2026.06.08
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カナダBC州から届ける、日本語を「つないでいく」ための学びー学ぶ意欲を取り戻す、英語字幕づくりの試みー(第3回)

第2回では、主に言語習得のモチベーションに注目しました。継承語学習は外国語学習とは異なり、年齢が上がるにつれ、特に内発的動機付けが弱くなる傾向があると書きました。
モチベーションを維持するには、時に、継承語や継承文化の担い手であることに自ら誇りや熱意を感じられるところまで、立ち返る必要があるのかもしれません。

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師 高井 マクレーン 若菜

継承語学習は、親の選択から始まる

継承語学習は、学習者自らが望んで学ぶ言語学習とは異なり、親の選択から始まると言っても過言ではありません。
例えば、英語とフランス語を公用語とするカナダ(注1)に住み続けるのであれば、母語に加えて学ぶ言語としては、日本語よりもフランス語を学んだ方が、将来的に職業の幅も広がるという利点があります。

私自身、カナダで教職に戻る以前、子どもがまだ幼いうちは、在宅で主に翻訳をしていました。その経験から、日本語は翻訳や通訳をする上では、他言語に比べてそれほど需要の高い言語ではないことを痛感していました(注2)。
我が家でも日本語を日常的に使うことについて、娘が生まれる前に夫と話し合いました。
夫は日本に長く住んでいたことがあり、研究教職に就いていたこともあって、互いに書籍や原稿を読んでは議論したのを覚えています。
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最終的には、研究報告よりも「日本語で生まれ育ち、母語を日本語とする自分が、英語だけで子育てをすることに大きな違和感を覚える」という私の勘のようなところに結論が落ち着きました。
私は日本語を、夫は英語を使って娘に接することにしました。

日本語を続けるために、親ができること

ただし、この時、私自身が心に決めたことがありました。
それは、自分が日本語を子どもとのコミュニケーションに使うことを選んだのであれば、子どもが日本語に対して「やめたい」と言うまでは、できる限りのフォローを「積極的に」行うことです。

そのために、一時帰国ではスーツケースを絵本で埋めました。
読み聞かせの際は、自分は日本語、夫は英語を担当しました。日本から持ってきた日本語の本のストックがなくなったら、英語の絵本は私がその場で和訳して読みました。

子どもが読み書きに興味を持つようになると、ただ本を読むだけでなく、地域でバイリンガル紙芝居を行うことを提案し、娘を連れて図書館を回りました。
少なくとも、学ぶ側のモチベーションを保つことについて、責任の一端はこちらにあると考えたからです。そのためにはサポートだけでなく、こちらが積極的に行動すべきだと思いました。
娘は日本語を学び続けることを無理なく受け入れ、「No」と言うことなく育ちました。
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小学中学年くらいの年齢になると自分の興味(マンガやアニメ、Jポップ)や、日本人としてのアイデンティティの認識を、モチベーションに転換していきました。日本語学習を継続する様子が、こちらにも見てとれるようになりました。

日本語学校で感じた学びの停滞

それでも、日本語学校という場所があり、バックグランドの似通った子どもたちが、継承語を定期的に使う場所があることは、日本語を続ける上で大きな強みでした。
教室では、季節の行事と食べ物作りを組み合わせた学習形式は、すでに何度も繰り返されていました。
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ゲストティーチャーを毎月呼んで、日本語で日本関連の学びも試してみました。文化としての仏教、元看護士による衛生教室、音楽の先生による合唱練習などです。
しかし、内容は停滞し、全体的にやる気も欠いていました。教える側としても、何を取り入れればよいのか分からなくなったというのが本音です。

短編映画から生まれた新たな学び

始まりは知り合いから届いた一通のメールに記載されていた、短編映画作品のリンクでした。
その短編映画は日本の民間会社が制作したもので、日本の食べ物、言葉、伝統といった日本の美しさが描かれていました。
たまたま家族で鑑賞したのですが、字幕のない25分程度の日本語の物語を、英語話者である夫がすべて理解するのは難しく、私が時折英訳をしながら観ることになりました。

我が家では見慣れ、聞き慣れた光景です。しかし、そういえば字幕があれば便利なのにと思うとともに、ないなら作ればいいのでは?と考えました。
そこから、日本語を英訳した字幕を日本語学校で作れないだろうかと思考が飛躍しました。
実現するのは大変かもしれないけれど、日本語学習に対するモチベーションを再起させる、大きなポテンシャルがある。

前回の原稿で紹介したYoung Entrepreneurship(子ども向け起業家教育)では物を作り、コミュニティに向けて販売し、利益を得ることを軸としています。
形式はそれとは異なっても、学びの中核となるのは、家族や親せきではない外部(現実社会)とのつながりです。
自分たちの強みである英語を生かして、継承語である日本語を使って英語字幕を生み出す。そうすることで、勉強したことへのリターンを目に見える形で感じ、継承語に対する誇りや熱意につなげられるのではないか。
教科書や教室を飛び出した学びには、大きなリスクや責任が伴います。しかし、目の前の素材は、教える側としても行動を起こしたいと思えるものでした。


注1) カナダは英語とフランス語を公用語としていて、多くの商品パッケージでは、二言語が併記されています。ケベック州ではフランス語が主に使われ、他州では英語が主に使われています。
ブリティッシュコロンビア州(BC州)の公立学校は、幼稚園年長相当から始まります。この幼稚園年長相当からのEarly French Immersion(早期フランス語教育)、または小学6年生からLate French Immersion(後期フランス語教育)、そしてEnglish Main Stream(英語教育)が存在します。

注2) 日本語を日常的に使用する人口は、日本だけでも1億を超えます。とはいえ、北米に暮らしていると英語の次にフランス語、スペイン語が使用頻度としては高いことがわかります。
カナダの場合、政府関連の職業にはフランス語を使えることが望ましいとされることも多いです。

高井 マクレーン 若菜(たかい まくれーん わかな)

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師


群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務めた後、カナダ国ブリティッシュ・コロンビア州へ移住。現在はBC州の公立学校で教えながら、継承語学校でも日本語日本文化を教えている。

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