2023.07.10
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大学教育改革30年を振り返る New Education Expo 2023 リポート vol.6

6月1日~3日、東京・有明にて教育関係者向けのイベント「New Education Expo 2023」が開催された。100社を超える展示と120を超えるセミナーが行われ、3日間で延べ7,000名の教育関係者が来場。vol.6では61日(木)に実施されたセミナー「大学『教育』はどう『改善』したか~大学改革の現在地~」をリポートする。

大学「教育」はどう「改善」したか~大学改革の現在地~

早稲田大学 教育・総合科学学術院教授 吉田文氏

18歳人口の急減と、バブル崩壊

大学教育改革の起点

早稲田大学 教育・総合科学学術院教授 吉田文氏

今⽇の⼤学改⾰の起点となったのは1991年2⽉の⼤学審議会答申です。これを受けて同年7⽉に「⼤学設置基準の⼤綱化」が施⾏、⼤学の設置・運営に関する規制が緩和され、さまざまな教育改⾰が始まりました。

⼤綱化の理由のひとつは「⼀般教育」の問題です。それまで⽇本の⼤学では⼈⽂、社会、⾃然、外国語、体育といった⼀般教育が必修であり、それは高校教育の繰り返しと評判がよくありませんでした。また、⼀般教育を担当する教員と専⾨教育を担当する教員は区別されていました。⼀般教育を担当する教員は3、4年⽣を教えることができず、研究費においても両者で差があり不満を持つ教員が少なくありませんでした。⼤綱化によって一般教育の必修はなくなり、大学は自由な改革ができるようになりました。

もうひとつは、⽂部省による計画⾏政の破綻です。⽂部省は、1975年から1990年頃まで「⾼等教育計画」で⼤学等の新増設を抑制してきました。結果として、⼤学・短⼤進学率は30%強で推移し、入学試験でもって入学者の質の担保ができていました。また⼤卒はホワイトカラーとして、楽に労働市場に参⼊することができました。つまり⼊⼝と出⼝の両⽅で⼤学の質を維持できるので、教育内容に着⽬をしなくても問題はなかったとも⾔えます。

ところが1992年に18歳⼈⼝のピーク(205万⼈)を過ぎた後、⼊学定員の抑制という計画は放棄され、分母にあたる18歳人口が減少するなかで⼤学進学率は上昇に転じ、大学進学は容易になりました。また、バブルの崩壊により就職氷河期に突⼊し、⼤卒の⾮正規雇⽤が3割を越える年もありました。⼊⼝、出⼝ともに質保証ができなくなったことも、⼤学「教育」に着⽬される理由の1つです。

さまざまな新制度と組織改革

2023年度の18歳⼈⼝は110万⼈です。少⼦化が進むに伴い、“いかに顧客(学⽣)を確保するか”が焦点となり、さまざまな対策がとられてきました。ここからはこれまで⾏われてきた取組をご紹介したいと思います。

内閣府の経済財政諮問会議や総合科学技術イノベーション会議、また官邸の教育再⽣実⾏会議など⽂部科学省以外の官庁の会議体も、大学改革に関心を示すようになりました。さらに、TLO(⼤学の技術移転)や⼤学発ベンチャーなどの産官学連携においては経済産業省も⼤きな影響⼒を持っています。近年の⼤学改⾰は、さまざまなステークホルダーが関わっているのが特徴です。

機能強化:専門職大学(院)や、機能別棲み分けの試み

1990年からは⼤学院拡充政策が進められました。この時期は⼈⽂系と社会系の⼤学院の拡⼤が図られ、⼀時期は学⽣数が増えたものの、2011年から減少の⼀途をたどっています。2003年には専⾨職⼤学院が制度化され、法科⼤学院が登場しました。⼀⽅で司法試験制度そのものはあまり変わらず、法曹職の定員も増えず、閉校する法科大学院も多くありました。2017年には専⾨職⼤学という制度が作られましたが、参⼊する⼤学は少なく、現存するのは⼤学19校、短⼤3校です。2018年に設けられた「地域連携プラットフォーム」も⼤きな効果が⾒られませんでした。

「競争的資⾦」による⼤学の活性化政策も図られました。2002年には「COE(Center of Excellence/中核的研究拠点)」、2003年には「特⾊GP(Good Practice)」、2004年には「現代GP」、2014年にはAP(⼤学教育再⽣加速プログラム)といった政策が打ち出されました。

さらに2005年には中央教育審議会答申で「我が国の⾼等教育の将来像」で7つの機能(①世界的研究・教育拠点、②⾼度専⾨職業⼈養成、③幅広い職業⼈養成、④総合的教養教育、⑤特定の専⾨的分野(芸術、体育等)の教育・研究、⑥地域の⽣涯学習機会の拠点、⑦社会貢献機能(地域貢献、産学官連携、国際交流等))が、2016年には⽂部科学省から国⽴⼤学改⾰に向けた新⽅針「3つの重点⽀援の枠組み」(①地域貢献、②専⾨分野の優れた教育研究、③卓越した教育研究)が提⽰され、「機能別分化」による棲み分けが要請されました。

組織改革:学長のリーダーシップの法制化や、基幹教員制度

2014年には中央教育審議会⼤学分科会から、学⻑のリーダーシップの確⽴によるスピード感ある改革を⽬指す「⼤学のガバナンス改⾰の推進」という答申が出されました。また、2015年には教授会の存在が学長リーダーシップの確立を阻むとされ、学校教育法の改正が⾏われ、教授会の権限は縮小しました。これにより、法制上は学⻑のリーダーシップは確⽴してきましたが、名実ともにリーダーシップが確立している⼤学は限られているのが現状です。

2003年には専⾨職⼤学院で3割、専⾨職⼤学で4割を「実務家教員」とするという制度が作られました。2010年には教育組織と教員(研究)組織を分ける「教教分離」、2014年には研究者が⼤学や企業など2つ以上の機関との間で雇⽤契約を結び、業務を⾏う制度「クロスアポイントメント制度」、さらに2022年には、専任教員が担っていた役割・⽴場に⾮常勤の教員も柔軟に配置できる仕組み「基幹教員制度」が整備されました。

「基幹教員制度」は年8単位以上の科⽬を担当し、教育課程の編成や学部の運営に従事するといった条件を満たせば、⼀⼈の教員が複数の大学・学部の基幹教員を兼ねることができる制度です。近年、博⼠課程修了者でも研究職への就職が厳しい状況が続いています。こうしたなか、大学院を修了した任期付き教員や非常勤講師がこの制度のもとで雇用され、結果として大学院修了者の労働負荷、正規職への就職が容易でなくなるのではないかと懸念されます。

教育の質保証

また、教育改革の進展状況を評価するための制度も多数整備されました。その⼀つが2004年に導⼊された認証評価制度です。これは国公私⽴⼤学や短期⼤学に対して、⽂部科学⼤⾂の認証を受けた評価機関による第三者評価を受けることを義務付けるものです。評価結果の公表をもって⼤学が社会的評価を受けること、評価結果を踏まえて⾃ら改善を図ることを⽬的としています。

⼀⽅で、外部からの質保証だけでは⾜りないという指摘もあり、大学が、自らが行う教育・研究などの質保証をする「内部質保証」が必要とされるようになり、近年では「卒業認定・学位授与の⽅針」「教育課程編成・実施の⽅針」「⼊学者受⼊れの⽅針」といった3つのポリシーを定め、学内でPDCAサイクルを回すことが要請されています。

2019年には、学位取得にあたり達成すべき能⼒を明⽰し、それを修得させるように体系的に設計した教育プログラム「学位プログラム」という考え方が提案されました。それまでカリキュラムは学部や学科の特性に基づいて編成されていましたが、「学位プログラム」では社会に出たときに必要なスキル養成に着⽬される傾向にあります。さらに学⽣がどんな能⼒を⾝につけたか、⼤学は学生の学修成果を公表することが求められるようになりました。

改革の現在地

最後に⼤学教育改⾰の現在地についてお話ししたいと思います。今年5⽉に中央教育審議会⼤学分科会第12期が始まりましたが、そこでは⼀番の課題として少⼦化時代における⼤学の在り⽅が掲げられました。

1991年から約30年間かけてさまざまな少⼦化対策が実⾏されてきた中、「さらに改⾰せよ」ということで、改革が⾃⼰⽬的化しているという印象を受けました。改革の効果がなかなか大学の外から見えにくいという状況ではありますが、⼤学は今⼀度振り返り、どのような取り組みをすべきか選択的に検討しなければならないと考えます。

記者の目

少子化の影響で私立大学の4割が定員割れを起こしているという近年。大学を取り巻く経営環境は大変厳しい状況にあることを知ることができた。文部科学省や官邸、経済産業省といったステークホルダーが起点となる改革に加え、大学自らがさまざまなイノベーションを創出することも多大なインパクトを与えるに違いないだろう。

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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