2021.06.07
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魅力的な学習課題への道程~4~

子ども達が意欲的に学習課題に取り組むにはどういった学習課題がよいのかを提案します。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

授業の中で「思考する」時間を確保すること

前回は、新しい国語科の授業デザインとして

1.前回の振り返り
2.めあての確認
3.グループトーク
4.全体交流
5.まとめ
6.振り返り
7.次時の学習課題の提示

というものを提案させていただきました。
これは、前回にも書いた通りなのですが、授業の中で子どもたちが「思考する」時間をしっかりと確保し、子どもたち全員が考えをもっている状態で授業に臨ませることで、グループトークを活性化させ、より深い学びにたどり着くことを狙っています。

1.「次時の学習課題の提示の仕方」について

ただ、ここで大事になってくるのは、この授業の最後にある「次時の学習課題の提示」の仕方にあると考えています。構成主義的な立場に立てば、学習とは、未知のものを既存の知識の構造の中に取り込み、それらを駆使し新たな知識を主体的に構成していくことになります。
つまり、本時レベルでの学習において、その時間の「まとめ・振り返り」をして終わりなのではなく、それと同時に次の「未知なるもの」へ取り組ませなければならないのです。従って、学習は螺旋状を描き、「終わりと同時に始まり」というイメージなのです。
そこで、新たな課題を子どもたちがもつのは素晴らしいことではあると思いますが、現場レベルでは、なかなかそういう状況になることはありません。たとえ、子どもたちが新たな疑問をもったとしても、それが教師の指導事項と重なる可能性は低いと思います。
では、どうしたらよいか。それは、やはり教師からの働きかけがあってこそだと思います。このことについては、教育学者の吉本均氏も次のように述べられています。

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教科「学習集団」の授業においては、教科内容の伝達=習得にあたって、それを、いかにして子どもたちの追求したいもの、探究したいものへと転化していくことができるかということ、つまり、教材と子どもとの媒介過程を重視する必要があると考えているからである。(中略)教師の教えたいものを子どもたちの学びたいもの、追求したいものに転化していくところに、まさに、発問の課題が存在しているのだからである。(『発問と集団思考の理論』.吉本均編.1977.03.明治図書出版)
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このことからも分かるように、決して、子どもたちから自然に出てくるのではなく、教師の教えたいことを子どもたちの学びたいものに転化していくような「発問」の仕方が重要になってくるのです。

2.子どもたちが学びたくなるような「発問」の仕方は?

では、教師の教えたいことをもとに、子どもたちが学びたくなるような「発問の仕方」はどうすればいいのかを考えていきたいと思います。
例えば、物語教材で、「じゃ次は〇〇の気持ちを考えようか。宿題で〇〇の気持ちを考えてきてね」と発問(?)したところで、果たして子どもたちは、「やったー!頑張って考えてくるぞ」となるでしょうか。答えは「否」です。これは、成績下位層の子にとっては酷以外の何物でもありません。では、どういう「発問」をすれば、子どもたちは、考えたくなるのでしょうか?

そもそも、興味を抱かせるのには、5つの原理があるとしたのは大島純先生です。
著書『学習科学ハンドブック』(2019.09北大路書房)の中で、①新奇性、②挑戦性、③意外性、④複雑性、⑤不確実性、の5つを示すことが、発達段階に左右されることなく興味を示すことが明らかにされていると述べられています。
また、櫻井茂男先生は、著書『たのしく学べる教育心理学』(2017.02.図書文化社)において、学習意欲を高めることが学力向上に繋がるとし、知的好奇心をくすぐり、概念的葛藤を引き起こすことで学習意欲は高まるとしています。

以上のことをヒントに、例えば、児童が「恐らくそうなるであろう」と考えていることに焦点を当て、「本当にそうなの?」とゆさぶりをかけるような学習課題の設定(不確実性)や、教師の掛け合いから学習課題にもっていくという提示の仕方(新奇性)、「どのくらい嬉しかったと思う?レベルで答えてみよう」といって友だちとの意見にはっきり差をつける学習課題の設定(挑戦性)などが考えられると思います。

以上に挙げたのはあくまでたとえの話ですが、学習課題を考えるときは、ただやみくもに考えるのではなく、先に述べた5つの理論や概念的葛藤を生み出すような学習課題を考えると、子どもたちの意欲にも繋がっていくのではないかと思います。
今後、学習意欲を駆り立て、家でも取り組もうと思えるような「魅力的な学習課題」を整理・分類していけたらと思います。その時は、またここでご紹介させていただきます。

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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