2019.09.26
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低学年で大事にしたいこと(2)

これまで、就学前教育からのボトムアップを大切にした低学年教育について、少しずつ実践などを紹介してきました。今日は、その就学前教育から何をボトムアップするのかについて考えてみたいと思います。

お茶の水女子大学附属小学校 教諭 本田 祐吾

就学前教育は、幼稚園、保育園、認定こども園とあります。それぞれ、幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省、認定こども園は内閣府(文部科学省・厚生労働省とも連携)が管轄しています。
そのため、幼稚園は幼稚園教育要領、保育園は保育所保育指針、認定こども園は幼保連携型認定こども園教育・保育要領と、それぞれ別個の指針を持っています。
管轄も役割も違うので、当然といえば当然なのですが‥育みたい資質・能力は、共通しています。

(前略)次に掲げる資質・能力を一体的に育むよう努めるものとする。
(1) 豊かな体験を通じて、感じたり、気付いたり、分かったり、できるようになったりする「知識及び技能の基礎」
(2) 気付いたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする「思考力、判断力、表現力等の基礎」
(3) 心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力、人間性等」

「幼稚園教育要領〈平成29年告示〉」文部科学省、pp.5-6
「保育所保育指針〈平成29年告示〉」厚生労働省、p.10 ※(1)(2)(3)は、(ア)(イ)(ウ)で表されている
「幼保連携型認定こども園教育・保育要領〈平成29年告示〉」内閣府、pp..5-6 ※(1)(2)(3)は、アイウで表されている

さらに、幼稚園・保育園・こども園で共通して「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が以下のように示されています。

(1) 健康な心と体
(2) 自立心
(3) 協同性
(4) 道徳性・規範意識の芽生え
(5) 社会生活との関わり
(6) 思考力の芽生え
(7) 自然との関わり・生命尊重
(8) 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚
(9) 言葉による伝え合い
(10) 豊かな感性と表現

「幼稚園教育要領〈平成29年告示〉」文部科学省、pp.6-7
「保育所保育指針〈平成29年告示〉」厚生労働省、pp.11-12 ※(1)(2)(3)‥は、アイウ‥で表されている
「幼保連携型認定こども園教育・保育要領〈平成29年告示〉」内閣府、pp..6-7 ※(1)(2)(3)‥は、アイウ‥で表されている

それぞれの項目の内容は省略しましたが、(4)や(6)で「芽生え」と書かれているのが象徴的で、どれも子どもたちがこういう姿に育っていきますよ、ということが示されています。つまり、教師(保育者)が、子どもたちが、活動する姿からこういう育ちを見取りましょう、見取れるようになりますよということなのです。
では、どのように子どもたちは活動するのでしょうか。
当然ながら、「あそぶ」ことを通してです。子どもたちが、主体的に取り組む、換言すれば、自分のあそびたいことに没頭し、そこで生まれる人やモノとの関わりを通して育まれるのです。

昨年、とある園の年長さんを参観する機会がありました。教室に入ると、数人の子どもたちが教室の片隅で何やら相談しています。
「じゃあ、やるよ、せーの」という声と共に始めたのはハンドベルでした。みんな楽しそうに、でも真剣に取り組んでいます。
別の場所では、3人の子が自分たちで手作りした(とおぼしき)スタンドとマイクをもち、これまた自作の衣装を身につけ、振り付けつきで歌っています。
他にも、教室の絵本コーナーで絵本を読む子、工作をする子など、自分の取り組みたいことに没頭しています。それらの子たちが、それぞれに活動をしているのですがバラバラなのでもなく、適度な距離感で必要なときに必要な関わりを持てているのです。そこには、何とも穏やかな、そして子どもたちが楽しむ自由な空間がありました。
驚いたのは、お昼が近づいた頃のことです。先生が「そろそろお昼だから、お昼の準備をしましょう」と言いました。すると、どの子も今自分の使っていたものをさっと片付けるだけでなく、他にも出ているものを見つけて片付けたり、机と椅子をお昼用に並べる子など、それぞれが自分のしごとを見つけて取り組んでいるのです。しかも、それらが指示ではなく、子どもたちがごく自然と行っていたのです。
子どもたちが自分のしたいことを思い思いに、試行錯誤を繰り返しながらあそびながら、主体的に活動をすることを学んでいった結果なのではないかと思いました。本当に、自然に自分のできることを見つけながらしごとをしている姿は年長さんには、思えないほどでした。自分のことだけでなく、みんなのためのしごとを自分事として引き受けられるというのは、子どもたちがあそびながら、身につけたものにほかなりません。子どもたちにとっては、あそびとしごとの境界線がなく、どれも今自分がしたい(する)ことになっているのだと思いました。
同時に、この子どもたちが身につけた主体性、自然に“しごとをする”姿を、どれだけ小学校は引き継いで伸ばせているのだろうか、と思いました。
学校は、ともすると、先生が把握しやすいように活動を組織してしまいがちです。でも、そうやって「管理」することが、子どもたちが就学前教育で身につけた主体性を奪ってしまっていないでしょうか?

就学前教育で身につけたことを今一度ふりかえり、小学校ではどうそれらを引き取り、「ボトムアップ」していくのか、目の前の子どもと、そして幼稚園や保育園、こども園の先生方からも学んでいきたいですね。

幼稚園や保育園、こども園の視点から、小学校教育を構想することも、今まで以上に大切なことだと思います。

本田 祐吾(ほんだ ゆうご)

お茶の水女子大学附属小学校 教諭
ここ数年は、主として低学年を担当し、就学前教育からのボトムアップを大切にした幼小接続期の研究に取り組んでいます。フレネ教育やイエナプラン教育を参考に、その知見を生かして、個別と協働・プロジェクト型の学習を作っています。子どもたち自身の手で学びや生活を創る中で、教師がどのようにあるべきかを模索しています。

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