2026.07.03
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取るカルタから語るカルタへ ―子どもが地域を語る新しい学び―

「地域の宝物は何ですか?」と聞かれて、子どもたちは地域の名所を答えるでしょう。
しかし、「あなたが見つけた宝物は何ですか?」と聞かれたら、急に黙り込むでしょう。
この沈黙に、これからの地域学習の課題が隠れているのかもしれません。

目黒区立不動小学校 主幹教諭 小清水 孝

子どもたちは地域のナラティブを語れますか

皆さんの地域には、長く親しまれている郷土教材があるでしょうか。

群馬県には上毛かるたがあります。戦後から受け継がれてきた上毛かるたは、自然、歴史、人物、産業などを題材に、多くの子どもたちの成長を支えてきました。世代を超えて共有される文化資産であり、郷土愛を育む優れた教材です。

しかし、ここで一つの問いが生まれます。子どもたちは地域について学んでいます。しかし、地域を語ることはできているでしょうか。

「この地域には何がありますか」と問われれば答えられます。しかし、「この地域の魅力は何ですか」「あなたが大切にしたい地域の宝物は何ですか」と尋ねられたとき、自分の言葉で語れる子はどれほどいるでしょうか。

これからの地域学習には、地域について学ぶだけでなく、地域を自分事として語る学びが求められているのではないでしょうか。

郷土教材は知るためのものだけでよいのでしょうか

上毛かるたをはじめ、多くの郷土教材には大きな価値があります。地域の歴史や文化を体系的に学べます。遊びながら学べるため、子どもたちも親しみやすく、地域への愛着形成にも役立っています。

一方で、そこには共通した特徴があります。それは、既に整理された地域像を学ぶ構造です。

子どもたちは優れた知識を受け取ります。しかし、地域文化の創り手として位置付けられる機会は決して多くありません。

地域は生きています。新しい店が生まれます。移住者がやってきます。地域課題も変化します。

そう考えると、地域学習もまた、固定された知識を得るだけでなく、変化する地域を探究する学びへ進化できるのではないでしょうか。知識を得るのではなく、知識を創造するということです。

子ども自身は地域の語り手になれるでしょうか

そこで提案したいのが、「ローカル・ナラティブ・カルタ」です。

ナラティブは、人々の経験や思いを含んだ「生きられた物語」です。一方、ストーリーは、出来事を順序立てて語った物語です。ストーリーが何があったかを伝えるのに対し、ナラティブはその出来事を人がどう意味づけているかを重視します。

地域教材で使用されている既存のカルタの多くは物語と言えます。

ローカル・ナラティブ・カルタとは、子どもたち自身が地域住民への聞き取りやフィールドワークを行い、集めた情報や思いをカルタとして表現する学習です。商店街の店主に話を聞く。地域の高齢者から昔の暮らしを聞く。地域で働く人にの願いを尋ねる。

そうした対話を通して、子どもたちは教科書には載っていない地域のナラティブと出会います。そして、そのナラティブを読み札や絵札として表現します。

この学習で大切なのは、正解を探すことではありません。というか、正解はありません。人と出会い、話を聞き、自分なりの意味を見いだすことに価値があります。

それは生成AIでは紡ぐことのできない営みです。

ローカル・ナラティブ・カルタでは学びが大きく変わります。

「取るカルタ」から「語るカルタ」へ。
記憶から探究へ。
受容から創造へ。

子どもたちは地域文化の受け手から、地域文化の担い手へと成長していくのです。

総合的な学習の時間で取り組んでみませんか

この学習は、総合的な学習の時間との相性が非常に良いと考えています。

問いを立てる。調査する。対話する。整理する。表現する。総合的な学習の時間が大切にしてきた探究のプロセスが自然に含まれているからです。

さらに魅力的なのは、特別な教材を必要としないことです。地域そのものが教材になります。地域の人々が先生になります。そして、子どもたち自身が研究者になります。

学校の周りを少し歩くだけでも、多くの発見があります。普段は見過ごしている神社や商店、川や公園にも、誰かの思いが込められています。

皆さんの学校の近くにも、まだ語られていないナラティブが眠っているのではないでしょうか。子どもたちと一緒に探しに行ってみませんか。

地域のナラティブを世界につなげられないでしょうか

ローカル・ナラティブ・カルタの先に見据えているのが、「グローバル・ナラティブ・カルタ」です。

もし、子どもたちが地域を語れるようになったなら、そのナラティブを海外の子どもたちと交換できるのではないでしょうか。

例えば、発酵文化が豊かな地域に住む子どもたちが、地域のナラティブを表すカルタを作製したとします。味噌や醤油や日本酒などのカルタを数枚作る場面が考えられます。

さらに、韓国の子どもたちならキムチを調べることができます。タイやインドネシアの子どもたちも、それぞれの発酵文化を調べることができます。互いのカルタを交換すれば、共通点や違いを見つけられるでしょう。そして最後に、未来の発酵文化をテーマに新しいカルタを共創することもできます。

ここで重要なのは、文化紹介で終わらないことです。違いを学ぶだけでなく、共に未来を考えることです。

国際理解教育というと、外国について学ぶことだと思われがちです。「へー、そうなんだ」で終わってしまう国際理解教育は十分ではありません。

本当に必要なのは、自分の地域を語る力ではないでしょうか。そして、共創すること。相手と共に対話し、創造することです。

自分の足元を語れる人こそ、多様な文化と対話できるのだと思います。

今こそ思い切った地域学習を始めてみませんか

次期学習指導要領では、学校裁量の時間の拡充が議論されています。

もし、学校が自由に使える時間をこれまで以上に持てるようになったら、私たちは何に挑戦するでしょうか。補充学習でしょうか。テスト対策でしょうか。

私は、子どもたちが地域と出会い、人と出会い、自ら問いを立てる学びにこそ時間を使いたいと考えています。

地域のナラティブを紡ぐ。地域のナラティブを世界や未来へつなぐ。そんな学びがあってもよいのではないでしょうか。

子どもは文化の継承者であるだけではありません。文化の創造者でもあります。

私たちは、子どもたちに何を覚えさせるかを考えることが多くあります。しかし同時に、「子どもたちに何を語らせたいのか」を考えてもよいのではないでしょうか。

皆さんの地域には、まだ語られていないナラティブはありませんか。皆さんの子どもたちは、そのナラティブの語り手になれますか。

「取るカルタから語るカルタへ」

その小さな転換が、地域学習の新しい可能性を切り拓くのかもしれません。

小清水 孝(こしみず たかし)

目黒区立不動小学校 主幹教諭


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現場で使える技術、できる実践、リアルな指導法を日々追究しています。
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NPO教育サークル「GROW5th」代表。

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