2026.02.03
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イエナプラン教育の背景にあったもの ― 教育と暮らしが地続きの国・オランダで

オランダでの暮らしを通して、強く感じたことがあります。

教育は、学校の中だけで完結するものではなく、日々の暮らしそのものと深くつながっているということです。

帰国を決めるまでの迷いや、オランダの家庭で見た働き方や家族の時間、そして「それは、あなたが決めることよ」という一言。

イエナプラン教育の背景にあった、教育と暮らしが地続きの国の姿を振り返ります。

合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員 川崎 知子

オランダからの帰国をめぐる選択と、家族それぞれの思い

2017年から、私たち家族4人はオランダで暮らし始めました。
そんな中、広島県福山市で「公立初のイエナプランスクールをつくる」というニュースが飛び込んできました。

ちょうどその頃、私たちの2年間のビザも切れるタイミングでした。
ビザは更新しようと思えばできたし、夫は
「このままオランダに住んでもいいんじゃない?」
と言うほど、すっかりオランダの暮らしを気に入っていました。

一方で、長男はというと、
「日本に帰りたい」
とはっきり言っていました。
家庭では日本語中心で生活していたこともあり、本人にとっては日本語の方が圧倒的に楽だったのだと思います。

どこで生きるのが正解なのか。

どこで学ぶのが正解なのか。

その問いに、明確な答えはありませんでした。
ただ、オランダでの生活を通して、私の中には一つの変化がありました。
「教育は、暮らしそのものと切り離せないものだ」という実感です。
オランダでは、学校も、家庭も、働き方も、すべてが地続きでした。
学校で大切にされていることと、大人たちの生き方が、どこかでちゃんとつながっている。
それが、とても自然に感じられたのです。

暮らしの中にある教育とオランダの価値観

帰国後、私たちの生活にもオランダで受け取った価値観が少しずつ表れるようになりました。

夫は
「夕飯はみんなで食べたいから、夜遅くまである仕事や、残業の多い仕事は絶対に嫌だ」
と言って、夜8時に閉店する近所のホームセンターで働き始めました。
その結果、毎日、私よりも早く帰宅し、夕飯を作ってくれるようになりました。
夫の方が遅い日は、もちろん私が作っていましたが、いつの間にか息子たちは
「ママのご飯より、パパのご飯の方が好き」
と言うようになっていました。
笑い話のようですが、ここにも、私たちがオランダで受け取った価値観が表れている気がします。

家族で夕飯を食べること。
一日の終わりに、同じ時間を過ごすこと。
それは「余裕があればできること」ではなく、「優先されるべきこと」なのだと。

夫婦でよく話すようになったのは、
「日本人は働きすぎだよね」
「(オランダのように)週4日勤務くらいで、ちょうどいいんじゃない?」
ということでした。
オランダで見てきた大人たちは、決して怠けているわけではありません。
ただ、仕事と生活と教育のバランスを、とても真剣に考えているように見えました。

「それは、あなたが決めることよ」

 

ある日の午後、オランダの家で

研修中、私はオランダの家庭3つにホームステイをしました。
イエナプランスクールの先生、校長先生、そして子どもの家庭です。
どの家庭でも、共通していたのは、家族の時間をとても大切にしていることでした。

イエナプランスクールでは、子どもは3時頃に下校します。
それに合わせて、大人もそれぞれのタイミングで仕事を終えて帰ります。
タイムカードはありません。
家に帰ると、まずコーヒーか紅茶を入れて、ゆっくりします。
その後、子どもたちは地域のスポーツクラブに行ったり、一緒に買い物に行って好きなおやつを買ってもらったりします。

今思えば、放課後に友達と遊ぶ機会は、あまり多くないのかもしれません。
学校を選べる分、近所に同じ学校の友達がいるとは限らないからです。
その分、学校で遊ぶ時間、特に身体を動かして遊ぶ時間はとても大切にされていました。
中学生や高校生になると、宿題も増えて忙しそうでしたが、部屋にこもって一人で取り組んでいました。

5時半には夕飯の支度が始まり、6時には家族そろって夕飯を食べます。

ある日のことです。
「明日は、私が仕事の都合で帰りが遅くなるから、近所の◯◯さんがご飯を作ってきてくれるの。みんなで先に食べていて。終わるまでには帰ってくるから」

そう言われて、
「え?遅くなるって、何時頃?」
と聞くと、
「7時頃」
とのこと。
7時で“遅い”のか、と衝撃を受けました。

その日の夕飯も、忘れられません。
近所の◯◯さんは、大きな鍋を一つ持ってきてくれました。
中には、オランダ風のポテト煮と、真空パックのままのソーセージ。
そのソーセージは、お湯で別に温めるのではなく、煮物の中にそのまま入れるものらしいです。
なんて効率的。
でも、私はまだ一度も真似できていません。笑

そして、その◯◯さんと一緒に夕飯を食べていたときのことです。
会話の中で、何度もこう言われました。

「それは、あなたが決めることよ」

このときだけではありません。
オランダの人たちは、本当によく
「それは、あなたが決めることよ」
と言います。
子育てでも、きっと同じ言葉が繰り返されているのでしょう。
そうやって、「自分のことは自分で決める」人が育っていく。
教育は、学校の中だけで完結するものではありません。
暮らしの中で、日々の選択を積み重ねながら育っていくものなのだと、改めて感じました。

川崎 知子(かわさき ともこ)

合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員


元公立小学校教員。東京・広島の小学校で約20年勤務。
2017年からは家族とともにオランダに渡り、イエナプラン教育を学ぶ。日蘭イエナプラン専門教員資格を取得し、現地のイエナプランスクールでアシスタントとして2年間勤務。20校以上の小中学校を視察した。
帰国後は、広島県福山市立のイエナプランスクール開校に携わり、現在は日本イエナプラン教育協会理事。
不登校支援や特別支援教育、保護者との関係づくり、対話・探究・遊びを通して、子どもも大人も、安心できる学びの場づくりに取り組んでいる。

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