2025.09.03
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学習指導要領における「自信」の育成~外国語教育で子どもに自信をつける方法~

「自信をつける」簡単そうだけど難しい。
今回は学習指導要領における「自信」について考えてみたいと思います。

西宮市立総合教育センター 指導主事 羽渕 弘毅

学びは一直線ではない

授業をしていると、「教えればできるようになる」と思ってしまうこと、ありませんか。でも、子どもの学びはまっすぐ進むものではありません。できたと思っても、またつまずき、そこから「もどり」ながら少しずつ前に進む——そんな道のりの中でこそ、確かな力と自信が育ちます。
だからこそ、その過程で安心して試せる環境、つまり心理的安全性が欠かせません。実は学習指導要領の外国語教育の解説にも、この心理的安全性を支えるキーワードとして「自信」が何度も登場します。

自信は学びのエンジン

例えば、「『知識及び技能』を実際のコミュニケーションの場面において活用し,考えを形成・深化させ,話して表現することを繰り返すことで,児童に自信が生まれ,主体的に学習に取り組む態度が一層向上する」(p.14, p.73)とあります。
自信は単なる気持ちの問題ではなく、学びを続けるためのエンジンのようなもの。だからこそ、授業の中で「できた!」と思える瞬間をどうつくるかが大切になります。

小さな成功を積み重ねる

そのためには、段階的なスモールステップが欠かせません。
「『簡単な語句』から『基本的な表現』へと段階的に聞き取っていくことを示している。その際,児童自らが『分かった』という自信につながるように,十分に聞くことに慣れ親しませることが重要である」(p.16, p.19)とあるように、小さな成功体験を積み重ねられる活動設計が必要です。

授業エピソード① 続けることで自信につながる

6年生のリスニング活動で、ある児童が最初の聞き取りに失敗し「全然分からない」とつぶやきました。そこで先生はすぐに次へ進まず、音声を少しゆっくりにしてもう一度聞かせました。児童は「あ、今度は聞こえた!」と声を上げ、ワークシートに自信を持って答えを書き込みました。

この「続けること」を保障した時間が、児童に「自分でもできる」という感覚を残し、次の活動へ進む意欲につながりました。

複線的な学びを生かす

もちろん、全員が同じペースで進むわけではありません。途中で立ち止まったり、逆戻りしたりする子もいます。そんなとき、一つの道筋だけではなく、複数の進み方を用意しておく複線的な授業が力を発揮します。
そして面白いことに、こうした複線的な学び方は、大人よりも子どものほうが得意です。遊びや日常生活の中で、同時にいくつものことをやったり、違う方法を試したりする柔軟さをもともと持っているからです。授業でもその特性を生かせば、「もどり」ながらでも自信を失わずに進める環境がつくれます。

話す活動での安心感

話す活動では、「児童一人一人が自信をもって発表できるよう,個に応じた支援を行うとともに,練習など準備の時間を十分確保する必要がある」(p.34)とされ、発話が不完全でも「英語を使おうとする意欲や態度を認め,賞賛し,支援を行う」(p.32)ことが推奨されています。
複線的な授業であれば、発表までの準備方法や表現の仕方にも複数の選択肢を用意でき、子どもの得意なアプローチを生かせます。

授業エピソード② できているシーンを認める

ペアで自己紹介を練習しているとき、ある児童が言葉に詰まりながらも “My favorite food is … rice ball.” と話しました。正確さに欠ける部分はあったものの、先生はすかさず「英語で伝えられたね!」と声をかけました。児童は照れながらもうれしそうに笑い、次の順番ではより大きな声で挑戦しました。

発話の不完全さよりも「できているシーン」を認めることが、自信と挑戦意欲を後押しした瞬間でした。

書く活動は成長を見える化する

書く活動も同じです。
「書いたものは残るため,児童に自身の成長を認識させやすく英語学習に対する自信をもたせるきっかけになり得る」(p.110)という特性を活かし、積み重ねとスモールステップで達成感を育てます。ワークシートやポートフォリオを活用して、昔の自分と今の自分を見比べられるようにする工夫も効果的です。「あのときより書けるようになってる!」という気づきは、次の挑戦へのエネルギーになります。

「自信の芽」を育てよう

自信を育てる授業のポイントは、段階的かつ複線的な学びの経路をつくること、不完全な挑戦も認めること、完成形を見せて安心して取り組ませること、そして成果を見える形で残すこと。この4つを意識するだけで、教室の空気はぐっと変わります。

子どもたちは、私たちが思っている以上に柔軟で、いくつもの道を行き来しながら学ぶことができます。その力を引き出す授業を、一緒につくっていきませんか。
小さな成功を何度も味わうこと。それが子どもたちの自信となり、「またやってみよう」と思える安心感を生み出します。私たちの授業づくりは、その一歩一歩の支え役でありたいものです。

羽渕 弘毅(はぶち こうき)

西宮市立総合教育センター 指導主事
専門は英語教育学、学習評価、ICT活用。高等学校や小学校での勤務経験を経て、現職。これまで文部科学省指定の英語教育強化地域拠点事業での公開授業や全国での実践・研究発表を行っている。働きながらの大学院生活(関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程前期)を終え、「これからの教育の在り方」を探求中。自称、教育界きってのオリックスファン。

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