2005.10.04
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ネイホウ! 香港より教育事情探訪記(vol.7)

今回のテーマは香港の幼稚園事情です。

室内のプレイグラウンド

室内のプレイグラウンド

常に目を光らせる警備員の監視と高い門扉に守られた入り口。中国のビッグイベントである中秋節を祝う色とりどりの飾り。室内の硬いタイルのプレイグラウンドを走り回る園児たち。取材先の幼稚園に着くなり、このような光景がわたしの目に飛び込んできました。

今回わたしが訪れたのは、九龍(カオルーン)のやや郊外に位置するミッション系の聖三一堂曾肇添幼稚園。日本と同様に4歳から6歳の幼児が通っています。日本と大きく異なる点として、慢性的な土地不足を打開するために午前と午後でクラスが分けられていることがあげられます。

また、わたしが取材に行ったときは、新しい年度が始まったばかりであったため、(香港では9月から新年度が始まる)4歳の園児たちは、新しい環境に徐々に慣れるように数時間のみで帰宅していきました。クラスサイズは、各学年に30人×2クラスとで計6クラス。各クラスを2人の保育士が担当します。

備品には必ず中国語と 英語の表記が

備品には必ず中国語と 英語の表記が

教室の机の配置や掲示物の作成は、それぞれ担当の保育士に任されているそうです。各教室内には、園児の学習用の机、イスが常に大半のスペースを占有しており、ところ狭しと絵本やビデオ、カセットテープなどの学習教材や、PC、プリンタ、CDラジカセ、ホワイトボードなどが並んでいます。(教室自体の大きさは、5×10mほど。)わたしが幼少の頃に通った公立の幼稚園には、教室内にたくさんおもちゃが置いてあったのを記憶していますが、この幼稚園にはおもちゃと呼べるものはほとんどなく、教室内は学習のための教材で溢れているのが印象的でした。

普通教室のほかにも音楽教室、図書館が備わっており、園児たちはほぼ毎日それぞれの教室を利用して学習します。図書は園の予算で購入するか、保護者の寄付で揃えているのだそうです。

中秋節の飾り。

中秋節の飾り。

香港の幼稚園児たちは、早くも小学校受験に向けて熱心に学習を始めます。わたしたち日本人が、ひらがなの練習から日本語の学習を始めるように、香港の園児たちは広東語の完璧な習得のためには漢字の学習が必要不可欠であり、漢字の練習の宿題が毎日課せられます。

また、彼らは母国語の広東語のみならず、中国語・英語の学習も4歳から始めます。中国語・英語の学習はもちろん義務ではありませんが、小学校の受験戦争を勝ち抜くために必要不可欠というから驚きです。

この聖三一堂曾肇添幼稚園では、毎日英語の授業がありますが、週に1回ネイティブの先生による授業が行われます。今回は、幼児教育が専門で、香港で長年幼稚園児たちに英語を教えてきたベテランのマリーン先生の授業を見学させてもらいました。園からは特にカリキュラムや教材などを指定することはなく、授業はすべてマリーン先生が手作りで行っています。

園児たちは、大きなイラストなどの視覚情報も頼りにしながら、マリーン先生の英語のみの説明に一生懸命耳を傾けます。先生の問いかけにも活発に答え、「Me! Me!」と自分をアピールする園児もたくさんいました。最終学年になると、練習するフレーズもやや難易度が上がります。マリーン先生から文法の説明などはありませんが、5W1Hの疑問文も学びます。

マリーン先生の英語の授業

マリーン先生の英語の授業

授業を見学させてもらった後に先生のご厚意でお話をする時間を設けてもらいました。マリーン先生は、「子供たちが、英語を話すことを躊躇せず、外国人とも英語で楽しくコミュニケーションを図れるようになってくれるといいわね。」と、香港で園児に英語を教え続ける意欲を語ってくれました。
楽しんで始める英語の学習も、数年後には受験のための学習に変わってしまうことは周知の事実であり、“楽しい授業”をモットーにしている先生は胸を痛めているようです。30人の園児に教えるのは大変ではないのか、という問いかけに「確かな教える技術と十分な愛情があれば、そう難しくはないものよ。」と答えた先生の笑顔が大変印象的でした。

マリーン先生の手作りの授業のほかに、園児たちは英語の学習に各教室に設置してあるPCを使うこともあります。市販のソフトウェアを使用し、ゲーム感覚で単語のスペリングを確認したりするようです。PCの利用をしている幼稚園はそう多くないようで、園としては設備の良さに自信を持っているようです。

園児たちが熱心に取り組むのは勉強ばかりではありません。劇やコーラスを発表するおゆうぎ会や、教会を使った模擬結婚式、焼き芋大会などの園内での活動をはじめ、園の外に出てスーパーやファーストフード店での購入体験、科学館見学、ビーチでの海水浴など、3年間のカリキュラムの中にはたくさんの活動が計画されています。

香港という土地柄から、中国本土の幼稚園とも交流しているそうです。園児同士の交流だけでなく、保育士の交換留学も行われているとのこと。
そして、本土から香港に来た保育士は中国語の授業を担当します。同じ国内の幼稚園ではあるものの、本土と香港では環境や文化が大きく異るため、カリキュラムも全く異なります。幼稚園で3つの言語を学習する香港とは違い、交流先の本土の学校では母国語以外の言語学習は重点を置いていないのです。

校長先生と マリーン先生と共に

校長先生と マリーン先生と共に

また、十分に運動をする機会の少ない香港の園児に比べて、本土の園児たちはスポーツが得意なのだとか。この取材先の幼稚園には、室内にしか運動をできるスペースはありません。15×15mほどのスペースですが、香港の幼稚園の中では比較的広いのだそうです。

今回の幼稚園の訪問ではまず、園児たちは学習するために園に通っているということに驚きました。わたしが幼少の頃に通った地元の公立幼稚園とは何もかもが異なり、楽しそうな英語の授業を見ては羨ましく思ったり、室内の狭いプレイグラウンドを見ては少し寂しく感じたりしました。香港の子供たちが最初に通う教育機関の幼稚園。その後小学校受験から始まる9年間の義務教育、大学進学のための2つの公開テストなど、香港の厳しい教育事情を幼稚園で垣間見ることができたような気がします。

<取材先>
聖三一堂曾肇添幼稚園(蔡月英校長)

取材・文 須藤綾子

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