オランダの特別支援教育で見た、特別でない日常の豊かさ
オランダ語ができない子どもたちのための特別支援学級で、息子たちが過ごした1年半。
算数の個別進度学習、子どものペースを尊重する教材、そして「本当に楽しむための遠足」。
制度や仕組みの違いだけでなく、子どもも大人も力を抜いて過ごせる学校の日常を、実体験を通して綴ります。
今回は、この学級で特に印象に残っているエピソードを紹介します。
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員 川崎 知子
算数の個別進度学習
長男は、算数に限っては、みんなの倍のスピードで学習が進み、かけ算までやっていました。
しかも、2018年の時点で、一人一台タブレットが用意されていました。
長男にとって、
「ぼくはオランダ語は苦手だけど、算数は得意だよ」
と思えることが、自己肯定感を保つ大きな支えになっていたと思います。
子どものペースを尊重するオランダ語の教材
長男のオランダ語のワークブックは、イラスト入りのカラーの薄い冊子。
アルファベットを順番に練習していき、1冊終わると家に持ち帰ってきます。
終わるたびに達成感を味わえるし、その子のペースで進めることができます。とてもよく考えられているなと感じました。
オランダの学校は、児童数に応じて国から十分な予算が配分されます。
その予算を、学校が自由に使って教材を購入できます。
保護者から教材費を集めているわけではないので、日本のドリルによくある
「保護者から集めた教材費で買っているから、何が何でも終わらせなきゃ」
というプレッシャーがありません。
一人ひとりに合った教材を、必要な分だけ用意できる仕組みです。
日本との違いは大きいと感じました。
本当に楽しむための遠足
1年に1度の遠足の前には、学校から手紙が届きます。学校からの
手紙はいつも、オランダ語・英語・アラビア語の3種類で書かれていました。
内容はこんな感じです。
「バスで行きます。16時に戻ってきます。現地でフライドポテトとアイス、ジュースが出ます。
他のものを食べたい人は、持ってきてもいいです」
遠足なのですが、親がお弁当(といってもサンドイッチですが)を作らなくてもいい。
しかも、いつもは14時半お迎えなのに、この日は16時。親にとっても、本当にありがたい1日でした。
ここで、ふと思ったのです。
遠足は何のためにあるのか。
遠足は、単純に楽しむためだけのものです。
準備に追われることもなく、「ちゃんとさせなきゃ」と気を張ることもない。子どもも大人も、その日をそのまま楽しめる。
長男は、
「去年と同じ、あの長い滑り台ができる!でも、梨のアイスは好きじゃなかったんだよな…。
誰か一人でも遅刻するとバスが出ないらしいから、早く行かなきゃ」
と言って、いつもより早く家を出ました。
この頃には、先生の話をしっかり理解できるようになっていたようです。
学校に着くと、みんなでおそろいいのTシャツに着替えます。
送ってきた保護者は、それぞれ写真撮影をしていました。
アシスタントの先生たちは、いつもより多め。
ホールの椅子に座って、楽しそうにおしゃべりしながら待っています。
日本の学校には、「何かやらなければ」「暇にしていてはいけない」「忙しそうでなければ」
という空気が漂っていると、私は感じています。でも、オランダの先生たちには、それがありませんでした。
16時過ぎにバスが帰って来ました。降りてくる子どもたちは、全員、本当に全員、疲れ切った顔。お迎えの保護者たちは大笑い。うちの次男は、最後の最後に、泣きながら連れてこられました。ぐっすり寝ていたところを起こされて泣いたようです。
教室に戻り、Tシャツだけ脱いで、すぐに帰宅。「終わりの会」のようなものはありません。
行き先は、大きな遊園地でした。
遠足のあとには、子どもたちの無料券をもらえたので、後日、家族でも訪れました。長男が唯一心配していたアイスは、梨味もありましたが、長男はいちご味だったから食べられたそうです。
成績表の驚き
年度の終わりには、成績表をもらいました。
面談の場で、説明を受けながら渡されます。
そのとき、驚く出来事がありました。
長男の評価項目は、次の8つです。
1 社会的・情緒的発達
2 活動持続性
3 言語
4 計算
5 書くこと
6 創造性
7 体操
8 先生からのメッセージ
項目1〜7は3段階評価で、順番に説明がありました。
項目6の「創造性」、その中の「絵を描くこと」の項目で、
先生がこう言ったのです。
「あら、●になってるけど、一つ上の評価だったわ」
そう言って、その場で評価を変更しました。
保護者の目の前で評価を修正する。
そんなこともあるんだな、と驚きました。
でも、間違えたら正直に修正をする。それで良いのだと思います。
親として、人として
送り迎えに行くたびに、いろんな国から来た保護者たちと、オランダ語や英語を駆使して、たくさん話をしました。子どものこと、学校のこと、そして自分自身のこと。
母国から逃れて、「難民センター」で暮らしている家族もいました。
オランダが制度として難民を受け入れていることを、日常の中で実感する時間でもありました。
親としても、ひとりの人間としても、視野が少し広がった1年半でした。
本当に、かけがえのない経験だったと思います。

川崎 知子(かわさき ともこ)
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員
元公立小学校教員。東京・広島の小学校で約20年勤務。
2017年からは家族とともにオランダに渡り、イエナプラン教育を学ぶ。日蘭イエナプラン専門教員資格を取得し、現地のイエナプランスクールでアシスタントとして2年間勤務。20校以上の小中学校を視察した。
帰国後は、広島県福山市立のイエナプランスクール開校に携わり、現在は日本イエナプラン教育協会理事。
不登校支援や特別支援教育、保護者との関係づくり、対話・探究・遊びを通して、子どもも大人も、安心できる学びの場づくりに取り組んでいる。
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