2023.06.21
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昆布が結ぶ沖縄と富山 【食と文化】[中学校1~3年・社会]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第196回目の単元は「昆布が結ぶ沖縄と富山」です。

授業情報

テーマ:食と文化   

教科:社会科

学年:中学校1~3年 

昆布ロードは、北海道と沖縄を結ぶ海の道としてよく知られています。北海道で収穫された昆布が北前船で日本海側から京都・大阪の都に運ばれ、薩摩、琉球を経て、清(中国)まで届けられました。昆布ロードを共通項にして富山県と沖縄県をオンラインで結ぶ交流学習を実施しました。沖縄県と富山県の栄養教諭が黒糖と昆布の交流、昆布ロードや昆布の食文化について、沖縄県の中学生にオンラインで語りました。富山県の栄養教諭の語る富山の昆布文化や昆布についての思いが沖縄県の中学生が自分の地域の産物やそこに暮らす人々へ目を向けるきっかけになりました。

1 プロサッカーを通じて協定が結ばれたことを知る

地域に目を向け、昆布に向きあうために沖縄と富山の交流を象徴的に示したプロサッカーリーグの交流と組合の締結の記事から学習を始めます。
藤本から九州サッカーリーグの沖縄SV(エスファウ)とJ3カターレ富山の交流がきっかけで沖縄県と富山県で包括協定を締結したことを紹介します。
紹介した写真には、協定の内容が隠してあります。
「サッカーをきっかけに協定が結ばれたんだ」「何についての協定なんだろうか」と問いが生まれます。

沖縄黒糖と富山昆布が包括協定 両県サッカーチームの交流から/HUB沖縄

九州サッカーリーグの沖縄SV(エスファウ)が、J3カターレ富山に黒糖100kgを送ったら、昆布が返ってきた―。

この縁がきっかけで、沖縄県黒砂糖協同組合(沖縄県那覇市、西村憲代表理事)と、富山、石川、福井の北陸三県の会員からなる北陸昆布協会(福井県敦賀氏、橋本慶代表)は、沖縄黒糖と富山昆布の“ローカル食材”の交流で価値を創造すべく包括協定を締結……(2022/11/3  )

HUB沖縄(つながる沖縄ネットニュース)

次に、協定が結ばれた理由を相談します。
玉城栄養教諭から沖縄県と富山県のつながりについて食の視点から取り上げて話し合うように説明します。「特産物だろうか」「共通するもの?」と問いが続きます。それをうけて、昆布の交易で沖縄から何が富山に送られていたか話し合います。
生徒からは、魚、米、マンゴー、サトウキビという意見が出てきました。

そこで、沖縄SVが黒糖100kgをカターレ富山に送ったこと、その返礼として昆布が届いたこと、それをきっかけに沖縄県黒砂糖協同組合と北陸昆布協会が包括協定を締結したことを紹介します。
生徒は、沖縄と富山のつながりに興味をもったようです。

「今日の学習は役立ちましたか?」の問いかけに対する生徒の感想

今日は、食育授業をして、沖縄と富山が協定を結んでいたと知ってびっくりしました。そして、富山は昆布を送って、沖縄は黒糖を送るなど、自分たちの地域の有名なものを送っているのだとわかりました。そして自分の地域についてしっかりと知ることが大切だとわかったので、しっかりとわかるようにしたいです。

2 富山の昆布の話を聞く

  • 3000m級の山々が連なる立山連峰

  • 富山の昆布専門店・四十物(あいもの)こんぶ

  • 富山市内のスーパー、昆布売り場

  • とろろ昆布をのせたソフトクリームに驚く

続いて、伊藤栄養教諭が富山県の昆布の消費、ソフトクリーム、北前船と昆布のつながりについて以下のように話します。

【富山の昆布文化】(伊藤)

富山では、昆布をだしとして使うのはもちろん、沖縄と同じく、昆布そのものを料理にして食べています。富山県民のごはんのお供といえば、とろろ昆布!黒とろろ昆布派と白とろろ昆布派に分かれます。ごはんによく合うので、おにぎりにもとろろ昆布を使います。スーパーやコンビニでもとろろ昆布のおにぎりが売っているんですよ。とろろ昆布のおにぎりの具は、昆布の佃煮ということもあります。
その他にも、沖縄でも食べられている「クーブマチ」とよく似た、「昆布巻き」という料理があります。昆布と同じく、北前船で運ばれた「身欠きにしん」が巻かれた昆布巻きが定番です。「クーブマチ」は何を巻いていますか?

たくさんある昆布の料理の中で、伊藤先生が一番大好きなのは、きときと(新鮮な)の魚の刺身を昆布ではさんだ「こぶじめ」です。さす(カジキマグロ)のこぶじめが一番多く出回っていますが、イカやタイなどの刺身はもちろん、山菜やタケノコもこぶじめにして食べられています。スーパーにはこぶじめ用の昆布が売っているので、オリジナルのこぶじめを作れます。

それだけではありません。昆布が大好きな富山県民は、おやつに切った昆布を食べたり、昆布が入った飴を食べたりもします。伊藤先生はこの前、こんな昆布スイーツに出合いました。おいしかったですよ。

ここでソフトクリームにとろろ昆布を載せた商品を販売している店があることを紹介すると、生徒の反応はたいへん驚いたようでした。

玉城栄養教諭が、とろろ昆布は沖縄ではあまり食べないので昨年給食で苦戦したことを思い出させたり、沖縄では、昆布は「重箱(ウサンミ)」や、昆布巻、クーブイリチー、ソーキ汁で食べることを話題にしたりします。

二人の栄養教諭と生徒のやり取りを聞きながら藤本は板書をしていきます。

「今日の学習は役立ちましたか?」の問いかけに対する生徒の感想

今日は、昆布について分かりました。富山県とは、昆布でつながっていて意外だなと思いました。昆布と黒糖を交換して貿易していたので面白いと思いました。富山県は、とろろ昆布をソフトクリームに入れていて、ちょっと食べてみたかったです。カジキマグロを昆布に入れていたけど、富山はニシンをはさんでいておもしろかったです。

  • 富山市岩瀬町の廻船問屋・森家にある北前船模型 ©(公社)とやま観光推進機構

  • 沖縄黒糖を使った「黒糖豆」を販売している島川あめ店

【北前船について】(伊藤)

「北前船」、聞いたことありますか?
日本海側を通って、北海道から大阪を結んで物品を運んだ船のことです。富山の北前船は25メートルプールに入るくらいの大きさで、約10人の乗組員がいたそうです。
そんな小さな船ですから、今のように沖を運航することはできず、陸地沿いに何日もかけて北海道まで行っていました。
富山のおいしいお米や酒を載せて出港し、途中の港・寄港地で売ったり買ったり商売しながら北海道まで行き、北海道からは昆布やニシンを肥料にしたものを仕入れて富山に戻ってきていました。
そこからさらに日本海を下って関門海峡を通り大阪まで昆布を運んでいたと言われています。

【黒糖について】(伊藤)

富山では、沖縄の黒糖を使ってつくられたスイーツがたくさんあります。
例えば、戦後から今まで沖縄黒糖を使って作られている富山市の老舗もち屋「石谷もちや」さんの「あやめ団子」があります。
石谷もちやさんに、なぜ沖縄黒糖を使って「あやめ団子」を製造しているのかインタビューしてみました。
こたえは、沖縄黒糖のコクと甘さ、そしてほのかな苦みが団子をよりおいしくしてくれるからとのことでした。石谷もちやさんでは、波照間島の黒糖を使用しているそうです。富山県産の新大正餅米と上新粉をブレンドして作った餅に、波照間島の黒糖から作った黒蜜。沖縄と富山のおいしいコラボレーションです♪

もう一つ紹介しますね。こちらは老舗あめ屋の「島川あめ店」さんです(店舗の写真)

富山県が薬で有名なことを知っていますか?
北前船の時代に、富山県には売薬さんと呼ばれる、薬を全国に売り歩く仕事をしている人たちがたくさんいました。当時の薬はとても苦かったので、苦い薬を飲みやすくするために、島川あめ店さんなど飴屋さんがつくる「麦芽水あめ」を写真のような瓶に薬と混ぜて飲みやすくしたり、買ってくれる人へのお土産として麦芽水あめを持って行ったりしていたそうです。

大阪までしか行っていなかったはずの北前船が運んだ昆布が沖縄まで届いたのには、この売薬さんが関わっていたからと言われています。そんな売薬さんや富山の薬の普及を支えていた陰の立役者が「島川あめ店」さんのような飴屋さんでした。

今では当時の役目を終えて、麦芽水あめを使った商品を製造しておられる島川あめ店さんにも、なんと!沖縄黒糖を使った商品がありました。それがこちら、「黒糖豆」です(実物みせる)。『黒糖豆』は、富山県産大豆、麦芽水飴そして沖縄黒糖を使った商品で、20年程前から製造販売しておられるそうです。あやめ団子のように黒糖の産地(島)については指定していませんが、輸入の黒糖ではなく、沖縄黒糖を使用するこだわりを持っておられます。ちょっと食べてみますね。あ、香ばしい大豆に、ほのかに沖縄黒糖の香りがして、おいしいです。みんなにも食べてほしいなぁ~届け~!

生徒は、伊藤先生の紹介する富山の食文化にどんどん引き込まれていきました。

3 黒糖について考える

沖縄県産黒糖と富山県産大豆を使った「黒糖豆」

zoomの画面越しに富山の伊藤先生が紹介する昆布の食文化の話題、とろろ昆布を載せたソフトクリーム、そして沖縄産黒糖をまぶしたお菓子、それを紹介するに至っては、中学生も食べてみたいという気持ちが高まります。
その瞬間を捉え、玉城栄養教諭が「伊藤先生が食べているお菓子がここにあるけど食べますか」とポケットから取り出しながら問いかけると、中学生から食べたいという言葉が自然に出てきました。
このようにオンラインが近づけた富山と沖縄の距離が食体験を通していっきに近づいた瞬間でした。手指の消毒を徹底して黒糖豆をおいしくいただきました。

「今日の学習は役立ちましたか?」の問いかけに対する生徒の感想

沖縄と富山には、何か共通点とかあるのと思ったけれど、富山は昆布を送って沖縄黒糖を送っていたんだと分かりました。またとろろ昆布は自分も大好きで、とろろ昆布アイスクリームが甘じょっぱくて美味しそうだなと思いました。大豆を黒糖に絡ませる、おやつがめちゃサクサクしてておいしかったので、富山に行った時は買いたいと思いました。

玉城栄養教諭から、沖縄のものが他の地域に影響を与えている例として、以下のような昆布の話、昆布ロードの説明、黒糖、渡嘉敷(慶良間)の水夫の話をパワーポイントで説明します。

江戸時代以前は中継貿易で他国の特産品を転売することで富を得ていた。黒糖の原料は、さとうきびであり、砂糖は貴重であった。北前船の頃から高付加商品の黒糖を生産し、それを日本に売って利益を得て、中国との貿易に当てていた。

最後に、藤本が「今日の学習は役立ちましたか?」の問いかけ対する答えと授業のタイトルをワークシートに書くように促します。

・タイトル:地域の食と貿易のつながり、昆布でつながる日本の食
昆布ロード~沖縄と富山のつながり~、食を通してつながる文化

「今日の学習は役立ちましたか?」の問いかけに対する生徒の感想

今日の食育の授業を通して、自分の住む地域の食文化や他の地域の食文化について理解することが大切なんだなあと言うことに気づくことができました。また、食を通して他県とも他国ともつながることができ、互いに良い食文化を与えることができ、すごくいい文化だなと思いました。これから食文化を大切にし、自分たちの文化も他の文化も受け入れられる人になりたいと思いました。

「今日の学習は役立ちましたか?」の問いかけに対する生徒の感想

今回、食について学んで、地域それぞれの食文化があって、文化が違っていても、違うからこそ関わり合えると分かりました。自分は知らなかった食材の使い方を知っていてびっくりしたけど、面白かったです。今回学んだこと以外にも自分たちと関わりがないと思っている事でも、実は何かで関わっているものがあるのかもしれないと思いました。

4.食文化の交流に果たす栄養教諭の役割

食を通した交流は、栄養教諭の専門性の発揮のしどころとなります。オンラインによって他の地域と情報を交換したり、自分の地域の特徴を紹介したりすることで、地域のよさやその価値に気づくことができます。栄養教諭は、ご自分の地域の食に関わる豊かで深い知識をもとに児童・生徒にわかりやすく説明することをこれまで行ってきています。その財産をもとに、他の地域の児童・生徒に話をすることができます。交流学習というと、特別でハードルの高いものと捉えがちですが、本事例のような形の実践であればハードルを下げることができ、そのことが栄養教諭の存在意義とも密接につながっています。

給食という直接体験に繋げたり、交流にまつわる食の体験を取り入れたりすることによって、オンラインでは得られにくい実感を手にすることができます。こうしたハイブリッド型とも言える交流学習を実現できるのは、栄養教諭の存在があるからです。栄養教諭が他の地域の子どもたちにオンラインを通して話す、語る、伝える授業の形を今後積極的に進めていこうと思っています。

授業の展開例

〇日本遺産「北前船寄港地・船主集落」とそこにまつわる食文化を調べてみましょう。(中学歴史)
〇日本各地に存在する「鯖街道」や「塩の道」など、食の流通・交流に関連する道と食文化のかかわりについて調べてみましょう。(中学地理)

授業者

玉城恵子/栄養教諭 実践時:渡嘉敷村立阿波連小学校(現:渡嘉敷小中学校)
伊藤志織/栄養教諭 富山大学教育学部附属特別支援学校
藤本勇二/武庫川女子大学

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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