2026.05.19
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カナダBC州から届ける、日本語を「つないでいく」ための学びー継承語としての日本語を学び続ける動機付けー(第2回)

前回は、小さな日本語継承語学校が対峙する課題について触れました。
小学校中学年以上になると継承語学習から子どもたちが離れていくことに対し、教科書に頼らず、ある程度学年を問わず、学びを続ける方法はないのだろうか......。
という問いで終わりました。

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師 高井 マクレーン 若菜

基本的な日常会話(BICS)と教科内容のための言語(CALP)

言語の習得には、基本的な日常会話(BICS:Basic Interpersonal Communication Skills)に2~4年、教科内容のための言語(CALP:Cognitive Academic Language Proficiency)に5~8年がかかると言われています(注1)。
留学や移住で外国に暮らすとなると、まずBICSを習得し、子どもの場合は学校に通うことで徐々にCALPをマスターしていくことになります。いずれにおいても、ニーズに迫られているかどうかが大きく学習を左右します。
例えば留学では、言語学習者にとって言語の習得が生活に支障をきたすこと自体がニーズになります。また、仕事の都合での移住の場合は、職業上必須であることが習得の大きな動機付けとなります。

継承語学校の学習継続に必要な動機付け

私自身は日本生まれの日本育ち、高校時にバンクーバーに1年ほど留学したほかは、英会話学校などに通うことなく、ほぼ独学で英語を学びました。英語という言語そのものに十分な興味を覚え、好奇心を持ち続けたという内発的動機付けで習得を継続できた、特殊なケースなのだと今になって思います(注2) 。

一方、継承語学校の学習者にはニーズという切羽詰まった動機付けがありません。BICSのような基本的な会話は、生まれたときから母語と並んで(または母語として)特に苦労することなく得ているケースが多いからです。
ただ、言語の使用相手が主に家族だけであるという点が特殊です。
(それも兄弟姉妹がいれば、年齢が上がるにつれてコミュニケーションは現地の言葉が特に多くなっていきます。また、日本語学校の友人とも授業以外では英語を話し、漢字の量と難しさに応じて書き言葉も英語のみとなっていきます。)

日本語を母語とする子どもでも、小学校中学年で学習内容の難度が上がると言われます。継承語学校でもBICSではなくCALPとしての言語の必要性が出てくることが、日本の教科書から離れていく理由と考えられます。
このころになると社交の幅も広がり、これまでは日本に住む家族や親戚と話をすることが目的であっても、そこに強い動機付けを覚えなくなります。夏の一時帰国時に体験入学をしていた子どもの場合、教科内容の理解が追いつかなくなり、日本の同世代の友人との距離が離れていく点でも、継承語としての日本語を継続する理由が見つけにくくなります。よほど内発的動機付けが高くなければ学習は続きません。

継承語学習はそもそも、自ら興味を持って始める言語習得ではありません。長期間にわたって内発的動機付けだけで維持させるには、無理が生じて当たり前なのかもしれません。言葉としての日本語に興味があるだけでなく、日本人であることに誇りを持つ、日本文化と日本語に自分のアイデンティティが存在する、日本の特定の文化(Jポップやアニメ、マンガなどに)に大きな関心を持っているというのも継続の助けにはなるのですが、それだけでは十分ではないのです。

モチベーションが上がり、ニーズを感じることができる学びの魅力

そんな時、カナダの公立学校に通う娘の授業で「Power Play ---Young Entrepreneurship」(注3)が使用されているのを目にしました。
児童生徒が自分でビジネスプランを立て、商品を作り、学校の模擬店で販売し、利益の一部を社会貢献として寄付して、一連の学びを振り返る。プロジェクト型かつ教科横断型の授業です。実際に使用されている教材を、今回娘の宿題として隣に座ってやってみました。
なるほど、学ぶ内容が実際の社会と強いつながりがあること、それを身をもって体験できること、結果が明確に見えること。これらは、なるほど学習者のモチベーションを高め、内容にニーズを感じさせるという魅力が伝わってきました。

学びの成果を受け取るのが家族や友人に限られない、カナダに住んでいながらも実社会で使うための継承語としての日本語。教科書を教わるという受け身ではなく、自ら進んで誰かに発信できるような機会。そして欲を言えば、自分たちの能力よりも少しだけ背伸びをするようなわくわくするチャレンジ。

これらはどんな学びにとっても必要な要素ですが、こういった条件に見合った継承語としての日本語の学びを成立させる方法を考えるのは容易ではありません。 

注1:年数に関しては個人差がありますが、仕事や勉強で語学の四技能(読む、聞く、話す、書く)を使いこなすには思っている以上に長い時間がかかることがわかります。

注2:内発的動機付け(intrinsic motivation)は好奇心や自分が成長したいという内側からのモチベーションを指し、その反対語として報酬(テストの高得点)や承認(ほめられたい)などといった外発的動機付け(extrinsic motivation)があります。
『Teaching by Principles: An Interactive Approach to Language Pedagogy』 by H. Douglas Brown and Heeekyeong Lee. Pearson. 2015.

注3:公立学校の小学高学年生から中学生の教材として使われることがあり、BC州のカリキュラムにおける算数、英語(国語)、社会、ADST(Applied Design, Skills and Technologies:デザインやテクノロジースキル)に沿っています。 

高井 マクレーン 若菜(たかい まくれーん わかな)

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師


群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務めた後、カナダ国ブリティッシュ・コロンビア州へ移住。現在はBC州の公立学校で教えながら、継承語学校でも日本語日本文化を教えている。

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