2006.07.25
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ドイツの高等教育事情 卒業資格試験に始まる大学進学

今回は、ドイツはルートヴィヒス ハーフェン/ムターシュタット (Ludwigshafen am Rhein/ Mutterstadt)にお住まいの、シュピッツナーゲル典子さんからのご投稿です。 お子さんが、17歳でドイツ大学入学必須のギムナジウム卒業資格試験に合格し学生生活が始まったのをきっかけに、母親として体験したこと、そしてまた日本の大学生活とは異なる様子を報告してくださいました。

卒業資格試験への合格が大学の入学条件

ラインランドプファルツ州(Rhainlandpfalz)の卒業資格試験(Abitur) 要覧

ラインランドプファルツ州(Rhainlandpfalz)の卒業資格試験(Abitur) 要覧

昨年10月長女イザベラの待ちに待った大学生活が始まった。とは言えここドイツでは大学生に至るまではいくつかの関門を通過せねばならない。

まず日本で行われる入学試験がなく、入学条件はギムナジウム13年生終了時点での卒業資格試験(Abitur)の合格が必須で、その合格点数により本人の希望大学、あるいは学部への願書提出が可能となる。また学部(医学部、薬学部、哲学部、生物学部など)によっては、大学入学志望者委託本省(ZVS=Zentralstelle fuer die Vergabe von Studienplaetzen)へ願書を提出して、試験成績いかんで国内各大学へ入学が振りわけられる。16州あるドイツ国内、それぞれの州によりこの卒業試験時期が異なるため、合否決定は3月より5月末と時間的な幅がある。よって入学申し込みはたいてい7月、8月で、合格通知なるものは8月末より9月に郵送にて知らされる。

我が家のあるラインランドプフアルツ州では、この卒業資格試験が他の州に比べてとても早く、クリスマスお正月休み明けの1月中旬に筆記が、また口頭試験は3月中旬に行われる。その間とにかく風邪を引いたり体調を崩したりしないようにと、生徒も家族も神経ピリピリの状態である。筆記試験が終わると小休止となるが、それと同時にそこはまだ若い生徒達、パ-テイを開いたり、スキーシーズンとばかりに旅行に出たりと気分転換にも一生懸命で、口頭試験が始まるまでの間いつものように授業があるにもかかわらず、親の心配をよそにエネルギーを発散するのに大忙しだ。とにかく3月末には全て終了し、生徒たちにとって人生のひとつの大きな区切りとなる。

合格後の進路選びは千差万別

卒業資格試験が終わっても、全員が大学に進学するとは限らない。卒業後まず職業につき、自分の行きたい方向を探すためしばらく大学入学を見送る人、職業訓練期間を経てそのまま社会に出る人、または全男子生徒に待ち構えている9ヶ月間の兵役義務に就く人、戦争反対の理由で兵役義務にはつかずそのかわりに病院や公共施設での奉仕活動に携わる人(どちらにしても大学入学希望者は2学期つまり1年遅れて入学となる)、または希望大学の学部必須点に足らず1、2学期または何年も待って初心を貫く人(ちなみに1学期待つと、その度にAbiturの点数がすこし繰り上がる為、入学の可能性も高くなる)、あるいは稀に卒業試験中にすでに申し込みを入れ1学期早く大学生活を始める人、不運にも卒業試験で合格点がとれず13年生をもう1度、2度と繰り返す人、あるいは冬学期が始まる9月から10月までの長い間をアルバイトで過ごす人などとまったく千差万別だ。

こうして我が家の長女も皆と同じように一喜一憂して17歳にして卒業試験に無事合格し、4月から9月の間はホテルのレストランでウエイトレス、また新聞社で研修生として編集、取材、記事収集の仕事に携わってみたり、家庭教師などのアルバイトをして半年間をすごしたのである。

授業料はタダ!?

ハイデルベルク大学旧校舎、 現在は学長舎

ハイデルベルク大学旧校舎、 現在は学長舎

秋の訪れと共に待望の入学許可通知をいくつか手にし、結局イザベラはハイデルベルク大学(バーデン ウルテンベルク州)への入学を決めたが、ここドイツでは学生援護会への入金(ハイデルベルクの場合1学期100ユーロ程度)のみで入学金や授業料なるものが一切なく、親としては本当に助かるのが本音だ。ただし政府は昨年方針を変え2007年度より授業料徴収開始のサインを出した。州や大学により開始時期がまちまちであるが、1学期500ユーロで主に構内施設向上のために使われるようである。

ただしこの授業料も本人の住んでいる州以外の大学入学のときに限り適用される。これはドイツの大学が州立であることに起因しているので、保護者つまり親が税金を納めていることで州居住者は無料となる。日本に比べるとまだまだ安いとは思うが、この授業料節約のため州内大学入学希望者が増えているのも事実である。ともあれ今までなかった出費はこちらの学生あるいは親にとっては大変なことで、反対デモが今もってあちこちで行われている。

寮生活がスタート

学生寮にあるイザベラの個人部屋

学生寮にあるイザベラの個人部屋

そして10月、いよいよ待ちに待ったイザベラの大学生活が始まった。5月生まれの彼女は18歳、ギムナジウムを1年短縮して17歳で卒業試験パスしたので最年少、他の学生とうまく折り合っていけるか親としては心配ではあったが、知り合った学部内の仲間たちは20歳から始まって26歳と様々である。さっそく親しい友人もでき、毎日楽しみに通学していたが、12月には運良く学生寮に空きがあるのを聞きつけて、待っていましたとばかりに入寮を決めてしまった。

確かに我が家から毎日バスと電車での通学には時間がかかる。講義が夜8時近くまである日は9時半の帰宅、そして翌朝遅くとも7時30分に家を出てと、ドイツの暗い冬の間は無事に何事もないようにといつも案じていた。ハイデルベルクに空き部屋を見つけるのは容易なことではないとわかっていただけに、この知らせに喜んだらいいのか悲しんだらいいのか、とにかく手続きを済ませ視察に出かけた。

この寮12階建てそして日本と違い男女混合で、個人部屋以外各階毎に共同のキッチン、バスルーム、トイレそしてバルコニーがある。部屋には机、ベッド、本棚そして洗面所があり、テレビやコンピューターの持ち込みができ、また外部の友人たちが訪問したり寝泊りするのも自由である。あらゆる学部の学生が一緒に住んでいるのはもちろんのこと国籍も様々で、地下にはパーテイルームなる大部屋があり、交流の場として利用されている。

ちなみにイザベラの寮は大学病院の近くということもあり医学部や物理数学系学部の学生が多いようだ。便利なことに学期休み中も本人がいたければ好きなように寮ですごす事ができたり、部屋を又貸ししてお金をかせぐ人がいたり、また子どもがいる学生にはそれなりの広いアパートもあり利用が可能だ。

いつでも軌道修正でき再チャレンジできるのが最大の利点

共同キッチンはみんなの憩いの場

共同キッチンはみんなの憩いの場

2月の学期末試験も終わると学部によっては学生の数が最初の半分以下となり、講義もゆったり座って聴講できるとのこと。去っていった学生たちは4月からの夏学期に学部を変更したり、大学を離れて仕事につく人、大学そのものを変更しやり直す人もいるとか。または成績優秀者は少なくとも4学期終了後海外の大学への留学も可能であり、その後またキャンパスに戻る学生などもいる。あるいは仕事についていたものの考えを改め会社をやめて大学にて勉強を始める人など、とにかく一番日本と違う点は学生としてあるいは社会人としていつでも本人の意思次第で軌道修正ができ、再チャレンジできる可能性があるということだ。その為に同じ学部の中でも学生の年齢の違いが生じてくるのである。

いずれにせよ大学を卒業するまでが大変な正念場であり、次から次へと振り落とされるためうかうかしてはいられないようである。そしてギムナジウムでは今年もまた卒業試験が3月に終了し、いま若者たちは将来に向けて今後どうするのかを暗中模索しているところである。

注:ドイツのギムナジウム(中高一貫校)は前期後期の2学期制。6週間の夏休み明け(月初めから9月中旬。州によって異なる)から1学期、そして2月前後には2学期が始まる。大学も州によってことなるが、だいたい冬学期は10月1日より3月31日の間、夏学期は4月1日より9月30日の間となっている。

◆ ハイデルベルグ便り

古城、学生、ネッカー川そして観光客のあこがれの街ハイデルベルク

古城、学生、ネッカー川そして観光客のあこがれの街ハイデルベルク

  • 学生街をいつも見守る ハイデルベルク城

    学生街をいつも見守る ハイデルベルク城

  • 大学広場

    大学広場

  • 旧宮殿は校舎として使われている

    旧宮殿は校舎として使われている

  • ハイデルベルクのノイエンハイマーフェルド (Neuenheimer Feld)学生村。 ここには学生寮が21戸立ち並び およそ1,900人の学生が生活している。

    ハイデルベルクのノイエンハイマーフェルド (Neuenheimer Feld)学生村。 ここには学生寮が21戸立ち並び およそ1,900人の学生が生活している。

  • 仲間と一緒に食べる夕食は いつもにぎやかで楽しい

    仲間と一緒に食べる夕食は いつもにぎやかで楽しい

ドイツ在住:シュピッツナーゲル典子

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