ネイホウ! 香港より教育事情探訪記(vol.2)
ネイホウとは広東語でこんにちはの意味。香港に留学中の大学生、須藤綾子さんから、香港での教育事情についてのリポートをお届けします!
◆ 教育システム
◆ 教育改革
◆ EMIとCMI
◆ 2つの公開テスト
◆ 塾の役割
の5つについて今回はお話します。
◆ 教育システム
香港の児童が義務教育の始まりである小学校に入学をする年齢は、日本と同じく7歳です。しかし、日本と大きく違うのは、各小学校が児童の両親が入学申請を許可すれば6歳4ヶ月で入学する児童や5歳10ヶ月で入学する児童もいるということです。そして、入学の前にはIQテストと面接が行われるそうです。
香港は6+3+4(2+2)+3のイギリス式なシステムです。義務教育は日本と同じ9年間で、公立学校、附属学校、私立学校の3種類があります。基本はイギリス式の教育システムを持つ香港ですが、近年アメリカ式の6+3+3+4へとシステムを変えようという動きがあるようです。
<現存の教育体系> | ||||
義務教育 | ||||
6年 | 3年 | 2年 | 2年 | 3年 |
小学校 | ジュニア セカンダリー スクール |
シニア |
大学予科 | 大学 |
◆ 教育改革
1997年、香港がイギリスから中国に返還された際に、教育も変わり始めました。教育改革の柱として、5つの原則が掲げられました。
1. | 生徒が中心であること 生徒が自ら学ぶ力を身に付けられる教育を。 |
2. | 敗者を作らないこと 生徒の学力に関わらず、各生徒の可能性を引き出す教育を。 |
3. | 敗者を作らないこと 生徒の学力に関わらず、各生徒の可能性を引き出す教育を。 |
4. | 生涯教育 生徒が教室の内外で学ぶ機会を提供する。 |
5. | 社会全体の活用 生涯教育に重点をおき、社会全体が教育に貢献することを目指す。 |
香港の教育において特筆すべきことは、「改革」が多いということです。現存の教育から良い方向へ変わろうとしている姿勢が伝わってきますが、このとめどない改革のために、教師はだけでなく生徒にも混乱が広がることがあったそうです。このため、大学の授業で「香港の教育を一言で表すと?」という教師の問いに多くの学生は「Immature」や「Green」といった、「未熟」という答えを返していました。
◆ EMIとCMI
EMI |
English as a Medium of Instruction |
CMI | Chinese as a Medium of Instruction 広東語で授業が行われる |
現在、香港には501のセカンダリースクールがあり、そのうちの114校がEMIとして、授業に英語を用いています。英語で授業をする目的として、広東語・中国語・英語のトリリンガルを目指す、という方針があげられています。香港教育省が定める英語の試験を、過去3年間生徒の平均点が85%以上を維持できなければ、EMIのセカンダリースクールとして許可はされません。生徒の学力レベルの高い学校の多くはEMIであるようです。
しかし、広東語を用いた授業のほうが生徒は自己表現がしやすく、問題の分析や論理的に考えることなどによい結果をもたらすという調査結果があるといいます。香港教育省は、EMIを評価しつつも、母国語での教育であるCMIを推進しています。CMIの学校には、英語教育を支援するためにネイティブな英語教師を2人多く配属することや、図書の贈与などを確約しています。
◆ 2つの公開テスト
香港の子どもたちが大学へ進学していくには、2つの公開テストで良い点数を取らなくてはいけません。セカンダリースクールの5年生(日本でいう高校2年生)のときのHKCEE(Hong Kong Certification of Education Exam)と、セカンダリースクールの7年生での(日本での大学1年生)HKALE(Hong Kong Advanced-Level Examination)の2つのテストがあります。1つ目のHKCEEでは、良い成績をとった順に、レベルの高い高校に入ることができる仕組みになっています。
このテストで良い成績をとるために、多くの学校が、英語・中国語・数学の3強化に重きをおいたカリキュラムを持っているようです。香港の教育が「テスト主義」といわれる所以は、この2つの試験でよい成績をとることを学習の目標に掲げる学校や家庭環境が多いことだといえます。
◆ 塾の役割
先ほど述べたように、大学進学を目指す生徒にとって、2つの公開テストでよい成績をとることが必至です。学校の授業だけでは安心できないと、子どもを塾に通わせる親も多いようです。
実際に、2005年現在、セカンダリースクールに通う60%の子どもが塾に通い、週に平均で10時間の授業を受けているという調査結果がでました。より多くの生徒を集めるために、"テストでうまくやるための戦略"や"使いやすいまとめノート"を提供することをアピールする塾が多いようです。塾を学校教育の補足的要素としてうまく利用すれば問題はないのでしょうが、塾での学習に頼り、信頼しすぎるあまりに学校教育を軽視する子どもがいることも否めないようです。
また、集団クラスの塾だけでなく、家庭教師にレッスンを受ける生徒も多いようです。これは大学生によるレッスンが多いようで、香港大学の学生の多くが家庭教師のアルバイトをしています。
今回は、香港の教育事情を知るにあたり、基礎となる情報をレポートしました。次回からは、これらの基本的情報をもとに、各トピックについてより具体的なレポートをしていきたいと思います。
では、また来月お会いしましょう。再見!
取材・文:須藤 綾子
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