2006.10.24
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アイルランドの第一公用語を守れ!

今回は、アイルランド・クレア(Clare)在住の小島瑞生さんからの話題です。アイルランドでは第一公用語のアイルランド語の話者はたったの2~3%、第二公用語の英語はほぼ100%という逆転現象が起きています。

母国語・アイルランド語が国民に忘れられてしまう!?

アイルランドではお馴染みのパブの壁にあるレトロな看板もアイルランド語。

アイルランドではお馴染みのパブの壁にあるレトロな看板もアイルランド語。

日本の公用語といえば日本語であるが、世界を見渡してみるとこの公用語が複数ある国は少なくない。私の在住するアイルランドもそんな国の一つだ。第一公用 語がアイルランド語(ゲール語)、そして第二公用語が英語となっており、街の交通標識や掲示などはすべてアイルランド語と英語の二ヶ国語で表示されてい る。

しかし日常生活の中でより多く使われているのは第二公用語の英語で、ほぼ100%のアイルランド人が英語を話せるのに対し、第一公用語のアイルラ ンド語に関しては、日常生活でのアイルランド語話者がたったの2~3%だ。このような逆転現象が起きてしまった背景には、アイルランドが何世紀にも渡って 英国支配を受けてきたことがある。その結果、自分たちの母国語のアイルランド語が国民に忘れられつつあり、英国の言葉である英語がそれに取って代わられて いるという危機に陥っているのだ。

アイルランド語教育に力を入れるものの…

そこで国は、母語復興のためのさまざまな努力をしており、その一つにアイルランド語教育がある。小学校から高校までアイルランド語が必修科目、大学受験の 時の必須受験3科目にもアイルランド語が入っているなど、徹底してアイルランド語教育に力を入れているのだが、なかなか成果は出ていない。というのは、普 段使うことがないため、学校を卒業してしまえばすぐに忘れられてしまうからだ。しかしそれがこのまま続けば自分たちの母国語を失う可能性があり、状況はか なり深刻である。国は、その他にも授業を全部アイルランド語で行うアイルランド語イマージョン教育の学校を建てたり、ゲールタハトと呼ばれるアイルランド 語のみで生活している地域(アイルランド西部など)へ生徒を短期留学させたりするプログラムを始めたりもしている。
  • アイルランド語と英語2ヶ国語表示の標識(上段;アイルランド語、下段;英語)

    アイルランド語と英語2ヶ国語表示の標識(上段;アイルランド語、下段;英語)

  • 小学校の校門にもアイルランド語で学校の名前が書いてある。小学校は国立が主である。

    小学校の校門にもアイルランド語で学校の名前が書いてある。小学校は国立が主である。

母国語を失うということは?

地区や住所の名前もアイルランド語で表記されていることが多い。この地区は「王の要塞」というちょっとかっこいい名前である。

地区や住所の名前もアイルランド語で表記されていることが多い。この地区は「王の要塞」というちょっとかっこいい名前である。

これに対して国民の意見は賛否両論だ。一つは「アイルランド語が話せても意味がない」という意見。確かに英語ができたほうが、ビジネスなどの面でいろい ろ有利だ。それに英語は世界の公用語の一つであるというのも大きいだろう。逆に「国民はアイルランド語を話せるべきだ」と主張する人も多い。その言語を失 うということは、それに関連する文化や思想なども失うということだ。その国の良き伝統や知恵がなくなるのは大きな痛手である。もし将来日本で、日本語が英 語に取って代わられたらどうなるだろう、と考えると外国人の立場ながら、アイルランド語の行方が気になってしまう。

ふと窓の外を見れば、近所の男の子が自転車に乗って遊びに行くところだった。私に気づいたその男の子は屈託ない笑顔で私に「スローン!(アイルラ ンド語で「さよなら」の意)」と叫んで走り去っていった。がんばれ子どもたち! アイルランド語の将来は君たちの双肩にもかかっている。

小島瑞生のアイルランド語基礎会話

スペル読み意味
Dia duit ar maidin! ディア グイッチ エア マジーン お早うございます!
Dia duit! ディア グイッチ こんにちは
Maith thu! マフー よくできました!
Cad e sin? カデシン それは何ですか?
Cad is ainm duit? カディス アニム ディッチ お名前は?
Ta ocras orm. ター オクラス オルム お腹がすいています。
Slainte! スローンチェ 乾杯!
Go raimh maith agat グラマハガットゥ ありがとう
Failte フォールチェ どういたしまして
Oiche mhaith イヒョワ おやすみなさい
Slan! スローン さよなら・じゃあね!

アイルランド便り

  • アイルランド南西部にあるジョン王の城(リムリック州)。 アイルランドには古城がいたるところにある。

    アイルランド南西部にあるジョン王の城(リムリック州)。 アイルランドには古城がいたるところにある。

  • のどかなアイルランドでよく見かける羊たちの食事風景。羊の毛が赤いのは、目印用の染料。怪我をしているわけではないのでご安心を。

    のどかなアイルランドでよく見かける羊たちの食事風景。羊の毛が赤いのは、目印用の染料。怪我をしているわけではないのでご安心を。

  • 「アイリッシュブレックファースト」と呼ばれる伝統的な朝ご飯はボリュームたっぷりだ。何種類ものパン、コーンフレーク、ソーセージ、目玉焼き、ヨーグルト、果物、ベーコンなどとても食べきれない。

    「アイリッシュブレックファースト」と呼ばれる伝統的な朝ご飯はボリュームたっぷりだ。何種類ものパン、コーンフレーク、ソーセージ、目玉焼き、ヨーグルト、果物、ベーコンなどとても食べきれない。

  • 「ケルティッククロス」と呼ばれるアイルランド特有の十字架。

    「ケルティッククロス」と呼ばれるアイルランド特有の十字架。

  • アイリッシュミュージックの演奏に使われる楽器。左端からアコーデオン、ティンホイッスル(ブリキの笛)、フィドル(バイオリン)、バウロン(打楽器)。

    アイリッシュミュージックの演奏に使われる楽器。左端からアコーデオン、ティンホイッスル(ブリキの笛)、フィドル(バイオリン)、バウロン(打楽器)。

アイルランド・クレア在住:小島瑞生

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