2024.02.26
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目に見えない「問い」を考える力を育む(前編) 大阪市立野田小学校「社会科」授業リポート

日本社会は、グローバル化の進展、技術革新、人口減少などにより、厳しい競争の時代を迎え、一人一人が持続可能な社会の担い手になることが求められている。これに伴い、新学習指導要領では、子どもたちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することを目指し、「主体的・対話的で深い学び」の実現や言語活動の充実などの授業改善が推進されている。

では、実際に小学校の社会科授業は、どのように変化しているのだろうか。今回は、長年社会科教育の実践に携わっている大阪市立野田小学校の石元周作教頭の特別授業を取材した。

授業概要

学年:小学6年生
教科:社会科
単元名 :「食から歴史を探る」
単元の目標:歴史学習のまとめとして、これまで学んできたことをもとに、食事がどの時代のものかを考え、食から各時代の特徴や状況を見出すことができることを理解する。
授業者:石元 周作 教頭
使用教材・教具:タブレット、教科書、ノート

子どもたちにとって身近な『食』をテーマに、歴史を振り返る

本授業では、6年生がこれまで学習してきた各時代を、「食」という観点から振り返る。

「つかむ」:どの時代の食事なのか想起する。

冒頭では一枚の食事の画像が電子黒板に提示された。

石元教頭:「この食事は、いつの時代の食事でしょうか?」

画像には、木の実、いのしし肉、どんぐり(木の実)などの食品が並ぶ。
「縄文時代!」と、クラス内で声があがった。

理由を尋ねると「縄文時代は、主に狩りや漁などをして食事をしていたから。」「いのししの肉がある。」などの、解答があった。

石元教頭:「そのとおり、これは縄文時代です。この中には、みんながよく食べているものがないですね。」
児童:「米がない!」

食事の中に普段児童たちが日常的に食べている米がない、という点にも着目させ、稲作が開始されたのは弥生時代であることも紐づける。

二枚目の画像は、牛鍋、生卵、ごはんなどが並んだ近代的な食事。

児童:「明治時代だと思います。理由は、明治時代になって、牛鍋という今で言うすき焼きが食べられるようになったからです。」
石元教頭:「そうですね。では、明治時代に何が起こったか覚えている人はいますか?」
児童:「文明開化!」
石元教頭:「そのとおり。明治時代になり、文明開化と言って西洋の食文化が日本に入って来てから、こういったものが食べられるようになりました。このように、今日は皆さんに食事の写真を見せて、それが何時代なのかを考えてもらいます。」

ここで、本授業の核となる問い『各時代には、どんな食事があったのだろうか』が提示された。
石元教頭は、各時代で学習してきた「政治」「産業・文化」「外交」の視点が根拠になることを説明し、「理由が大事だよ」と述べた。

「調べる」:提示された食事が何時代なのかを調べる。

次に、A~Dの食事の写真が、「弥生時代」「奈良時代」「鎌倉時代」「江戸時代」のどの時代のものかを、考え、調べ、推測していく。食事の写真は、児童のタブレットでも自由に閲覧できるようになっていた。まずは5分間1人で調べ、その後グループに分かれて5分間相談する。

石元教頭:「タブレット、ノート、教科書、資料集、何でも使って調べてください。どのような調べ方をしてもいいからね。理由が大切だよ。」

ただ正解を探すのではなく、なぜその時代を選んだのか、根拠となる時代の特徴を調べ、「食」に照らし合わせて考えることが重要であると、石元教頭は強調した。

多くの児童が真っ先に活用したのは、タブレット。まずはインターネットで検索し、その後、教科書を開く姿が散見され、教科書をパソコン検索の補助的な資料として活用している印象があった。

グループで話し合う時間では、にわかに教室が活気づき、どの班も活発に議論していた。

「奈良時代は全国から特産物が来てたから、これくらいの(豪華な)感じになるのでは?」
「武士の時代の鎌倉時代は、質素倹約でこんなに豪華な食事は食べてないはずや。」

児童たちは、各時代の特徴や時代背景から、それぞれ何時代の食事なのかを相談し、決めていった。

「考える」:いろんな視点から食事の共通点を考える。

石元教頭:「では、班で決めた答えを黒板に貼りに来てください。」

A~Dの食事写真の下に、班で出した答えの時代プレートを代表者が貼っていく。

石元教頭:「それぞれ答えが少しずつ混ざっているところがいいですね。この理由が大事です。」

ここから、みんなで答えを確かめ、共有していく。

石元教頭:「Dの食事を江戸時代と答えたグループ。なんで江戸時代だと思いましたか?」
児童:「お皿が現代風だったからです。」「徳川家康が鯛の天ぷらを食べて死んだという話があるので、江戸時代にしました。」
石元教頭:「お皿に着目するのは面白いですね。天ぷらは、江戸時代の食事の特徴ですよね。」

石元教頭は、生徒たちの意見をもとに、各時代の重要な特徴を確認し、これまで学習した内容を振り返っていった。全ての答え合わせを終えたところで、石元教頭から応用問題が出される。

石元教頭:「実は、弥生時代から明治時代までの食事には共通点があります。それは一体何でしょうか?」
児童:「よく噛むものが多い?」
石元教頭:「そういう感じで、目には見えないことを考えてください。」
児童:「魚が入っている。」「でも明治は魚がなくて、肉になってるやん。」
石元教頭:「すごくいい意見ですね。弥生時代から江戸時代までは魚が入っていて、肉がないですね。これにも実は意味があって、これは、奈良時代に肉食禁止令というものが出されて、それが明治時代に終わったからなんです。」

応用問題の答えに悩む児童に、石元教頭はヒントを出す。

石元教頭:「どんな人たちが食べていたと思う?」
児童:「すごい人?」「偉い人!」
石元教頭:「そのとおり。これらは全部位の高い人が食べていたとされる食事です。」

卑弥呼や源頼朝が食べていたとされる食事であると明かし、歴史上の人物と食事を紐づけるとともに、誰の視点から見た食事なのかという点も意識させた。

「ひろめる」:問いに対するまとめと振り返り

最後は、今日学んだことを振り返り、『各時代の食事を見ることで~がわかる。わたしは~と思いました』という形で、考えたことや感じたことをノートにまとめた。

代表で発表した児童のノートには「各時代の食事を見ることで、時代の移り変わりがわかった。僕は身分の高い人が食べている食事を知ってすごく驚きました。」と、現代から見ても意外と豪華なメニューを初めて見た驚きが書かれていた。

後編では、授業者の石元周作教頭のインタビューを紹介する。


取材・文・写真:学びの場.com編集部

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