2026.03.29
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先生にとっての何だかとても大切なもの これからの特別支援担任のあり方について

私が特別支援担任となって5年になります。特別支援学級の同僚として出会い、一緒に学年団を形成した先生は10人を超えていました。
これは、特別支援学級が、かつてのように経験豊かな一部の先生が長く担う形から、年代や経歴の異なる多くの先生が、キャリアの途中で一定期間担う形(いわゆる「10年3校制度」)へと変わりつつあるためなのでしょう。

静岡市立中島小学校教諭・公認心理師 渡邊 満昭

特別支援学級担任の学び

これから通常学級で採用される先生は、一度は特別支援学級を経験し、その後のキャリア選択の中で通常学級へ戻っていくことになります。実際、私を含めた全員が、本校赴任後に初めて支援級を担任しているのです。 
しかし、支援級担任として一定期間を過ごす中で、何を学び、どのような力を身に付けていくのかという目的は、十分に共有されているとは言えません。
例えば、職域の拡大・広い視野と知識の獲得といったおよその目標はあるのでしょうが、結果として、その学びは各校の状況や校内の支え方に大きく左右されています。 
そこで、同僚の先生と話し合ったことや現場で見聞きしたこと、自分の体験をまとめてみることにしました。

特別支援学級で何を学びどんな力をつけていくのか→担任の成長プロセス

得られた情報を整理してみると、職種への適応と特別支援学級担任としての専門性形成は、おおよそ次の三つの段階を経て進んでいくことがわかりました。

(1)配属前の受け止めと「予測して考えること」

特別支援学級への異動を知ったとき、多くの教諭は期待と不安の両方を感じていました。特に、複数学年の授業をどう進めるのか・特性のある子どもとどう関わるのか・保護者との関係をどう築くのか、といった点に対する不安が強いようです。
一方で、「通常学級で対応に悩んだ児童への理解を深めたい・特別支援教育について改めて学びたいという話題もありました。この段階では、異動をきっかけとして、「自分のこれまでの実践を振り返り、これから何を学ぶべきか」と考え始めていることが特徴的でした。

(2)着任後の試行錯誤と実践の揺らぎ

実際に特別支援学級の担任になると、これまでの指導方法が通用しない現実に直面することも多いのです。例えば、「一斉指導が成立しにくい・学習進度に大きな個人差がある・行動や感情の変化が大きい」など、通常学級とは異なる状況が日常的に生じます。
その結果、多くの先生が「毎日失敗しているような気持ちだった」「少人数でも非常に疲労感が大きかった」と語っていました。

しかし、こうした試行錯誤の中で、先生は次第に、子ども一人ひとりの特性を丁寧に見る・環境が子どもの行動に与える影響を考える・学習方法を柔軟に調整する、というような視点を獲得していきます。また、同僚との対話や助言が、この時期の大きな支えとなっていたことも大切な要素です。
困難を一人で抱え込まず、同僚や特別支援コーディネーターと相談しながら対応を模索することが、適応の大きな助けとなっていました。

(3)対話を通じた実践知の再構成

経験を重ねる中で、先生の指導観には大きな変化が生まれます。当初はすべてをきちんと教えなければならないという考え方であったものが、子どもが少しずつ変わっていくことを大切にするという考え方へと変化していきます。
この変化によって「教員自身の心理的負担が軽減する・子どもとの関係が安定する・学習や生活の改善が見られる」といった効果が見られるようになるのです。またこの段階では、同僚の実践から学ぶ機会も増え、子どもへの関わり方や学習支援の方法が少しずつ自分の中で再構成されていくのでした。

授業づくりへの示唆 ―自由進度的な学習の可能性―

自分の周囲では、特別支援学級において自由進度学習に近い要素が自然に取り入れられている例が多く見られました。例えば「学習内容の選択肢を用意する・取り組む順序や時間を調整する・個々のペースを尊重する」といった実践です。
これは新しい教育方法の導入というよりも、目の前の子どもに対応する中で生まれた実践的工夫ということなのでしょう。

もちろん、すべての学級で同じ方法が有効とは限りませんが、個別最適な学び・自己選択・自己決定といった視点は、特別支援学級の授業づくりには欠かせないと自分も感じています。

特別支援学級経験がもたらす教師としての成長

特別支援学級を経験した先生の多くは、その後のキャリアについて「子どもは一人ひとり異なる存在であるという理解・個別支援と全体指導を組み合わせる視点・通常学級と特別支援学級の連携の重要性」といった視点を持つようになります。また、「将来は通常学級でも特別支援学級でも力を発揮できる教員になりたい」ということもよく聞きました。
さらに、支援級を経て通常級に戻った先生は、どの子にも臆せず声かけができ、見守る自分の視点も細やかに変わっていることに驚いていました。

つまり、特別支援学級経験は特別支援教育の専門性だけでなく、教諭としての児童理解そのものを深める経験となっているようなのです。

これからの特別支援教育と教師の専門性

支援級担任が3年ほどで順次入れ替わっていく現在の仕組みについては、特に教諭とのつながりを大切にしている児童や保護者の立場から見ると、「特別支援教育の専門性が薄れてしまうのではないか」と心配する声が聞かれるのも無理はないことでしょう。

ただ一方で、現在は1年ごとに就学先を見直すことが一般的となり、子どもの適応状況に応じて、在籍学級(特別支援学級・通常学級など)をこれまでより短いスパンで検討できるようになっています。
こうした時代においては、特別支援学級と通常学級を切れ目なくつないでいく力が、先生には期待されています。だから、双方の経験を比較的短い期間の中で重ねていくことは、それぞれの実践を相互に生かし合うことにもつながります。
支援級で得た視点を通常級に持ち帰ること、あるいは通常級の経験を支援級で生かすこと。そうした行き来が、これからのインクルーシブ教育を推進する上で欠かせないものになるのではないでしょうか。

今回の情報ではっきりしてきたのは、特別支援学級担任の経験が、単なる指導技術の習得ではなく、先生自身の教育観を再構成する重要なきっかけとなっているという点です。特別支援教育の専門性とは、特定の技術や知識だけではなく、「子どもの姿を丁寧に見つめること・実践を振り返りながら改善すること・同僚と対話しながら学び続けること」といった振り返りつつ学び続ける姿勢そのものによって形成されるのです。

その意味で、特別支援学級の経験は、これからの学校教育を支える教諭にとって非常に価値のある学びの機会であると思います。

余談ですが、私は送り出した6年生たちがこれまで自閉症・情緒障害特別支援学級が無かった中学校に入学した経緯から、「彼らがパイオニアとして中学を卒業するまでは、なんとか頑張って行く末を見守ろう」という小さなミッションが芽生え、今日に至りました。

中学卒業を迎え、訪ねてきてくれた面々の元気な様子を眺めつつ、教諭の意欲を支えるものについてもう一度考えています。この記事を読まれている方も、何らかの思いをもち、現場に立っているのではないのでしょうか。厳しい状況にも耐えたりしのいだりできるのは、こうした使命感があってこそかもしれませんね。

さて、先生方の今のミッションは何ですか?
どんな小さなことであっても自分を支える力があるのだと思います。

関連リンク
  • 「教諭は初めての特別支援学級経営にどう向かい合っていくのか : 初任教諭のみで構成された学年団でのナラティヴ探究を通して 」   渡邊 満昭;  聖隷国際教育研究 2 49-65, 2025-03-31

渡邊 満昭(わたなべ みつあき)

静岡市立中島小学校教諭・公認心理師・学校心理士・環境教育インタープリター・森林セラピスト


いつの間にか、小中学校全学年+特別支援学級+特別支援学校+通級指導教室での担任を経験し、生徒指導主任+特別支援教育コーディネーター+教育相談担当経験も10年を超えていました。すると担任を離れたとたんに何かを忘れてしまって、担任に戻ってみると忘れていたことに気がつくということがたびたびありました。それはうまく言えないけど何だかとても大切なもの。先生を続けていくための糧のようなもの。
その大切なものについて、自分の実践と合わせお伝えしていこうと思います。

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