「オランダいいなあ」で終わらせないために。枠組みを開く(5)
オランダの教育や暮らしに触れて「いいなあ」と思ったことを、そのままで終わらせないために。
個人で変えられることを言葉にしてきた中から、今回は「枠組みを開く」について考えます。
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員 川崎 知子
枠組みを大きくする
日本とオランダの違いを一つ挙げるとしたら、私は「枠組みの大きさ」だと思っています。
牧場の牛や鶏を想像してみてください。
日本では、小さな囲いの中で身動きが取りにくい状態で飼われていることがあります。一方、オランダでは広い牧草地の中で自由に動き回る牛や鶏を見かけます。
学校や社会も同じように感じます。
日本の教室や社会には、目には見えない小さな枠がたくさんあります。ルールや「こうあるべき」が積み重なり、知らず知らずのうちに窮屈さを感じている人も少なくありません。
一方、オランダは枠組みそのものが大きく、その中で自由に行動できます。もちろん自由には責任が伴いますが、まずは信じるという考え方が社会全体に根付いているように感じます。
ルールを簡単にする
日本の美術館では、作品の前に柵があり、触れられないようになっていることが多くあります。
一方、オランダでは、私が訪れた美術館のほとんどに柵がありませんでした。それでも作品に触る人はほとんどいません。
スーパーでも、レジの人は基本的に座っています。日本では立って接客することが一般的です。
学校にも違いがあります。
日本には校則や持ち物の決まりが細かくありますが、オランダの学校にはほとんどありません。
以前も紹介しましたが、イエナプランスクールである福山市立常石ともに学園では、開校時に「学校のきまり」を一つにしました。
ルールを増やすことで安心をつくるのではなく、シンプルなルールの中で一人ひとりが考えることを大切にしているのです。
両立ではなく、優先と考える
枠組みを大きくすると、大人も子どもも、のびのびと暮らせます。
オランダでは、仕事は生きるために必要だからするものです。
だからこそ、自分や家族との時間もとても大切にされています。
日本では「仕事と子育ての両立」という言葉をよく耳にします。
でも私は、この「両立」という言葉に少し窮屈さを感じています。
自分を大切にすること。
家族を大切にすること。
子育てを大切にすること。
その上で、仕事も大切にすること。
全部を完璧に両立するのではなく、その時々で何を優先するかを自分で決められる社会のほうが、豊かなのではないでしょうか。
多少の危険を経験させる

驚くほど高い遊具で遊ぶ息子
家庭では、小さな頃から多少の危険を経験させることも大切だと思っています。
オランダの運河には柵がありません。学校の近くでも同じです。でも、子どもたちは落ちないように行動しています。
小さな頃から危険を知り、自分で判断する経験を積んでいるからです。
公園の遊具も、驚くほど高いものがあります。
それでも、自分でできると思えば挑戦し、危ないと思えばやめる。
危険をすべて取り除くのではなく、自分で危険を判断する力を育てているように感じました。
「言ったらできる」と思わない
私たちは、子どもに対して「一回言ったのに、どうしてできないの?」と思ってしまうことがあります。
でも、本当にそうでしょうか。
オランダでは、日本よりもペットを飼っている家庭を多く見かけます。
我が家も、私がホームステイしていた家庭で生まれた子犬を譲っていただきました。
もちろん、犬は言葉だけでは理解できません。
何度も繰り返し関わる中で、少しずつ覚えていきます。
人間の子どもも同じではないでしょうか。
一度言われただけでできるほうが、むしろすごいことです。
そう考えるだけで、大人の気持ちも少し楽になります。
本音を言い過ぎない
オランダの人たちは、自分の考えをはっきり伝えると言われます。
でも実際に暮らしてみると、「何でも思ったことをそのまま言う」という印象ではありませんでした。
相手との関係を大切にしながら、自分の考えを伝えています。
正しいことを伝えることよりも、相手に伝わることの方が大切なのだと感じました。
まず、自分と対話する
対話の大切さを実感する中で、相手に伝えることと同じくらい、自分と対話することも大切なのだと気づきました。
自分との対話も、相手との対話も、練習が必要です。
対話を重ねる中で、自分の考えや気持ちに気づいたり、相手の思いに耳を傾けられるようになったりします。
対話は、相手との関係を育てるだけでなく、自分自身を育てることでもあるのだと思います。
オランダいいなあ、で終わらせないために
このシリーズでは、「自分に余白をつくる」「関係に余白をつくる」「学びをゆだねる」「環境を見直す」、そして今回の「枠組みを開く」について書いてきました。
オランダの教育を、そっくりそのまま日本に持ってくることはできません。
でも、「なぜそうなっているのだろう」と立ち止まり、自分の中にある思い込みや当たり前を少しずつ見直すことは、今日からでもできます。
「オランダいいなあ。」
そう思って終わるのではなく、自分の教室で、自分の家庭で、自分の暮らしの中で、小さな一歩を踏み出してみる。
そんな人が一人でも増えたら、とてもうれしく思います。

川崎 知子(かわさき ともこ)
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員
元公立小学校教員。東京・広島の小学校で約20年勤務。
2017年からは家族とともにオランダに渡り、イエナプラン教育を学ぶ。日蘭イエナプラン専門教員資格を取得し、現地のイエナプランスクールでアシスタントとして2年間勤務。20校以上の小中学校を視察した。
帰国後は、広島県福山市立のイエナプランスクール開校に携わり、現在は日本イエナプラン教育協会理事。
不登校支援や特別支援教育、保護者との関係づくり、対話・探究・遊びを通して、子どもも大人も、安心できる学びの場づくりに取り組んでいる。
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