「小1の壁」は、ぶつかる前から始まっています

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。小学校入学前に身につけたいのは、ひらがなでしょうか。足し算でしょうか。それよりも大切な、家庭で準備できる力があります。
今回は「『小1の壁』は、ぶつかる前から始まっています」をテーマに考えました。
学校に通う準備は、家庭の中でできます
私は、子どもが小さい頃から、「学校に楽に通える準備」を始めていました。幼稚園や保育園に通うことも、その準備の一段階です。子どもが喜んで学校へ行けるため、そして、入学してからも困らないように、親の心構えとともに、3歳くらいから少しずつ練習しておくとよいでしょう。
私が大切にしていたのは、4つの力です。「聞く力」と、「理解しようとする力」「自分の意見をもつ力」「考えを表現する力」です。人が話し始めたら、耳を立てて聞く。ただ聞くだけではなく、理解しようと努力する。理解したら、自分の考えや経験をもとに自分の意見をもつ。そして、いざというときに表現できることです。
この4つが習慣になっていれば、学校の授業にも自然に適応できます。授業は、彼らにとって、「想定内」のものとなり、頭で考えなくても、先生が口を開けば耳を立てて聞き、理解しようとします。そして、自分の意見をもち、先生に聞かれたときには手を挙げることができるのです。
こうした力を身につけさせるために、私はご飯の時間には子どもとよく話していました。それが小学校の準備です。その準備ができるのは、親しかいません。小さい頃から習慣にしてしまえば、学校に通い始めてから、親も子どもも楽になります。
親も子どもも1年生
学校に入学することは、子どもが社会に関わっていくことです。学校という組織に入ると、ルールもたくさん増えてきます。家庭とは違う社会なのですから、親も子も覚悟してルールに従わなければいけません。
学校に入ると、連絡も多くなります。昔はすべて紙でしたが、今はメールやSNS、アプリなどさまざまな形で届きます。用意するものや持ち物、提出物など、親に求められることもたくさんあります。私は息子が3人いるので、中学校までは毎日が戦争でした。校外活動や発表会、学校での出来事、先生からの連絡など、忙しくて仕方がありませんでした。高校生になると少し落ち着くので、今まさに大変な親御さんたちも、そこまではなんとか乗り切ってほしいと思います。
実は、私は学校行事や保護者会には積極的に参加したいタイプですが、働いているので参加できないことも多かったのです。そんなときは、決まっている役割以外のところで、自分から貢献するようにしてきました。そうすると、先生や他の保護者の「あの人は働いているから何もしない」「私ばかり任されている」といった空気がうまれにくくなります。
親自身も1年生ですから、すべてを一人で抱え込まないことです。我が家では、勉強を教える役割を夫婦で分担していました。日本語は夫のほうが得意なので、漢字や国語は夫の担当です。「漢字テスト、見てくれる?」「日本語を教えて」と、子どもが小さい頃からお願いしていました。
高学年になってから「ついていけないから、あなたが教えて」と頼むのではなく、低学年のうちから始めたほうがいいと思います。そうすることで、親も一緒に成長していきます。自分の役割だという意識があれば、テストが返ってきたときにも自然に気にするようになります。実際、夫は日本語を教えるのは、自分の責任だと考えていました。
やりきった子育ては、あとから実ります
小学校で肝心なのは、1年生のときに授業についていけることです。1年生の勉強なら、親が教えることができます。丸つけをして、音読を聞いて、宿題を一緒に見てあげましょう。子どもに「自分って、できる子じゃない?」と思わせてあげることが大事です。子どもが楽についていけるための1年間なのです。「勉強なんてへっちゃら」「漢字は得意」「算数は簡単」と、自信をつけておくのです。「自分はできるんだ」という感覚をもてれば、その先がずっと楽になります。「小1の壁」は壁にぶつかる前に、自分で準備するものだと思っています。
そして、できたときに「頭がいいね」とは言いません。「よく努力したね」「今回はよくできたね」とほめます。そうしないと、できないときには「僕は頭が悪いんだ」と思い込んでしまいます。「どうせ頭が悪いから」と言い訳して諦めるのではなく、成長につながる考え方にしないといけません。親も「駄目な子はいない」と思っていてください。

子育て中は毎日時間がなくて、吐きそうになるほど疲れたこともありました。それでも、子育てが私の人生でいちばん大切なことだと思っていたので、精一杯やりきろうとしていました。イベントも楽しむようにしていて、感謝祭にはパンプキンパイを20個以上も焼きました。普段できないことがあるぶん、できるときには徹底的にやります。工場のようにたくさんのパイを型抜きしている息子たちの姿を見ると本当におかしくて、うれしい気持ちになったのを覚えています。焼いたパイは学校に持って行って、クラスで食べてもらうのです。それが毎年恒例となって、学校で人気な話題になったのです。そんなにたくさんパイを焼かなくてもいいのかもしれません。でも、子どものために一見無駄に思えることをする親を、子どもも愛おしく思うものです。
誕生日も一大プロジェクトで友達を大勢呼んで祝ったり、手作りのケーキを焼いたりしました。上手ではないので、失敗して焼き直すこともありましたが、美味しくなくても、形がちょっと崩れていても、そこに愛情があればいいのです。愛が伝わっていること、それがすべてだと思います。
子どもと一緒にいられるときは、一生懸命に付き合うことが大切です。親が努力している姿を見ていると、子どもはいい子に育ちます。私は完璧な母親ではありませんし、失敗も多いのですが、「ママは一生懸命だな」というのは伝わったと思います。
今の私は、子育てが実る時期にいます。成長した息子たちは本当によくしてくれて、こんなにいい子がいるのかしらと、涙が出そうになることもあります。子育て中は大変ですが、やりきったほうが後悔はありません。やりきりましょう!

アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)
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