オランダ研修で実感した「心地よく学んだ方が身に付く!」ーその後の教育実践
10年前、初めて訪れたオランダでのイエナプラン教育研修。その経験は、私の教育観と実践を大きく揺さぶりました。
「安心して学べる空気」「落ち着いた日常としての学校」「できること以上の挑戦」── そのすべてが、日本の教室での実践へとつながっていきました。
本稿では、オランダでの衝撃的な3つの出会いと、それを受けて私が公立小学校で始めた"サークル対話"と"自立学習"の実践について振り返ります。
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員 川崎 知子
ちょうど10年前の2015年8月末、私は初めてオランダを訪れました。
リヒテルズ直子さんが主催する、1週間のイエナプラン研修に参加するためです。
この研修で出会った衝撃は、10年たった今も鮮やかに心に刻まれています。
今回は、私が心を動かされた3つの場面と、その後の日本の小学校での実践を振り返ります。
その1 豊かな時間としての研修
研修施設は、アムステルダムの空港からバスで2時間ほど移動した森の中にありました。 日本の「研修所」とはまるで異なり、ソファや花があり、壁には絵が飾られていて、コーヒーや紅茶を片手にゆったりと研修が始まります。
「ちょっと長く話しすぎたね、休憩しようか」
講師の先生のそんな一言に、思わず肩の力が抜けました。
上下関係の厳しさや「起立、礼!」といった形式はなく、そこにあったのは、安心できる空気でした。
あるとき、サークル(円)になって科学的な対話をする時間がありました。正直、私はその内容にあまり興味が持てませんでした。
「授業がつまらない子の気持ちって、こんな感じかもしれない」と気づきました。
それでも、自分のペースで思いを巡らせながらその場に座っていられることに、不思議と心地よさを感じたのです。
そして、日本で数年間、大人同士でサークル対話に取り組んできましたが、なぜかいつもしっくり来なかった……その理由が、ようやくわかりました。
足りなかったのは「心地よさ」でした。
「何か話さなきゃ」というプレッシャーのない空気。自分が今ここにいていいと思える雰囲気。それこそが、サークル対話の本質だったのです。
この体験以降、私は学校でも学校の外でも、「安心」や「居心地のよさ」を大切にしながら、学びの場をつくるようになりました。
その2 一日中が「落ち着いた休み時間」
研修中に訪れた、オランダのイエナプランスクール。
一言で言うなら、一日中が「落ち着いた休み時間」でした。
授業中のように、全員が椅子に座って、シーンと張り詰めたような空気はありません。
休み時間だからといって奇声を上げたり、けんかをしたりする子もおらず、全体にゆったりとした空気が流れていました。
集中して学んでいる時間もあれば、真剣に話し合っている時間もある。
初めて教室に入ったときの静けさと穏やかさは、今でも鮮明に思い出せます。それ以来、私は「授業中だから」「休み時間だから」と時間で区切るのではなく、
常に「人間らしい生活」ができる学級を目指してきました。
「授業中の姿」と「休み時間の姿」が大きく変わらないこと。
できれば、「学校での姿」と「家での姿」もあまり変わらないこと。
親の前でちょっと反抗したり、だらっとしたりできるのは、実はとても大切なこと。
そういう姿を見せられる関係は、幸せの証だと感じています。
その3 できること以上のこと
研修の最終日、私たちは2校目の「ワイドスクール」を訪問しました。 小学校・特別支援学校・保育園が一体となった学校で、玄関には大きなテーブルとキッチン。 明るいオレンジ色の空間が広がり、2階には電車の先頭車両の模型が置かれ、その中で子どもたちが夢中になって学んでいました。 「日本だったら取り合いになるかも」と思わず笑ってしまいました。
見学後、校長先生との質疑応答の時間がありました。
そのときの言葉が、今でも私の背中を押し続けています。
「みんな、“自分にできること”をしようとするでしょう。でも、それだけだと枠はどんどん狭くなる。
だから僕はいつもこう考える。“できること以上のこと”をしよう。」
その言葉に触発され、私は帰国してすぐ、小学校2年生のクラスでサークル対話と自立学習をスタートさせました。
日本での実践 〜教室の中で始めたこと〜

小学校2年生の教室でサークル対話
夏休みの間に机を教室の後ろや横に寄せ、黒板の前に椅子でサークルを作りました。
2学期の始業式、教室に入ってきた子どもたちは目を輝かせて「なにこれー?」と驚いていました。
オランダで見てきたことを伝え、「しばらくは輪になって遊んだり話したりしたい」と説明すると、子どもたちはすぐに応じてくれました。
後に「輪になった方が緊張せずに話せる」と振り返る子もいました。
今まで発言をしなかった子が自然に話し始めたり、学習への主体性が高まったりと、たくさんの変化がありました。
その後は、毎日のはじまりや授業の導入でサークル対話を行い、そのあとは各自が自分の机で自立学習。
全体への指示は少なくなり、子どもたちは一人ひとりのペースで学びを進めていきました。
当時は、毎週のふりかえりをすべて書き起こして記録していたほど、私自身も夢中になっていました。
子どもたちのふりかえりには、こんな言葉が並びました。
「計画を立てるのが楽しかった」
「静かに集中できた」
「最初はめんどくさいと思っていたけど、自分のためになると気づいた」
「最初は失敗ばかりだったけど、最後には全部終わってうれしかった」
「また3年生でもやりたい」
「大人になっても困らないかもしれない」
一斉授業では見えなかった子どもたちの内面や、つまずき、そして成長の軌跡。
それを一つひとつ受け取ることができたのは、あのとき「できること以上のこと」に踏み出したからだと思います。

川崎 知子(かわさき ともこ)
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員
元公立小学校教員。東京・広島の小学校で約20年勤務。
2017年からは家族とともにオランダに渡り、イエナプラン教育を学ぶ。日蘭イエナプラン専門教員資格を取得し、現地のイエナプランスクールでアシスタントとして2年間勤務。20校以上の小中学校を視察した。
帰国後は、広島県福山市立のイエナプランスクール開校に携わり、現在は日本イエナプラン教育協会理事。
不登校支援や特別支援教育、保護者との関係づくり、対話・探究・遊びを通して、子どもも大人も、安心できる学びの場づくりに取り組んでいる。
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