの場.com「深い学び」とは、どのような状態を指すのでしょうか?

田村 学この本では、「知識・技能が相互に関連付けられ、構造化されたり身体化されたりして高度化し、適正な態度や汎用的な能力、概念的な知識となって、自由自在に使いこなせるように“駆動”する状態」に向かっていくことを「深い学び」と定義しています。知識・技能を“駆動”する状態へと高めるためには、子ども達が習得・活用・探究を意識した各教科等の学びのプロセスの中で、身に付けた知識・技能を活用したり発揮したりすることが必要。これにより、子どもの中でバラバラに散らばっていた知識がつながり合い、構造化されていくのです。

学びの場.com本には、その「知識の構造化」のイメージが4つのタイプに分けて紹介されています。

田村 学概要を簡単にご説明しましょう。   「(1)宣言的な知識がつながるタイプ(ネットワーク型Ⅰ・Ⅱ)」は、宣言的な知識(「A は B である」「A ならば B である」の形で表現される事実としての知識)がつながってネットワーク化し、知識の階層が質的に高まるイメージ。個別の事実としての知識が組み合わさり、「どの植物も花が咲いたところに実がなる」などの概念的な知識へと構造化される「ネットワーク型Ⅰ」と、「子どもは親から生まれてきた」といった中核となる知識に事実としての知識が結びつき、「様々なものに命があり、循環している」などの概念的な知識が形成される「ネットワーク型Ⅱ」の2つに大別されます。
「(2)手続き的な知識がつながるタイプ(パターン型)」は、言語化された手続き的な知識(自転車の乗り方やシャツの着方などの手続きや方法に関する知識)がつながって、連続し、パターン化した一連の知識構造になるイメージ。例えば、柔道の内股を適切に行うための個別の知識をつなぎ合わせ、連動させ、一体的な知識の体系とするように、身体と一体となって自動的に行為できるようになるものが多いことが特徴です。
「(3)知識が場面とつながるタイプ」は、知識が新たな場面や異なる状況とつながり、必要に応じて活用・発揮できる汎用的な知識へと高まるイメージ。例えば、台形の面積の求め方を学習する際に、三角形の面積を求める時に四角形を使った経験や、三角形や四角形の面積の求め方を、繰り返し活用したり発揮したりして考えることなどがこれにあたります。
「(4)知識が目的や価値、手応えとつながるタイプ」は、知識が目的や価値、手応えとつながって、「より適切・適正な」「より持続的・安定的な」行為として表出するイメージ。例えば、挨拶にまつわる「相手の目を見て会釈しながら言葉をかける」といった知識は、表面的な行為に終始するのではなく、相手に心を寄せ、互いの関係がよくなることを願って行為に表すことで「適切・適正」なものとなります。さらに、それが「相手も喜んで挨拶を返してくれた」などのポジティブな感情とつながることで充足感や達成感が得られ、「安定・持続」していきます。

学びの場.comなるほど、タイプ分けすることで「深い学び」が具体的に捉えやすくなりますね。

田村 学はい。この「知識の構造化」の4つのタイプは、「育成すべき資質・能力の3つの柱」で言うと、(1)と(2)は「知識及び技能」に、(3)は「思考力、判断力、表現力等」に、(4)は「学びに向かう力、人間性等」に結び付きます。これをイメージできれば、あとは4つのタイプのいずれかを各教科等の学びのプロセスに落とし込み、展開していけるはずです。

田村学『深い学び』(東洋館出版社,2018年,P63より転載)

「深い学び」で子どもの姿はどう変わる?

学びの場.com「学びが深まる」と子どもの姿にはどのような変化が表れるのでしょうか?

田村 学知識が構造化し、「深い学び」が実現している時、子どもは「なるほど」「そうだったんだ」などの手応えを感じているはず。それはおそらく、とても快適で心地良い状態ですから、子どもの表情は豊かになるでしょう。発言や文章、絵や図に表れることもあるでしょうし、年齢や教科によっては身体的な動きとなって表れることもあると思います。

学びの場.com確かに、この本で紹介されている、小・中学校の様々な教科等における「知識の構造化」4つのタイプの授業実践例でも、生き生きと学ぶ子どもたちの姿が印象的でした。

田村 学教師には、そうした「深い学び」の状態にある子どもの姿を見取る力が求められます。見えにくいものではありますが、「知識の構造化」をイメージし、期待する子どもの姿を想定して授業を仕立て、展開することにより、「あの知識をつなぎ合わせているから、こんな言葉が出たのだな」などと、子どもを見るポイントがつかめてくると思います。そうなれば、期待する子どもの姿を再現することも可能です。日々の授業や授業研究の中で身につけ、磨き上げていってほしいですね。

学びの場.com授業づくりでは、特にどのような点に留意すべきでしょうか?

田村 学「深い学び」の実現には、子どもが「なんでだろう」「どうしてだろう」と自問自答する探究的な学びのプロセスの充実が欠かせません。そのためには、「どのような知識の形成を目指し、どのような学習活動を行うべきか」という単元の到達点や通過点のイメージを明確にすることが大切。その上で、対話や協働などによる豊かな「学び合い」を展開したり、学習内容の確認にとどまらない丁寧な授業の「振り返り」を行ったりすることが必要です。 「学び合い」では、子ども達の学び合いを促進させるファシリテーターの役割を教師が果たすことが重要。子どもの意見に共感しつつ、時には「なぜ」「どうして」と問い掛けて思考を促しましょう。グループのメンバー構成や人数、教材・資料など、期待する学びが具現されやすい学習環境を整えることも有効です。 「振り返り」では、子どもが学習内容を既習の知識と結びつけたり、学習内容によってどのような自己変容があったかに気づいたりして、次の学びへの意欲につながるポジティブな余韻とともに、得たものを持ち帰ることがポイント。学習活動の終末に一定の長さの文章を書くことで、熟考を促すとよいでしょう。

「主体的・対話的で深い学び」の実現は、子どもの視点で考えてこそ

学びの場.com「主体的・対話的で深い学び」を実現するには、これまで以上に教師の指導力が求められるのでは?

田村 学そう思います。ただ、従来の授業の中にも「主体的・対話的で深い学び」はありました。ですから、先生方には自信を持って取り組んでいただきたい。また、個人では難しくても、学校というチームであれば実現できることも多々あります。教師間での意見交換や校内研修はもちろん、授業研究のブラッシュアップにも取り組んでほしいと思います。

学びの場.comより自覚的に授業づくりを行い、質を高めていくということですね。

田村 学そうです。それには、「何を教えるか」という指導者の視点から、「何ができるようになるか」という学習者の視点への、教師の意識転換が欠かせません。今回の学習指導要領改訂では、「学習」ではなく「学び」という子どもを主語とした言葉を使って検討が重ねられました。それは学習者である子どもを中心に考えるということであり、「主体的・対話的で深い学び」、とりわけ「深い学び」の実現における最大のポイントとも言えるのです。 しかしながら、教師の指導性と子どもの主体性は対立するものではなく、相乗効果で高め合っていけるもの。教師には、一人ひとりの子どもの学びに視点を置きながらも、すべてを子ども任せにはせず、学習者が真剣に学びに向かえるような指導や授業改善を行っていくことが求められます。それは教師のやりがいにもつながるはずです。 ベテラン教師には培ってきた経験や技があり、若手教師には変わることを厭わない柔軟な感覚がある。互いに良い影響を与え合いながら、生き生きとした子どもの学びの姿を実現してほしいと思います。

関連情報

グループワークを行う参加者

「教師の知識が駆動する! 田村学『深い学び』ワークショップ」レポート


田村学先生の新刊『深い学び』(東洋館出版社)の出版記念を兼ねた教員限定のワークショップイベントが東京都の3331 Arts Chiyodaにて行われました。
田村先生からの特別講演を主とした「インプット」の第1部と、ご参加の先生方同士グループワークを行う「アウトプット」の第2部、という構成の本イベント。
 
前半では、全国で行われている近年の授業実践から田村先生ご自身の授業実践までを例に、「深い学び」実現への鍵概念である、「知識の構造化」が達成されている子供の姿が具体的に語られました。
 
後半では、書籍『深い学び』に掲載の10事例を各グループで読み解き、「『深い学び』を生み出した要因を見つけ、さらに『深い学び』にするには?」というテーマで、「深い学び」を実現するアイディアをウェビングマップで描いていくポスター制作が行われました。
 
終了後のアンケートでは
「イメージしにくい『深い学び』ですが、具体的な子どもの姿を通してよく理解することが出来ました。子どもの学びの状況、子どもの知識の構造化という視点で見取るということを2学期で実践していきたいです」
「知識を一つの窓として深い学びが語られ、とてもイメージが持ちやすくなった」
などの感想が寄せられ、曖昧だった「深い学び」に対するイメージが変化している様子が見てとれました。
新学期を前に、2020年代の「探究モード」の授業デザインについて、じっくり考える夏休みの1日となりました。

参考資料
  • (1)宣言的な知識がつながるタイプ(ネットワーク型Ⅰ・Ⅱ):田村学『深い学び』(東洋館出版社,2018年,P39~参照)
  • (2)手続き的な知識がつながるタイプ(パターン型):田村学『深い学び』(東洋館出版社,2018年,P46~参照)
  • (3)知識がと場面とがつながるタイプ:田村学『深い学び』(東洋館出版社,2018年,P51~参照)
  • (4)知識が目的や価値、手応えとつながるタイプ:田村学『深い学び』(東洋館出版社,2018年,P58~参照)

田村 学(たむら まなぶ)

國學院大學人間開発学部初等教育学科教授(文部科学省視学委員)
新潟大学教育学部卒業後、小学校教諭、教育委員会指導主事を経て、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官に就任。文部科学省初等中等教育局視学官として新学習指導要領作成に携わる。2017年4 月より現職。主著に、『考えるってこういうことか! 「思考ツール」の授業』『こうすれば考える力がつく! 中学校思考ツール』(ともに小学館)、『授業を磨く』『深い学び』(ともに東洋館出版社)などがある。

取材・文:吉田教子 写真:学びの場.com
図版・ワークショップレポート提供:東洋館出版社(河合)

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