2026.03.13
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東日本大震災を題材にした授業実践(5) 日和幼稚園バス遺族に学ぶ命と家族の絆(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池 健一さん)

東日本大震災を題材にした授業について、さいたま市立植竹小学校教諭の菊池健一さんが、全6回にわたって連載します。震災から年月が経つ中で、記憶の風化が指摘される一方、学校教育において、命の大切さや日常の尊さを伝えることの重要性は今も変わりません。低学年の子どもたちが震災を自分事として受け止めていく学びの過程を、授業実践を通して報告します。
石巻市の日和幼稚園のバス事故で愛娘を亡くされた佐藤美香さんと、子どもたちがオンラインで対話しました。命の尊さと家族の絆を自分事として捉え直した授業の様子をレポートします。

遺族・佐藤美香さんと学ぶ震災と命の重み

自動販売機にラッピングされた愛梨ちゃんの絵

震災を取り上げた取り組みを行う際には、毎年、被災地の方の話を聞く機会を設けています。埼玉県と東北地方では距離があるので直接話会うのは難しいのですが、今はオンラインで話を聞くことができます。今年度も、石巻市の「日和幼稚園遺族有志の会」代表、佐藤美香さんに話を聞くことにしました。

佐藤さんは15年前の東日本大震災で当時6歳だった娘の愛梨ちゃんを亡くされました。日和幼稚園の送迎バスの悲劇として記憶している方もいると思います。その後、佐藤さんは遺族有志の会の代表として、さまざまな発信を行っています。私も佐藤さんに指導を受け、震災当時の被害の状況を聞いたり、愛梨ちゃんが見つかった場所を案内していただいたりしてきました。

話を聞く前に、子どもたちには佐藤さんが取り上げられた記事を紹介し、当時の経験について一緒に学びました。また、遺族有志の会から寄贈された絵本を読み聞かせ、愛梨ちゃんについても子どもたちに伝えました。また、東京都北区の商業施設に設置された、愛梨ちゃんの絵がラッピングされた自動販売機の写真を紹介したりもしました。

子どもたちは、
「愛梨ちゃんは今の私たちぐらいの時に亡くなったんだね」
「佐藤さんはどんなに悲しかっただろうね」
「今、どんな気持ちでいるのだろう」
などと感想を述べていました。

「佐藤さんにお話を聞きたい!」という強い思いが感じられました。これまで、子どもたちは道徳の時間などを通して震災について学んできました。保護者や教員の体験談も聞き、15年前の震災に強い関心をもつようになっています。今回は、当時被災された佐藤さんの言葉に触れることで、さらに学びを深めたいと思いました。

「ただいま」が聞けない悲しみと二つの時計

オンラインで子どもたちに話をする佐藤さん

佐藤さんの話を聞く当日。子どもたちは複雑な気持ちでいました。オンラインで会えるのは貴重な機会ですが、聞くのは愛梨ちゃんが亡くなったときの話です。どんな気持ちで聞けばよいのか…という迷いがあるようでした。そこで、子どもたちにこう伝えました。
「きっと佐藤さんは、愛梨ちゃんの話を通してみんなに伝えたいメッセージがあると思うよ。それをしっかりと受け止めることが大切だね」

子どもたちは、これまでの学習で「家族の大切さ」「命の大切さ」を意識して過ごしています。佐藤さんの話から、そのことをもっと強く感じられるようになるのではないかと考えていました。


そしていよいよ佐藤さんの話が始まりました。まずは震災当日のお話です。いつもと変わらず、愛梨ちゃんをバス乗り場まで送っていった佐藤さん。かげふみをして過ごしたあと、バスに乗って幼稚園に向かう愛梨ちゃん。それが、最後のお別れになってしまいました。

「あの日から、愛梨の『ただいま!』を聞けていません」

佐藤さんは語ります。佐藤さんの中には二つの時計があり、一つは今の時間を刻む時計、そしてもう一つはあの日で止まってしまった時計。愛梨ちゃんと別れることになった時から、佐藤さんの中では止まってしまった自分がいるのだと思います。子どもたちはこの「二つの時計」の話をじっと聞いていました。
佐藤さんは続けます。

「今日、お家に帰ったら元気に『ただいま!』を言ってくださいね」

愛梨ちゃんの「ただいま!」を聞けなかった佐藤さんの心からの言葉を、子どもたちはかみしめていました。

子どもたちから佐藤さんたちへの質問。一番聞きたかったことです。

「佐藤さんはもし今、、愛梨ちゃんに会えたらどうしますか?」

佐藤さんは、「きっと抱きしめると思う!」と答えました。
この言葉を聞いた時の子どもたちの温かい表情は忘れられません。今年も佐藤さんからたくさんのことを学びました。

もし愛梨ちゃんに会えたら?家族の絆を語る

授業の後で、子どもたちに感想をまとめてもらいました。これまで、身近な方から震災の経験を聞いたり、被災地の方と交流することで、子どもたちは震災について自分事として考えられるようになってきました。

「毎日『いってきます!』『ただいま!』を元気に言うようにします」
「お母さんに今すぐに会いたくなりました」
「家族って本当に大切なんだなあと思いました」

そんな感想がたくさんありました。保護者にも授業参観やアンケートの協力を通じてこの取組に参加してもらいました。家族の絆について考える機会になったのではないかと思います。これから、子どもたちが成長する中でさらに震災について学び、今回学習したことを深めていってほしいと願っています。

次回は、宮城県名取市閖上の追悼行事で飛ばされる「ハト風船」にメッセージを書く活動についてレポートします。

文・写真:菊池健一

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