2026.04.23
  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

カナダBC州から届ける、日本語を「継いでいく」ための学び

私は現在、カナダのブリティッシュコロンビア州(BC州)オカナガン地方に在住しています。
日本では大学で日本語と英語を教える非常勤講師をしていましたが、こちらでは現地の公立学校教員(英語専門)であり、日本語継承語学校で日本語も教えています。

カナダ公立学校教諭、日本語継承語学校教師 高井 マクレーン 若菜

BC州の教育に触れて感じる日本の学校現場との違い

私自身が北米の公立学校で教える立場となり、日本の学校現場との間に大きな違いがあるのではないかと日々感じています。日本の学習指導要領も、今後は学ぶ者がさらに主体性を持ち、教科書を超えて探究型学習がより取り入れられるようになると聞きます。

その点からするとBC州のカリキュラム(注1)は改訂されてから10年ほどが経ちますが、内容が前衛的でとても興味深いです。また、カナダは多文化共生主義(注2)という社会背景を持ち、特にBC州ではフルインクルーシブ教育(注3)が行われていることで、個人に見合った学びがあるともいわれています。

日本でもインクルーシブ教育は大きく注目されています。今回の連載では、カリキュラムとインクルーシブ教育に焦点を当てつつ、日本語学校の継承語学習とBC州の公立学校で教える中で気づいたことをお伝えしたいと考えています。まずは日本語継承語学校で、教科書に沿わないプロジェクト型の学びを行った中で感じたことを挙げます。

日本語継承語学校とは

日本語補習校や日本人学校に比べると、継承語学校というのは多くの人にあまりなじみのない言葉かもしれません。
補習校では、主に外国に住んでいる日本人の子どもたちが、たとえば土曜日を終日使って、日本の学校のカリキュラムや教科書に沿って授業を受けます。駐在家庭や、いずれは日本へ帰国する家庭の子どもたちが、日本に戻った際に授業に後れをとらないように、また、受験準備などが目的とされています。

一方で継承語学校は、外国に永住している日本にルーツのある家庭の子どもたちが、家庭の言語である日本語、または保護者の母語である日本語をつないでいくことを目的としています。そのため、内容は日本語の習得や維持だけでなく、伝統文化を伝えることを目的としている点で、補習校や日本人学校とは異なります。

日本語継承語学校は、日本人移民が多い大都市部にある場合、大人数が在籍する学校として存在します。そこでは、幼稚園から高校3年生まで、担任が学年ごとに授業を行う形態をとることができます。

しかしながら、小さな町で日本人人口が少ない場合、複式学年が一か所に集まります。先生を雇用する制度や予算もなく、保護者がボランティアで運営を担っていることも多いです。週に一度、2時間程度、現地の学校の放課後に集まる形態をとっているのが大半のように思います。

複式学級で感じた日本の教科書をそのまま使う難しさ

私が在住するBC州内陸部の小さな町も、在籍生徒数が30人程度という極端に小さな学校です。年齢も幼児から高校3年生までと幅広く、一学年に数人、あるいは一人もいない学年もあります。

もともとこの土地には古くから日系の歴史が根付いていました。日系移民の子孫に日本語や日本文化を伝えていくことから始まった日本語学校は、駐在家族が日本語を維持する形へ、そして日本人移民の家族が日本語を子どもたちに継いでいく形へと変化を遂げてきました。

継承語学校でも日本で使われている教科書を一学年遅れなどで授業に取り入れることが多いです。娘が在籍し、私が教えているこの町の日本語学校でも、小学1~3年生の児童が複数いた時期がありました。教科書を使った授業が成立するのではと思い、一時期教科書を用いていました。

しかし、週に2時間、宿題もないとなれば、当然一年間で一学年の教科書は終わりません。複式学級でもあったため、日本の学校と同様に教科書を用いる難しさを痛感しました。

日本語の継承が危うくなる壁を乗り越えて学ぶ方法を探して

小学中学年以上になると、教科書の年齢と内容が見合わなくなったり、日本語習得のペースが異なり始めます。継承語学校では、この年齢くらいから、放課後の習い事が忙しい、現地の学校の友達付き合いが大切、日本語を学ぶことへの抵抗を示す、などという理由から、日本語を学び続けなくなる子どもが増えてきます。

規模の大小に関わらず、これは継承語学校の大きな課題の一つではないでしょうか。保護者の願いとは裏腹に、子どもからは「なんで放課後に日本語を勉強しなければいけないのか」という不満も上がってきます。

教科書は使えそうにない。年齢もばらばら。高校生たちは学ぶことの意欲に欠けている。この町の継承語学校でも、継承が危うくなる三拍子がそろいました。

教科書に頼らず、学年を問わず、日本語と日本文化に関わりつつ、学びを続ける方法はないのだろうか……。私自身が外国語として英語を学習し続けてきた結果、現地で英語を教えるようになった経緯があります。そして、この小さな継承語学校と家庭の働きかけだけでも、日本語力が驚くようなレベルまで達している子どもたちを見てきました。

言語学習を教科書の先へ、季節の行事といった伝統文化の先へ、と発展させていく方法はないものかと考えたのです。

注1)BC州のカリキュラム:資質・能力を重視するコンピテンシー・ベースとなっています。まず、児童生徒が最終的に理解する概念としてビッグ・アイディアが挙げられ、それらを知るための具体的なテーマであるコンテンツ(学習内容)があります。そして、実際にできるようになるためのスキルや戦略を示す教科別コンピテンシーが並べられています。
社会科のカリキュラムを例とするとわかりやすく、教科別コンピテンシーには複数学年にわたって類似したスキルやプロセスが設定されています。この構造により、学習内容は暗記するものではなく、あくまでコンピテンシーを習得するために用いるに過ぎないことが明確に示されています。

注2)多文化共生主義:カナダは多民族からなる移民国家であり、1988年に法律で定められました。
他文化を尊重することで移民が文化背景を維持し続けることを奨励している点が隣国であるアメリカと異なります。BC州ではコロナ禍で人種差別が顕著になったことから、公立学校でも反人種差別(アンチ・レイシズム)の資料やカリキュラムの導入、学区にはそれに特化したリーダー教員が存在します。

注3)インクルーシブ教育:BC州では特別支援学校や特別支援クラスは存在せず、障害の有無や程度に関わらず、すべての児童生徒が地域の公立学校(幼稚園年長から高校3年まで)に通います。
BC州におけるインクルーシブ教育の歴史は長く、もともと特別なニーズを持つ子どもたちの保護者からの働きかけで始まりました。
各学区にはインクルーシブ課があり、特別支援、発話、カウンセリング、ELL(英語を母語としない)など、幅広いニーズに対応していることも特徴的です。

高井 マクレーン 若菜(たかい まくれーん わかな)

カナダ公立学校教諭、日本語継承語学校教師


群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務めた後、カナダ国ブリティッシュ・コロンビア州へ移住。現在はBC州の公立学校で教えながら、継承語学校でも日本語日本文化を教えている。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop