2026.07.09
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なぜ今、「自走する学習者」が求められるのか?~開かれた学校へ向けて、教師ができること~(第4回)

前回は、一人の教え子の事例を通して、外部接続の効果は出会いの規模ではなく、その前後で生徒が自分の問いを持ち直すところに現れることを確認しました。

今回はその補論として、探究学習に「少し先を歩く他者」が入ることの意味、教師に求められるアンテナのあり方、出会いの前後をどう設計するかという実践的な視点を取り上げ、この4回にわたるテーマの締めくくりとしたいと思います。

花園中学高等学校 社会科教諭 伏木 陽介

ゼミ活動に「少し先を歩く他者」が入る意味

 

卒業生との交流は「気軽に相談できる」「身近なロールモデル」として機能する 

外部接続の中で、近年特に可能性を感じているのが、探究学習に学校外の伴走者が入る仕組みづくりです。本校では、卒業生やNPO、近隣の大学も含めた連携を通して、大学院生・ポスドク・研究者・大学生メンター・企業の方などが生徒の探究に関わる機会を少しずつつくってきました。

学校の中だけで探究的な学びを進めていると、問いの立て方や調べ方が似通ってしまうことがあります。教師が基本的な方法を支えることは欠かせませんが、ある段階を過ぎると生徒は「この問いは本当に研究になるのか」「どの文献から入ればよいのか」「自分の考えは独りよがりになっていないか」という壁にぶつかります。
そのような時、教師とは異なる立場から問いを返してくれる存在がいることは、大きな意味をもちます。

大学院生やポスドク・研究者は、専門知識をもっているだけではありません。問いを立て、文献を読み、仮説を修正し、他者からの批判を受けながら考えを磨いていくという営みのただ中にいる人たちです。
大学生メンターもまた、高校生にとっては教師よりも少し近く、しかし自分たちより少し先にいる存在です。そうした人たちとの対話は、知識を教えてもらう以上に、問いとどう向き合うのかを肌で感じる機会になります。

ゼミの中で生徒が自分のテーマを説明したとき、外部の伴走者から「それは誰にとっての問題なのだろう」と問われることがあります。高校生にとってはハッとする瞬間ですが、相手が年齢の近い大学生であれば、それはダメ出しではなく、視点を広げ合うフラットな対話になります。
教員がすべきことは完璧な指導ではなく、生徒たちが等身大の言葉で安心して試行錯誤できる場と時間を緩やかに見守ることです。その安心感があるからこそ、生徒は問いかけによって自分の考えをもう一度見直し、調べる対象を絞り、次に読むべきものや会うべき人を考え始めます。

教師に必要なのは、人脈よりアンテナである

 

NPOや大学院生で構成される探究メンターにもつないでいく 

こういう話をすると、「それは外部につながりのある学校だからできるのではないか」と感じる先生もいらっしゃるかもしれません。私自身も、その受け止め方をいつも意識しています。

けれども、最初から特別なネットワークが整っていたわけではありません。出発点は、教師自身が日々の生活や仕事の中ですでに出会っている人や情報を、教育資源として見直してみることにあります。
保護者、卒業生、地域で働く方、大学時代の知人や同窓生、研修で出会った先生、書籍を通して知った実践者。学校の外へつながる小さな糸口は、私たちの周りにすでにいくつもあります。

大切なのは、それらを授業とは関係のない個人的なつながりとして終わらせず、生徒の問いや学びと結びつけられないかと、いったん置き換えて考えてみることです。
現在実施しているさまざまな方々との伴走関係も、生徒の問いに対して学校の中だけでは支えきれない部分があるという前提に立ち、誰とつながれば学びが前に進むのかを相談しながら形にしてきたものです。

そこには手間も不確実さもあります。それでも、教師自身が学校の外へ少し手を伸ばしている姿は、生徒にとって一つのモデルになります。生徒に自走と越境を求めるのであれば、まず私たち自身が動いてみる必要があるのかもしれません。

大がかりな地域連携を一人で背負い込む必要はありません。自分のちょっとした知り合いに声をかけてみること、隣の先生に「こんな面白い大人がいる」と雑談ベースで共有してみること。そうした心理的負担の少ないスモールステップから、気楽に始めていくことが大切です。

外部の大人にとっても学びになる関係へ

外部連携を考えるとき、もう一つ大切にしたいことがあります。それは、学校が外部の方々に「来てもらう」「教えてもらう」だけの関係にしないことです。

大学院生やポスドク・研究者・大学生メンターにとっても、高校生に専門性を伝えることは、言葉を選び直し、問いの立て方を見つめ直す機会になります。教師にとっても、現在の学問の動向や、生徒が教師以外の大人との対話で問いを深めていく姿に触れる学びがあります。

学校が外部とつながるとき、そこにあるのは一方通行の支援ではなく、互いの明日につながる学び合いでありたい。私はそのように考えています。

外部との出会いの前後をどう設計するか

外部との接続が効果を持つためには、出会いの前後の設計が欠かせません。ただ講演を聞く、ただ施設を訪問するだけでは、生徒の中に残るものは限られてしまいます。

外部の方と出会う前には、生徒自身が「何を聞きたいのか」「自分はそのテーマについて今どのように考えているのか」を言葉にしておく必要があります。
出会いの後には、「何が印象に残ったか」だけでなく、「自分の問いはどう変わったか」「次に誰に話を聞きたいか」「自分は何を試してみたいか」を振り返る時間が必要です。

 この振り返りの際、単に楽しかった、刺激を受けたという感想で終わらせない工夫が求められます。たとえば、外部との対話前後で問いの具体性や調査対象の広がりがどう変化したかを可視化する、簡単な自己評価ルーブリック(評価指標)を生徒自身に提示してみてはどうでしょうか。
自分の問いがどう深化し、次に調べるべき対象がどう広がったかを客観的に捉え直すこと。その手応えこそが、生徒が自走する学習者へと成長していくための確かな証拠(エビデンス)となります。

ゼミ活動に外部伴走者が入る場合も同じです。面談前に「今困っていること」「聞きたいこと」「自分なりの仮説」を書かせておく。面談後には「返ってきた問い」「次に調べること」「考え直したこと」を短く記録する。それだけで、外部との対話は単なる助言の場ではなく、探究を前へ進める節目になります。

文部科学省の「総合的な探究の時間」でも、実社会・実生活と自己との関わりから問いを見いだし、探究の過程を通して自己の在り方生き方を考えることが重視されています。そう考えると、外部との接続は特別な学校だけが行う発展的な取り組みではなく、探究の本質に深く関わるものだと言えるでしょう。

自走する学習者を育てるために、大人も自走する

自走する学習者と学校にむけて  

筆者作成  

4回にわたって「自走する学習者」を育てることについて考えてきました。

改めて思うのは、自走する学習者は放っておけば自然に育つわけではないということです。かといって、教師がすべてを整え、先回りして道を示しすぎても、生徒の自主的な発想の想定外に対応しきれず、それも自走にはつながりません。
大切なのは計画を完璧につくりこむことではなく、授業の中に「あの大人の意見も聞いてみようか」と外へ目を向けるための余白をあらかじめ残しておくことです。その余白の中で生徒の問いが外の世界と出会い、更新される環境を、生徒と並走しながら進行形でつくっていければよいのだと思います。

明日からできることは、決して大きなことばかりではありません。生徒の一言をメモしておくこと。授業の最後に「この問いを誰に聞いてみたいか」と尋ねること。卒業生や地域の方、大学・企業・NPOの方に、まずは短く相談してみること。大学生や大学院生に一度だけコメントをもらえないか声をかけてみること。
そうした小さな接続が、生徒にとっては自分の学びを自分で動かし始めるきっかけになるかもしれません。

学校を開くとは、学校の価値を弱めることではありません。むしろ、学校の中で育まれている問いや学びを、社会の中で生きたものにしていくことです。

生徒の小さな問いに耳を澄ませること。その問いを、内外の誰かに届けてみること。うまくいかなかった経験も含めて、次の学びに変えていくこと。
そうした日々の積み重ねの先に、生徒が自分の学びを自分で引き受けていく姿が少しずつ現れてくるのではないか。私自身も、その途上にいる一人として、これからも模索を続けていきたいと思います。

伏木 陽介(ふせぎ ようすけ)

花園中学高等学校 社会科教諭/中高一貫(ディスカバリー)コース統括・ICT担当、東西探究交流会代表


長年にわたり、探究学習のプログラム策定や実践に携わってきました。
学校や授業の改革には何が必要かを考え、現場でのチーム作りや実践を重ねております。
また、大学などの「学術知」を中高の教科指導とどう結びつけるかを追求し、共通テストの分析やICTとの接続等の教材開発に取り組んでおります。
こうした経験を活かし、未来の学びの創造に貢献したいと考えています。

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