新聞に福井大学の研究チームによる子どもの脳についての記事が載っていました。
虐待など親から不適切な養育を受けて反応性愛着障害(RAP)になった子どもの脳は、そうでない子どもに比べて視覚的な感情処理に関わる部位が小さい傾向があるということです。
また、やる気や意欲などに関わる部位の活動を低下しており、褒められても心に響きにくいと考えられ、被虐待児に一般的に施される「成果を褒める」などの心理療法の効果が少ない可能性もあるとのことです。
記事中に書かれている「愛着障害」は、本当に教育現場で難しい問題とされています。
先天的な脳の機能障害である発達障害(ADHD,学習障害など)との区別が難しいです。
私たち、現場の教員は診断をする立場ではありません。
しかし、毎日、そういった子ども達に接し、できるだけ上手く生活が送れるように支援しています。
この記事にあるようなことは、現場の感覚として分かります。
「虐待」もしくは、それに近いような状況を経ている子どもは、「褒める」ことがなかなか効果的に効かない印象があります。
学校には、虐待まではいかないまでも厳しい躾を受けている子どもがある程度存在します。
そういった子どもには、通常の教育手法が通じないことなどで、学級が混乱状態になることがあります。
この問題で考えたいことが3つあります。
1つ目は、「脳の補完機能」に期待したいということです。
脳は、一部の機能が失われた場合、他の部分が補う場合があるということがあります。
乳児期、幼児期に親などの不適切な関わりによって、委縮した脳であったとしても、その後の対応において、リカバーができるのではないかということです。
これからの研究に期待します。
2つ目は、教育現場の混乱です。
現状でも、こういった子どもへの対応で苦労しているのですが、通常の「褒める」という教育手法が通じないとなると対応に困ります。
「褒める」という方法以上に、もっと子どもをより良くしていく方法を私は思いつきません。
「どういった方法を取れば良いのだろう?」と非常に悩みます。
3つ目は、子どもへの虐待の連鎖についてです。
児童相談所や警察などよる、子どもに暴力などをふるった親への聞き取りでは、「親自身も子どものころに暴力を振るわれていたことがあった」ということをよく聞きます。
これまでは「自分が育てられたように自分も育てるから」というように説明されていました。
自分の親をモデルにするという考え方です。
しかし、今回のデータから考えると、暴力を振るわれて育った子どもは、脳の一部に機能障害をもった状態で大人になり、自分が親になった際、ちょっとのことで自分の子どもへ暴力をふるってしまうということが成り立ちます。
子育ては親の思い通りにならないことが多いからです。
こうやって虐待の連鎖となってしまうのかもしれません。
しばらく前、貧困の連鎖ついて話題になっていました。
この虐待の連鎖についても、貧困同様、難しい問題です。
脳の機能についての研究などが進むことで、医療ができること、行政ができること、学校ができることなどが分かってくるはずです。
不幸な子ども、そして、親が減ることを願います。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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