「オランダいいなあ」で終わらせないために。学びをゆだねる(3)
オランダの教育や暮らしに触れて「いいなあ」と思ったことを、そのままで終わらせないために。
個人で変えられることを言葉にしてみた中から、今回は「学びをゆだねる」実践を紹介します。
子どもが自分で学ぶ時間を増やすことで、主体性が育つだけでなく、先生にも子どもを見取り、支援を考える余白が生まれます。
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員 川崎 知子
自分で計画して学習する時間をつくる
オランダのイエナプランスクールでは、子どもたちが自立した学び手になるために、自分で計画して学習する時間を大切にしています。
主に、読み・書き・計算といった基礎的な学習は、みんなで先生の説明を聞いた後、一人で学習を進めます。イエナプランでは学習のことを「仕事」と呼びます。
大人になってからの仕事や大学生の課題と同じように、「締め切りまでに自分で計画を立てて進める」練習をしているのです。
もちろん、すぐにできるようになるわけではありません。小さな頃から少しずつ経験を積み重ねることで、自分で学びを進める力を身につけていきます。
日本の現行の学習指導要領にも、次のような考え方が示されています。
・教育の目的や目標の実現に必要な教育内容を教科等横断的な視点で組み立てる「カリキュラム・マネジメント」
・各学校の実態に応じて、創意工夫を生かした時間割を弾力的に編成すること
・児童が自ら学習課題や学習活動を選択する機会を設けること
また、次期学習指導要領に向けた論点整理には、「学びの主体的な調整」 (自分の思考や行動を客観的に把握しながら学習を自己調整し、次の思考や行動につなげる力)や「柔軟な教育課程」という言葉も見られます。
これらの記述は、子どもが自分で計画し、自分で学びを進める時間をつくることにつながるのではないでしょうか。
宿題は、自主学習か選択制にする

家で自ら学習に取り組み始めた長男
オランダの小学校には宿題がありません。
学校から帰った後は、地域のスポーツクラブに行ったり、読書をしたり、家族との時間を楽しんだりします。仕事は職場でするものなのです。
長男が7歳の時、オランダの小学校から帰宅して、「ワークが余っているからやろうっと!」と言って、自分から取り組んだことがありました。たった1回のことですが、うれしくて写真を撮ったことを今でも覚えています。
日本では宿題が当たり前になっていますが、私は家庭での学習については少し慎重な立場です。特に一律の宿題は、簡単すぎる子にとっても、難しすぎる子にとっても負担になりかねません。
子どもたちの中には、睡眠時間を削って宿題をしている子もいるのではないでしょうか。家庭学習の習慣をつけることと、十分な睡眠や成長を保障すること。そのどちらを優先すべきか、改めて考える必要があると思います。
それでも宿題を出すのであれば、自主学習がおすすめです。
自分の興味のあることを調べてまとめる活動なら、主体的に取り組むことができます。先生にとっても、子どもたちが調べてきたことを読むのは楽しいものですし、そこから話題を広げることもできます。
もちろん、中には手を抜く子もいます。でも、それにもきっと理由があります。そういう子とは対話をしながら、どうしたらもっと楽しく学習に取り組めるかを一緒に考えていきたいものです。
また、選択制にして、いくつかの課題の中から自分で選べるようにする方法もあります。特別支援学級では、そのような工夫をしているところも多いのではないでしょうか。
教室に学べるボードゲームを置く
オランダの小学校には、学べるボードゲームがたくさんあります。
言葉や算数を学べるもの、プログラミング的思考を育てるもの、コミュニケーションを学べるものなど、その種類はさまざまです。
特にイエナプランスクールでは、遊びを通した学びやコミュニケーションを大切にしているため、ボードゲームは有効な教材の一つとなっています。
私自身も、オランダで手に入れたボードゲームを、帰国後はずっと教室に置いていました。
プリント学習は嫌だという子も、ボードゲームなら学習に向かうことがあります。教室を飛び出してしまった子と、ボードゲームをしたことも何度もあります。
一方で、かけ算の意味を理解し、九九も覚えた子にとっても、ゲームは算数をより楽しむ機会になります。
ボードゲームは、学習に困難を感じている子のためだけのものではありません。すべての子どもたちにとって、学びを豊かにする可能性を持っているのです。
学びをゆだねて先生に余白をつくる
今回紹介した3つのことは、簡単そうに見えて、実際には簡単ではないかもしれません。
でも、少しずつ先生が前に立って、全員に同じことを発問したり指示したりする時間を減らし、その代わりに子どもたちが一人で、または友達と学習する時間を増やしてみてください。
すると、先生自身にも余白が生まれます。
その余白で、ちょっと肩の力を抜いて、子どもたちの様子を眺めてみてください。どこでつまずいているのか、誰と関わりながら学んでいるのか、どんなことに夢中になっているのか。これまで見えなかった姿が見えてくるかもしれません。
そして、その姿をもとに、「次はどんな声かけをしようか」「どんな環境を用意しようか」と考えることができます。
先生に生まれた余白は、決して何もしない時間ではありません。子どもたちを見取り、対話し、次の一手を考える大切な時間です。
子どもたちは、私たちが思っている以上に、自分で考え、学ぶ力を持っています。
学びをゆだねることは、子どもを放任することではありません。子どもを信じながら、その姿を丁寧に見取り、必要なときに支えることです。
そんな時間が増えていくことで、教室の風景も少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
次回は「環境を見直す」について書きます。

川崎 知子(かわさき ともこ)
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員
元公立小学校教員。東京・広島の小学校で約20年勤務。
2017年からは家族とともにオランダに渡り、イエナプラン教育を学ぶ。日蘭イエナプラン専門教員資格を取得し、現地のイエナプランスクールでアシスタントとして2年間勤務。20校以上の小中学校を視察した。
帰国後は、広島県福山市立のイエナプランスクール開校に携わり、現在は日本イエナプラン教育協会理事。
不登校支援や特別支援教育、保護者との関係づくり、対話・探究・遊びを通して、子どもも大人も、安心できる学びの場づくりに取り組んでいる。
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