2006.09.26
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ウィルダネスセラピーと子どもたち アメリカ・オレゴンより

今回は、アメリカオレゴン在住の阪元千穂さんからの投稿です。阪元さんが現在働いているアスペンアチーブメントアカデミーという学校で行われている、日本ではあまり例のないプログラムのご紹介です。

悩みを抱える子どもたちの最後の行く先は

砂漠地帯の埃と日差しの中を生徒たちは黙々と歩きつづける

砂漠地帯の埃と日差しの中を生徒たちは黙々と歩きつづける

アスペンアチーブメントアカデミーは普通の学校ではない。ここには様々な問題や悩みを抱える子どもたちが集まってくる。多くの子どもたちは薬物、アルコールの常用、学校をさぼる、親に反抗、暴力をふるう、盗み、嘘の積み重ねなどの問題を抱えている。薬物の常用にとどまらず売人になってしまう子ども、ギャングに所属する子どもも多くいる。自分を傷つけ、家族を傷つけてしまう子どもたち。何度も逮捕されて、少年院とこの学校との選択を迫られてやってくる子どもたちもいる。

 アスペンアチーブメントアカデミーでは、ウィルダネスセラピーというプログラムが実施されている。ウィルダネスとは、手つかずの自然、荒野、といった意味で、ここに来た子どもたちは、荒野の中に放り出され、8~10週間、自分の力で移動しながら過ごしていく。

大自然の厳しさ、そして自分自身と向き合う

慣れない野外での生活に加え、キャンプファイアー用の火はセージの枝を使って作ったボウドリル(火を起す道具)で起こさなくてはならない。雨が降ってもグランドシートを使った簡易な覆いだけがその日の宿になる。どんなに怒ってみても叫んでみてもそこにあるのは大きな自然だけだ。
  • 太陽が沈むと気温は一気に下がる。

    太陽が沈むと気温は一気に下がる。

  • 6月の半ばでも雪が降ることもある。

    6月の半ばでも雪が降ることもある。

こんな子どもたちの怒りと悩みをスタッフはじっくりと時間をかけて聞いてあげる。自然の中で時間だけはたっぷりとある。もうこんなのはやっていられないと道端に座り込んでしまう子どもがいると、スタッフはグループの活動を止めて、なぜここにいるのか、何がその子どもをそんなに辛くしているのか話し合っていく。初めはかたくなに口を閉ざしていた子どもが徐々に心を開き、自分の過去を話していく。
時には標高10,000フィートを超える山岳地帯を歩き回ることもある。

時には標高10,000フィートを超える山岳地帯を歩き回ることもある。

週に一度はセラピストがやってきてセラピーが行われる。学校の単位に換算することのできる教科も野外で教えられる。都会で育った子どもたちがこういった原始的な生活をするのには多くの苦労がいる。それに加えて初めて両親から離れて生活することも加わり、最初の1週間は泣いて、怒って、疲れきってぼろぼろになってしまう。そんな子どもたちをスタッフはじっと見守り、励まし、じっくりと話を聞いて意見を述べる。子どもたちになぜここにきたのかを考えさせ、自然の中で自分と向き合うことを教える。自然の中で生活することは子どもたちに多くを教える。

 火を起すことができなければ暖かい食事はとれない。雨が降ったとき、すぐに雨具が取り出せないようなら濡れてしまう。すべて自分の責任だ。雨が降っても、暑い日ざしが照り付けても誰も責めることはできない。世の中には自分の力ではどうにもならないこともあるのを悟らなければならない。

両親との再会

与えられた課題をこなし、自分の過去を見つめ本当の自分と素直に向き合うことができたとき、生徒はイーグルの称号を与えられその功績をスタッフや仲間たちから称賛される。全ての生徒がイーグルになれるわけではない。たくましく自分の力で大空にはばたくことはたやすいことではないのだ。

与えられた課題をこなし、自分の過去を見つめ本当の自分と素直に向き合うことができたとき、生徒はイーグルの称号を与えられその功績をスタッフや仲間たちから称賛される。全ての生徒がイーグルになれるわけではない。たくましく自分の力で大空にはばたくことはたやすいことではないのだ。

2ヶ月以上をこうして野外で過ごした後、卒業式の日がやってくる。長い別離のあと初めて両親と顔を合わせる子どもたち。両親の姿が見えたとたん思わず駆け出してしまう。全てを忘れてしっかりと両親と抱き合う。卒業のセレモニーの中で、両親は子どもの目を見つめて、その子のどこを愛し、どこを誇りに思っているのか告げるように指示される。子どもたちは両親がどんなに自分を愛しているかを初めて悟る。両親は自分の子どものたくましく健康になった姿に驚き、その瞳の中に以前と違った何か、「希望」を見出す。

 もちろんこれはほんのスタートに過ぎない。薬物の中毒やそれまでの生活から自分を変えるのはそんなに簡単ではない。多くの子どもたちは、ここからさらに寄宿舎学校へと送られる。新しいスタートを切るためだ。ただ、この2ヶ月以上の荒野での生活は、子どもたちに新しい何かと自分の中に潜む強さを悟らせる。この経験が次の困難を乗り切る助けになるようにと、私は心の中で祈りながら子どもたちに別れを告げる。(※生徒のプライバシー保護のため、建物、人物の写真は掲載することができません。ご了承ください)

アメリカ在住:阪元千穂

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