困っている子をみんなで支える ~発達障害のある子がその子らしく学べるための支援は,矯正教育と異なるもの~(6)
マジックミラー越しに「LD等通級指導教室」での様子を参観させてもらった。
LD,ADHD,ASDなど,発達障害にかかわる困りごとを抱える子たちが,通常の学級に籍をおきつつ指導を受けるのがこの教室である。
静岡大学大学院教育学研究科特任教授 大村 高弘
イライラしたら深呼吸
子どもと先生の声はマイクで拾われ,こちら側にも聞こえてくる。
絵カードを手にした子が首を傾げながら、
「これでいいかなぁ」
「どうかな?」
先生が微笑みながら応じる。
リラックスした姿で言いたいことをそのまま口にする子ども。ゆったりとその子に対応する教師。二人の声は柔らかく,子どもと母親の楽しいやりとりを見ているよう。でもこれが通級指導教室での授業。
教室空間に余分な刺激となるものはないが,壁面には,
ー イライラしたら,深呼吸5回 ー
との掲示がある。
高ぶった感情を,行為によって鎮める方法を身につける。それが社会生活の快適さを増進させる。自分が取り組む学習がうまく進まない時にも有効だ。こうしたスキルを習得することは,レジリエンスを高めることにもつながる。「心の調子に気付き,それを自分でコントロールしてほしい」との願いが込められているのだろう。
通級指導教室の教師は,心理,発達,医療等にかかわる専門的な知識をもって個別指導にあたっている。発達障害には各々の特性があり,それに適した対応のできる力量が求められる。では自分のように、そうした専門性を持ち合わせない者には……
一人ひとりの個性に合わせた教育を導入した少年院の挑戦
過日読んだ『心からのごめんなさいへ』のサブタイトルがこれだ。
本書では、ノンフィクションライターの品川裕香氏が、ある少年院での取材を通して、院生たちの姿や、そこで行われている教育の在り方を描いている。
例えば、院生たちは次のように語っている。
―――――――――――――――
「反省しろ,変われって言うけど,どうやって変われっていうねん。うちのオヤジはヤクザやし,おかんは薬で刑務所行ってる。信用できる大人なんて一人もおらんねんで」
―――――――――――――――
本書によれば、多くの院生は、生育の中で心に傷を負う経験をしてきたという。また、発達障害の兆候も認められたとのこと。しかし、それだけで子どもを捉えるのではなく、個々の子どもの全体を理解し、どう指導していくかを重視していることが示されている。
少年院は「矯正教育」を施すところとされる。「欠点や悪習などを正常な状態に直すこと」が矯正。しかし、私はそれとは異なる思想がこの院での教育を支えていたことを知った。
「あなたは,あなたのままでいい」
上に述べた「LD等通級指導教室」は,生きづらさを抱える子に対し,集団生活への適応,感情のコントロール,友だちとのかかわり方などを学ばせ,他者への信頼感を高め,明るく社会生活を営めるようにする場所だ。
子どもと保護者が悩みを抱え,指導教室にくる。その発達障害の状況は,医療従事者でない教師に診断はできないし,さまざまな障害が混合している子もいる。
冒頭で紹介したマジックミラー越しの参観後、保護者に入ってもらい,指導者と共に懇談をした。
該当児は他校に在籍。母親は毎回車で子どもを送迎している。ミラー越しの観察はずっと続いてきた。
「A先生がさっき言っていたように……」
「A先生の指導はいつでも……」
語りに指導者への深い信頼と敬意が感じられる。我が子の能力が引き出され,自信をもって課題に挑戦するようになった様子も報告された。無条件で子どもを受け入れ,やさしく包み込んでくれる教師に出会えたことへの感謝の気持ちが表れていた。
この教室が発行していたおたよりの名称は『スマイル』。前号で紹介した「ことばの教室」の入口には「いつも笑顔で」の掲示がなされていた。両者に共通するのは「この子を変えてやろう」の指導ではなかった。通級する子が自尊感情を高め、その子自身で力を伸ばし、自分らしさを笑顔と共に表出できる。それを願うのが通級指導教室なのだろう。
おわりに
今回を持って連載はいったん一区切りとなります。これまでお読みいただき,ありがとうございました。掲載をきっかけに思わぬ経験ができたり,貴重な繋がりが生まれたりしたことにも感謝しています。今後は不定期になりますが,お手すきの際ご一読いただけたら幸いです。
参考資料
- 品川裕香,2005,『心からのごめんなさいへ 一人ひとりの個性に合わせた教育を導入した少年院の挑戦』,中央法規出版

大村 高弘(おおむら たかひろ)
静岡大学大学院教育学研究科特任教授
これまで公立小・附属小・地教委に勤務し、現在は教職大学院の実務家教員をしています。
学校を離れてみると、改めて探究したいことがふくらんできます。また学生・院生とかかわる中で、教職の魅力・やり甲斐を見つめ直せてもいます。
『教育つれづれ日誌』を読んでくださる皆さんと一緒に、子どもを中心に位置づけたよい実践はどうつくられるか、考えていきたいと思います。
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