学級におけるパワハラ的指導は「恐怖条件付け」である
夏休み真っ盛りですね。
しっかりと働き、しっかりと休みことが大事です。切り替えが大事ですね。
今回は、これまでも話題にしたことのある「厳しい指導」について書きたいと思います。
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明
「ダークペダゴジー(闇の教授法)とは」
これまで私はこのつれづれ日誌の場で、教師が厳しい指導をすることの是非についていくつかの文章を書いて来ました。
「子どもの行動変容を促す方法 ~厳しい指導でなく、子どもが納得できる説明を~」
「褒めて育てること」
そういう問題意識の中で、ドイツの精神科医アリス・ミラーに関するものを読む機会がありました。厳しい指導(パワハラ的指導)の原因や影響について非常に詳しく述べられていました。アリス・ミラーは、教師が非常に大きな声で指導することなどを「ダークペダゴジー(闇の教授法)」と呼んでいます。(ちょっとハリーポッターに出てきそうな感じですが・・・)
パワハラ的指導は、学習心理学でいう「恐怖条件付け」なのだそうです。そのため、脳の恐怖中枢を刺激し、人を選ばず、即効性を発揮します。「教室」という環境は、その条件からダークペダゴジーが行われやすいのだそうです。「密室的環境」と「他者をコントロールする必要性」からです。学校以外では、監獄、捕虜収容所、入院病棟などがそうです。学校においては、特に「小学校の学級」と「中学の部活」がダークペダゴジーを用いられやすいのだそうです。
また、教師の過酷な労働環境もその要因の一つだと指摘しています。疲労や精神的不安は、攻撃性や自己中心性、不寛容など理想的教師像にとって致命的欠点を昂進させるそうです。子どもにおいては、精神的に委縮し、罰の回避を最優先とするため創造的な行動や複雑な行動が抑制されます。
攻撃的命令的な大人の振る舞いが子どもに模倣学習されることも指摘されています。脳にも悪影響があり、罰や虐待を長期受けた子どもの脳には萎縮や発育不全が見られるそうです。副腎皮質で大量に分泌されたコルチゾールというストレス物質が脳に侵入し、脳細胞を死滅させ、再生産を阻害します。そのため、短気や情緒不安定、睡眠障害、鬱、社会的不適応などの多様な問題の要因になると考えられています。
非常に学びのある内容でした。私がこれまで問題意識として持っていた「荒っぽい指導の問題点」「褒めて育てることの良さ」「虐待の連鎖」などが科学的根拠をもとに説明されていました。
「非正規の若い教員には配慮が必要」
そういったことと関連して私が気になっているのが「非正規の若い教員」についてです。新採用者などの経験の少ない教員は、学習指導においても学級経営においても上手くいかないことも多いです。そういったことを想定して、初任者教員には、様々な研修の機会がありますし、校内に研修担当職員もいます。勿論、初任者教員が担当しているクラスの中にも頻繁に入り、場合によっては保護者対応などもします。
しかし、問題なのは小学校で働く若い非正規の教員です。定年退職をした後に、時間を減らした形で働いているような非正規の教員は問題ありません。大学4年の時に採用試験に受からず、卒業した後に非正規で教壇に立ったようなタイプの場合です。経験か少ない(無い)にも関わらず、正規の採用者のように十分なケアはされないことが多いです。
特に注意が必要なのが男性です。「若い男性だから」という理由で小学校の高学年を担任させたり、少し落ち着きのない子どもを担当させたりすることがあります。経験年数も少なく、研修も十分に受けていないので色々なことがうまくいきません。そういった時につい「感情的に」怒ってしまうこともあると思います。子ども達はびっくりして静かになります。大声で怒鳴ることなどは、方法として簡単なので、ついそういったやり方を頼るようになってしまいます。
私は、大声で怒鳴ることなどは、麻薬のようなものだと思っています。所詮刺激なので、子どもは、すぐに慣れてしまいます。そうすると、もっと声が大きくなり、机などを叩いたり、何かを投げたり・・・とエスカレートしていきます。結果的に「体罰」となってしまうことも十分あり得ます。一度、そういった技術を身に付けてしまうと、正攻法でやることが難しくなります。私は、何か問題があった時に、何が悪いのかをきちんと説明し、説得し、ちゃんとできている子どもを褒めるなどをして子どもの行動変容を促していました。大声で怒鳴ることをしているような人はそういったことが面倒になってしまいます。
全ての非正規の若い人が上に書いたようである訳ではありません。けれども、明らかにリスクが高いのは事実です。周りにいる教員、特に管理職や一緒に組む中堅教員は、そういったことのリスクを考え、ケアの方法を考えるべきでしょう。
「終わりに」
現在の学校教育現場は、以前よりも良い意味でも逆の意味でも開かれています。担任が教室で発言したことがSNSなどによって、あっという間に広がり、場合によっては、ニュース番組で取り上げられるようなこともあります。先日の埼玉県所沢市の「3階から飛び降りろ」と担任が言ったという一件はまさにその象徴のような例です。
開かれた学校において、教師はどの立場の人から見ても後ろ指を指されないようにしないとダメなのだと思います。特に学校教育活動の中心である子どもとの関わりにおいて、きちんとしていくことは大切でしょう。そのために教師はやはりしっかりと学んでいく必要があるのだと思います。
ところで、今回の文章とは少しテーマがずれるのですが「夏休み明け」について書いたものを紹介します。夏休み明けは、非常に重要な時期です。4月の年度始めと同じ位、もしかしたら、それ以上に重要かもしれません。丁寧に取り組む必要があります。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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