2023.06.19
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AIの台頭めざましい今、 学校教育はどう変わるべきか。 New Education Expo 2023 リポート vol.3

急速な進化を続ける情報技術。特にChatGPTをはじめとする生成AIは、教育界のみならずビジネスの世界にも、大きな変革をもたらし始めている。今、教育現場はどうあるべきか。何を変えねばならないのか。中央教育審議会に新設されたデジタル学習基盤特別委員会の委員長に就任した堀田龍也教授が、満席の聴衆に語った。

【基調講演】教育の情報化の現状と課題

東北大学大学院 情報科学研究科 教授/東京学芸大学大学院 教育学研究科 教授 堀田 龍也氏

通知表の所見すら書ける生成AI。

AIを恐れる前に、まず自分で試してみるべき

講演の冒頭、堀田教授は、ご自身がChatGPTに書かせたある文章を披露した。「授業に集中できない小学校1年生に対する通知表の所見を書いて」と、ChatGPTに命じたのだ。

「粗もありますが、なかなかいい所見だと思いませんか? こういうツールがあれば、若い先生は助かるのではないでしょうか。丸写しせよと言ってるのではありません。ChatGPTが作成した文を、参考にすればいいのです」

堀田教授は、生成AIの優秀さを報じるニュースを次々と例示した。ChatGPTに日本の医師国家試験の問題を解かせてみたところ、なんと合格点を獲得した話。AIを用いて書かれた小説が、星新一賞を受賞したニュース。その一方で、学校現場でAIの利活用を禁止すべきという意見があることに、堀田教授は疑問を投げかけた。

「AIは怖い、危険だ、だから禁止しようという前に、まずはご自身で使ってみてはどうでしょうか。包丁を考えてみてください。包丁が凶器として使われる事件も発生しますが、だからといって包丁を一律に禁止しようとはなりませんよね?

過去を振り返ると、検索エンジンが出始めた頃、『簡単に答えが見つかるようなモノを使ったら、調べたりまとめたりする力が育たない』と、利用を禁じる学校もありました。しかし今では子どもも大人も、検索エンジンを仕事でも学びでも生活でも、フル活用していますよね。AIも将来的には欠かせないツールになるのは間違いありません。そもそも人口が急激に減少している日本では、AIや情報技術の力を借りなければ、社会を維持できません」

情報技術の進化に合わせ、 学校教育も変わらなければ。

「情報技術が急速に進化する今、学校教育はどうあるべきか、教育内容の見直しも含めて、真剣に考えねばならない」と、堀田教授は指摘する。

「たとえばAIが優れた文章を書けるようになった今、作文教育はどうあるべきか。極端な話、字を書く機会が激減しているのだから、『漢字は読めさえすればいい。書ける必要はない』という意見さえも、出てきています」

AIのサポートを受けることで、教育内容を削減したり、効率化できるかもしれない。逆に言えば、ICTを使えば簡単に代替できる能力を、今まで通りのやり方で時間をかけて育成していたら、カリキュラムオーバーロードに陥る恐れがあります」

学習指導要領では、「情報活用能力」が「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけられた。子どもたちが情報活用能力を駆使できる前提で、教育内容は定められている。なのに、情報活用能力を育もうとせず、GIGA環境も使わず、従来の教育方法に固執すれば、先生も子どもも苦境に立たされる恐れがある。

しかし、昨年文部科学省が行った「情報活用能力調査」では、厳しい現実が明らかになった。

「これは1分間に入力できる文字数のデータですが、中・高校生(それぞれオレンジ・緑)は正規分布になっている一方で、小学生(青)はいびつな分布になっています。1分間に10文字未満しか入力できない小学生が、約3割もいる。小学1年生ではなく、5年生ですよ? これでは端末を使って学習を進めるのは難しく、子どもは苦しいでしょう。

文字入力は、適切に練習すれば、誰でもできるようになります。なのに入力できない子どもがこれほどいるのは、練習させてない学校があるということ。みなさんの学校は大丈夫ですか?」

他者参照はカンニングではない

GIGA時代の教育観とは

東北大学大学院 情報科学研究科 教授/東京学芸大学大学院 教育学研究科 教授 堀田 龍也氏

注目すべきGIGA活用の一つとして、堀田教授は「他者参照」を挙げた。クラウドで、友だちの成果物を見られる。その制作過程も、知ることができる。「他者参照」の意義を理解するには、従来の「教育観」を変えようと、堀田教授は促す。

「答えが一つしかない時代の学びでは、『他者参照=カンニング』だと、先生方は禁止していました。しかしこれからの学びでは、答えは一つではありません。

最初は丸写しするかもしれません。でもそのうち、丸写しでは飽き足らず、自分なりに工夫して、自分の言葉でまとめるようになっていきます。先生方も、若い頃はベテラン先生の指導案や授業を参考にしましたよね。最初は真似から入ったけど、慣れてきたら、自分なりに工夫を凝らすようになっていきましたよね。

これがGIGA時代の学びです。GIGA先進校では、他者参照を推奨しています。他者参照して、他者のいいところを吸収して、自己を更新していく子どもが育ってきています」

「紙かデジタルか。どちらがよいか」という議論にも、堀田先生は明快な答えを示した。

「紙には紙のよさ、デジタルにはデジタルならではの良さがありますが、どちらを使うかは、利用者である子ども一人ひとりが決めるべき。先生が『調べたことは端末で整理しなさい』『最後にノートにまとめなさい』と、細々と指示するのではなく、『Aさんは紙でまとめるが、Bさんはデジタルでまとめる』でいいんです。

今だって、ぼくの講演を聴きながら、ノートにメモしている人もいれば、PCでタイピングしてる人もいますよね? なのにぼくが『ノートにメモするのは禁止。PCやスマホならOK』と強制したら、困るでしょう。大人と同じように、学びの方法を子どもが自由に選択できるようにしましょう」

個別か協働かも、子どもに自由に選択させるべきと、堀田教授は言う。「はい、班で話し合って」「今は一人で考えて」と先生が指示するのではなく、子ども一人ひとりが自分で判断する。そういう力を養っていかねばならない。

「神奈川県の小学校の校長先生がおっしゃっていたたとえ話です。今までは、先生はスクールバスの運転手でした。先生がハンドルを握り、先生が考えたコースを、先生のペースで、先生が決めたゴールに向かって、クラス全員を連れて行きました。これからは子どもたち一人ひとりが自らハンドルをにぎり、自分のペースで、自分のゴールを目指すようになるべきです」

働き方も、教育観も、能力観も変わるべき。

「アンラーン」の時代

「働き方」も変えねば、ならない。GIGA先進校では、職員会議を廃止して、クラスルームやチャットで、業務連絡や情報交換、さらには授業研究まで行っている。一方で、クラウドでの校務を厳しく制限し、未だにUSBメモリを使っている自治体もある。

「クラウドで仕事ができれば、帰宅して家事や子育てをしてから、仕事を再開できます。民間ではこうした働き方が今や当たり前なのに、学校は相変わらず昔のまま。このような環境で、若い人が働きたいと思うでしょうか?」

「アンラーン」。これこそが今、大人に求められていることだと、堀田教授は訴えかけた。

「これまで得た知識、成功体験、常識を選別し、捨てましょう。昔の価値観のままでは、GIGA環境が整備された意義も、活用するメリットも、育てるべき人材像も理解できません。今までの授業観、能力観、教育観を、時代に合わせて更新しましょう」

記者の目

実はこの記事もAIの手助けを得て、書いている。と言っても、私が書いた文章を添削・校正してもらった程度だが、それでも執筆時間の短縮と質の向上に大いに役立った。AIの進化はめざましく、「記者」という仕事がなくなる日も近い、と私は感じている。GIGA先進校の先生方も、「このままでは教師という仕事が、AIや授業動画に取って代わられる」と危機感を抱き、「教える」授業から子どもが「学ぶ」授業へと、舵を切ったと聞いている。
今我々大人は、「アンラーン」しなければならない。とても過酷で、厳しい道のりだが、アンラーンしなければ、生き残れない。

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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