プレハブの校舎で学ぶ子どもたち 中米ベリーズより
今回は中米の小さな国、ベリーズ在住の奥野歩さんからの話題です。4年前に創立されたビショップ・マーティン小学校の一番の悩みは資金不足。しかし、先生も生徒も笑顔が絶えません。その理由とは?
設備がなくても元気一杯!
私は今、中米のベリーズという国で音楽を教えています。JICA(国際協力機構)の事業のひとつである青年海外協力隊員として、2005年9月から派遣されています。
「ベリーズ」と聞いても、ほとんどの日本人が首を傾げることでしょう。無理もありません。イギリスから1981年に独立したばかり、グァテマラの東、メキシコの南に位置する四国ほどの大きさしかない小さな国です。ベリーズは中米で唯一、英語が公用語の国でもあります。
私の勤めるビショップ・マーティン小学校(Bishop Martin R.C. School)は4年前に創立されました。生徒数の増加により隣の小学校だけでは納まらなくなったためです。しかし、学校の建設は、政府の資金ではなく、スペインのボランティア団体からの寄付でなされたようです。校舎はプレハブで作られており、塀も門もなく草むらの中に建っています。そしてここで440人の子どもたちが学習しています。
午前8時。登校の時間です。徒歩でやってくる子、自転車に2人乗りしてくる子、軽トラックの荷台に積まれてくる子、ガタガタの砂利道を皆それぞれに通学してきます。
私はJICA事務所から貸与されている自転車で学校に向かいます。パンクの繰り返しに思わずため息……。汗と涙の通勤です。
8時30分、朝礼です。ベリーズ国旗のたなびく空の下、全校生徒が国家を斉唱します。もちろん、アカペラで。その後、校長講話なのですが、ここにはマイクなどの設備がないため、校長先生は全員に聞こえるよう声を張り上げて話します。生徒の方も必死。校長先生の周りに円形になって体をすり寄せながら並び、一生懸命にお話を聞いています。マイクがなくても、お互いの努力でそれをカバーする。ほのぼのとした集会に毎回感心させられています。
集会のあと、午前の授業が始まります。生徒はとても真剣に授業を受けています。私語なんて全くなく、真面目そのもの。ベリーズの公用語は英語ですから、授業は全て英語です。しかし、この学校のほとんどの子にとって、第一言語はスペイン語なのです。というのは、この街はグァテマラとの国境10キロのところに位置し、車で少し走るとすぐにスペイン語圏だからです。
たて笛はなんと日本のお下がり
さて、この学校の一番の悩みは何と言っても資金不足です。小学校は義務教育でありながら、政府から出される予算は、先生たちのお給料のみ。電気代、水道代など学校の運営にかかる資金は生徒からの授業料でまかなわなければなりません。しかし、家庭が貧しく、毎月5ドル(約300円)の授業料さえ払えない子もいるため、なかなか資金繰りがうまくいかないのです。
各教室には、それぞれの先生が市販の教材をディスプレイしていますが、これらは全て先生たちのポケットマネー。また、校庭のブランコやシーソーは校長先生の手作りです。
先生が生徒のために情熱を注ぎ、生徒がそれに一生懸命こたえる。お金はなくても、この学校には温かいハートがいっぱい! 先生も生徒も毎日、笑顔が絶えません。
人間の本当の豊かさって、なんだろう? 人と人の優しさが交流するこの学校で、私は心のゆとりと安らぎをもらっています。
今回寄稿していただいた奥野歩さんの著作『わたし、南の島で先生しました』をご紹介します。奥野さんが青年海外協力隊でミクロネシア連邦に派遣された2年間の活動の記録です。ヤシの木がそびえ、ハイビスカスが咲き乱れる小さな学校を舞台に、様々なストーリーが展開されます。そこでは、新年度に名簿がなく、授業は木の下と何もかもが日本と異なる中、元気な子どもたちと奮闘した様子が生き生きと描かれています。
現在、公立学校にお勤めの先生には「現職教員特別参加制度」が適応され、青年海外協力隊に参加しやすくなりました。興味をお持ちの方は、ぜひ一度、この本もご覧ください。
◆ ベリーズ便り
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ベリーズ在住:奥野歩
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