困っている子をみんなで支える ~不登校の子どもが安心して過ごせる居場所と支援~(1)
不登校の子は12年連続で増加し,過去最多との調査結果が文科省から公表された。
また別の調査によれば「不登校の子どもの対応に困っている」「不登校の子どもや親に対応する時間がなくて困っている」と感じる教員が80%を超えるとの結果も。
不登校の子どもを支えるさまざまな場所や機関が,学校の外にも増加している。
でも,そこでどんな教育がなされ,子どもたちはどう過ごしているのか,自分は不勉強のままだった。
今回は先日訪問したある自治体の教育支援センターで学んだことを紹介したい。
静岡大学大学院教育学研究科特任教授 大村 高弘
心地のいい居場所として
大きな部屋に,10人ほどの小中生の姿が見える。
支援員と笑顔で会話している子,仲間とカードゲームに興じる子たちの姿がある。影響を与えないよう外から参観させてもらったが,部屋の中はいたってにぎやかな感じだ。
廊下を挟んだ小部屋にはトランプ,けん玉,ボードゲームなどがたくさん置かれている。
ー 仲間との遊びに使われるんだろう ー
そう思って見ていると女子中学生2人が部屋から出てきた。スタッフが声掛けすると表情は明るい。この施設が心地よい居場所になっているようだ。
センターの日課は午前中に始まり、日によって活動時間が異なる。スタッフとの語らい,個別での学習,レクリエーションなどでのふれあい,自分の好きな活動に取り組む時間(楽器の演奏や創作活動,スポーツなど),振り返り,という内容で1日を過ごす。農業体験や料理教室,文化施設の訪問等も年間のなかに位置づけられている。
廊下の掲示物に,来所している子の今年の目標があった。
「友達がたくさんほしい」「仲のよい人ができますように」「絵がうまくなりたい」「ちゃんと練習してエレキギターが弾けるようになりたい」「受験のために勉強」など。
どの子にも夢や願いがあり,その子はその子として今・ここで精いっぱい生活をしている。
タブレットに向かい集中している子もいた。
学校から借りた端末を持参して使用し、オンラインで教室とつながれば,この子が画面に顔を出すことはなくてもチャット欄での反応はできるだろう。
「何をしているの?」の問いかけや「いいね!」などの言葉がもらえれば,級友とのつながりは深まるかもしれない。
こう考える自分には学校復帰への期待が大きくあった。でも,スタッフの説明を聞くうち……
原因が何であるかよりも
学校システムのもつ何かが,ある子にとっては力を高めるものとして働き,ある子にとっては弱めるものとして影響を与えてしまう。ネガティブな刺激に対し強い心をもった子なら受け流せても,繊細だったり力が弱まっていたりしたら耐えられないこともあるだろう。
今学校に行けないのは,自分と学校の何かとの関係がうまく組み合わせられないから。その子自身は良くも悪くもない。
「学校に行ってほしい」「学校に来てほしい」は,周りの大人たち皆が願うこと。だから保護者や学校との相談の中では,不登校の理由や背景が当然話題になる。でも大切なのは「行けない理由をつぶしていくことではない」とスタッフは言う。
本人は心の底で「行きたい」と思っているはず。さまざまな原因が積み重なってコップがいっぱいになっている。最後に注がれたスプーン1杯が引き金になったかもしれない。本人だって理由はわからない場合も多い。とすれば,原因を探るより今の状態を受けとめることの方が大事だと。
スタッフに寄り添われ仲間とかかわるなかで,「自分は受け入れてもらえる存在」との自己受容の感覚は高まっていく。ゆるやかな時間をここで過ごすことで,エネルギーを蓄電していく。自分はどんなとき・場であったなら力を発揮していけるのかを見つけ,自信をもてるようになることをスタッフは願ってかかわる。
かつては「学校復帰をゴール」にした指導が進められた。でも「学校に来る」「学校に来ない」の二者択一でなく,グラデーションで考えることが必要とのこと。
その子に合った場所や機関が選択され,関係者皆が長期的な視野でその子を支えていく。重要なのは「将来の社会的自立をめざした支援」であるとのこと。
とすれば,学級担任としては,
ー また一緒にやろうね。でも今はあなたをOKするよ -
ということか。
スタッフへの質問が院生から出された。二つの内容が印象に残ったので紹介する。
現職で院に来ているAさんは,
「自分の受け持った子が不登校になったのですが,その子が今は登校できる状態になっています。うれしいことです。担任である以上,学校復帰への働きかけはしたいと思います。でも,これって『将来の社会的自立』を促すことと矛盾しているのでしょうか?」
学部卒院生のBさんは,
「自分が中学校の時,親しい友達が不登校になりました。学校に来てほしい気持ちでいっぱいでした。でも説明にあったように『将来の社会的自立』をめざすなら,無理な誘いはいけなかったのかもしれない。周りにいる子のかかわりはどうあるべきで,どんな教育が求められるのでしょう?」
どちらの発言も,「将来の社会的自立への支援こそ重要」との言葉に,どこか消極性のような違和感をもったように思える。わたしも同様に感じた。
スタッフの回答は,「学校おいでよ!」という教師や友達の思いは当然のもの。その構えであるべきだ,とのこと。センターで過ごすうち,子どもから「学校,行ってみようかな」の声が聞かれた時は,もちろん自分たちも後押しする,と。あくまでもその子の思いと動きを尊重するのだ。
とすると学校の教育者に必要なのは,目標と目的の両方ではないだろうか。
担任として自分が受け持った期間の中で「ここまでを目標にしよう」と考え働きかけをしていく。でも目標に囚われてその子に無理をさせることはよくない。
保護者,相談員,心理士,医師等と連携しながら,その子が将来を幸せに生きられるための社会的自立を支援するという大きな目的もまた頭に置く。
終了後の時間に
話し合いが終わっても部屋に残り,スタッフと話す院生の姿があった。
ー ここでボランティアをやってみたい ー
との思いが高まっての相談だった。
困っている子を支える大事なものがこのセンターにある,との実感からだろう。

大村 高弘(おおむら たかひろ)
静岡大学大学院教育学研究科特任教授
教員不足の問題がいろんな機会に取り上げられています。
でも教職は実に愉しくやり甲斐ある仕事ではないでしょうか。
その魅力を読者の皆さんといっしょに考えていきたいと思います。
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