2025.01.15
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東日本大震災を伝える命と絆の授業(1) 福島への視察で出会った写真から(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池 健一さん)

東日本大震災を題材にした授業について、さいたま市立植竹小学校の教諭・菊池健一さんが全8回(予定)にわたり連載します。震災から約14年。菊池さんは記憶の風化を防ぎ、命の尊さや絆の大切さを子どもたちに伝える授業実践に取り組んでいます。第1回では、被災地で目にした一枚の写真をきっかけに始まった授業づくりについて紹介します。

双葉町・大熊町で感じたこと

 

双葉町から見る福島第一原発

毎年、東日本大震災を題材にした授業づくりを行っています。東日本大震災からもうすぐ14年。現在指導している児童たちは、震災後に生まれた世代です。昨今は震災の風化も懸念されますが、昨年の元日の能登地方の地震など、日本各地では震災が断続的に発生しています。
自分の命、そして大切な人の命を守り、さらには命の大切さや周りにいる人たちとの絆の大切さを感じてほしい…そんな思いでこれまで13年間授業づくりに取り組んできました。今年度も新たな取り組みを行いたいと思い準備を始めました。

例年授業づくりに先立ち、できる限り被災地を訪ね、現在の様子について肌で感じるようにしています。今年も5月の連休に福島県の双葉町や大熊町を訪ねました。新聞などで、原発の再稼働や福島第一原発の廃炉の進捗状況などのニュースが盛んに報道されています。そこで、福島第一原発の事故による避難を余儀なくされ、近年帰還が始まった地域を実際にもう一度見に行こうと考えたのです。

大熊町では、集中的に除染が行われた大川原地区に町の役場や住宅地、そして学校ができ、町民の方たちが戻り始めました。双葉町でも立ち入りができるようになり、復興住宅地が作られています。「復興とはどうなることをいうのか?」「この後福島の浜通りはどうなっていくのだろう?」など、いろんなことを考えさせられました。

伝承館で写真との出会い

 

愛梨ちゃんの絵がラッピングされている自動販売機

福島では富岡町にある東京電力の廃炉資料館や双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館を見学しました。ここでは震災当時の緊迫した状況や原発の廃炉の難しさ、現在の廃炉作業の様子などについて学ぶことができました。

見学した当時、東日本大震災・原子力災害伝承館では読売新聞社の記者が撮影した写真の展覧会が開催されていました。そこである写真に目を奪われました。それは、石巻の日和幼稚園のバス事故で娘の愛梨ちゃんを亡くした佐藤美香さんの写真です。3月11日でしょうか…佐藤さんが娘の愛梨ちゃんを想って佇んでいる写真でした。
佐藤さんは、震災後、命の大切さを訴えて様々な場所で語り部をされています。私も佐藤さんのお話をお聞きし、クラスの児童にもぜひ語っていただきたいと思いました(佐藤さんにも依頼しました)。
また、昨年6月には、東京都北区の王子駅の前にある商業施設に、愛梨ちゃんが描いた絵でラッピングされた自動販売機が設置されました。その自動販売機も見に行き、感じたことを佐藤さんに連絡してお伝えしたりもしました。

そこで、今回の震災授業のテーマは「当たり前は当たり前ではない~命の大切さ、周りにいる人たちとの絆の大切さを考える~」としました。そして、ゲストとして石巻の佐藤さんと、佐藤さんの写真を撮影した読売新聞社写真部の関口寛人記者をお招きすることにしました。佐藤さんは遠方なのでZoomで、関口記者は、パリ五輪の取材後で大変お疲れのところでしたが教室に来てお話をしてくださることになりました。これまで、震災学習で培ってきた人脈のおかげで連絡を取ることができました。大変ありがたいです。

今年の震災学習のテーマ決定

 

関口記者の写真が掲載された記事の掲示物

「当たり前は当たり前ではない」という言葉は、佐藤美香さんが私に語っていただいた言葉です。もうすぐ卒業する6年生の子どもたちにこの言葉を送りたい。そんな気持ちで授業づくりをしようと考えました。

授業は国語科で意見文を「書くこと」を主の活動とした単元を用いて構成し、その単元を核として、特別活動の防災学習なども取り入れながら進めることとしました。

授業は9月の終わりからスタートするため、夏休み明けから準備を始めました。まずは、石巻の佐藤さんの紹介です。授業前の時間を活用し、佐藤さんを取材した記事の中から、関口記者の写真が掲載されているものを選びみんなで読みました。また、震災とは直接関係はないのですが、関口記者が取材したパリ五輪関係の記事も朝の会で紹介しました。関口記者は主に柔道やレスリングの取材を担当されていたので、新聞にたくさんの写真が掲載されていました。これからの学習で直接お話を聞く佐藤さんや関口記者について、児童たちの関心も高まりました。

(次回は、授業の教材研究のために石巻を訪れた際のことをレポートします。)

文・写真:菊池健一

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