2024.02.26
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目に見えない「問い」を考える力を育む(後編) 学校から社会へ『越境する学び』に

新学習指導要領では、子どもたちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することを目指し、「主体的・対話的で深い学び」の実現や言語活動の充実などの授業改善が推進されている。

では、実際に小学校の社会科授業は、どのように変化しているのだろうか。後編は石元教頭に、社会科の授業づくりの考え方や、ICTの活用状況、今後の取組などについて伺った。

子どもの興味を刺激する多角的な授業づくり

石元 周作 教頭

―今日の授業で工夫した点を教えてください。

石元教頭(以下、石元) 普段の授業の流れとは違う授業になるため、子どもたちが興味を持つ内容にするにはどうしたら良いかという点を工夫しました。宗實直樹さんの書籍に『身長から時代を見る』『特別教室から時代を見る』といった1時間で完成する授業トピックがあり、子どもたちに身近な『食』から時代を見たら、とっつきやすいかもしれないと、この授業を考えました。

―子どもたちの反応はいかがでしたか。

石元 タブレットを使って自由に調べていいということにしたので、検索すればさまざまな内容が出てくるだろうと予想していましたが、その中から「この食事は、武士っぽい」と、時代の特徴を捉えた推測ができていて、良かったと思います。

特に「すごいな」と感じたのが、肉を食べているかどうかに気づいた点です。最後に少し話した「肉食禁止令の歴史」については、話をしようかなと考えていたので、よく気が付いたなと驚きましたね。

―歴史分野の授業づくりでは、どのようなことを重視していますか。

石元 小学校の歴史の場合は、織田信長など人物中心の学習になりがちですが、農民や商人、町人などの暮らしに目を向けることも重要だと考えています。

同じ時代でも、視点が変われば見方が変わってきます。この時代は素晴らしいなと思っていたけれど、実はこの人たちから見たらそうじゃないよね、ということに気づくこともあるので、時代を多角的に捉えられるような授業づくりを心がけています。

―食の他にも、テーマ別に歴史全体を振り返るような授業を行いますか。

石元 今のところ予定はありません。いろいろできれば面白いとは思いますが、社会科は授業時間キツキツで授業をしているため、このようなトピックを多くやるのは難しいですね。ただ、ある観点から時代を見るというのは、社会科の授業としてとても面白いと思います。私の参加している『山の麓の会』という授業研究サークルでは、「学校の特別教室の中で最初にできたのは何か?」といった授業を開発しているので、時間ができれば、どんどんやっていきたいですね。

自校の資料を教材として、子どもたちが身近に感じる社会科に

―野田小学校は創立120周年ということですが、歴史の授業に活かせることがありましたか。

石元 いろいろあります。野田小学校は、戦時中に広島に集団疎開をした歴史がありますので、そこは歴史の授業で活用しています。また、3年生の社会科には、市の移り変わりの授業があるのですが、その公共施設の項目を野田小学校にして、学校の資料を使って学習したりもしています。以前、私が授業した時は、子どもの人数の変化で、過去に全校生徒が1800人いたことがある、という事実を知って「運動場どうしてたんや」と盛り上がりましたね。

自分たちの小学校の資料が教材になると、子どもたちが歴史をより身近なこととして捉えられるので、とてもいいことだと思っています。

―社会科は、全国学力・学習状況調査や灘中学校の入試科目にもないですが、「暗記科目」だからなのでしょうか。20~30年前と比べて変化はありますか。

石元 暗記科目と言われるから、社会科は嫌われているのかな、とは思いますね。中学校の社会科は入試というゴールがある以上、仕方のないところもありますが、小学校の社会科では、暗記よりも見た目ではわからないところまで掘り下げて考える授業をして、考えることが楽しい、だから社会科は楽しいと思いながら卒業していってほしいな、と思います。

20~30年前と比べて変わった点は、社会と接点をつくるような授業が増えてきている点です。社会人のゲストを呼んだり、社会科見学に行ったり、社会科で学んだことから、小学生でもできることを提案したりと、社会参加を促すような授業開発が進んでいます。

例えば、4年生で習う水道やゴミの問題では、下水道料金を上げなければこの先やっていけないのではないかとか、大阪市も他の市のようにゴミ袋を有料化することでゴミの分別が進んで、ゴミの量も減らせるんじゃないかなど、実社会の問題に焦点を当てて考えます。そういったことの重要性が増しているように思いますね。

目に見えない裏側の「問い」を考える力を育む

―問題解決的な授業にするために、どのような工夫をされていますか。

石元 考えうる価値のある「問い」を、子どもの中に持たせることができるかどうか、という点はいつも工夫しています。

調べればすぐわかるものではなく、目に見えない裏側の部分を「どうしてなんだろう?」と考える癖をつけられる授業を心がけていますね。

目に見えない「問い」を考える癖がついてくると、登下校中の景色の中から「なんでこんなとこに看板があんねん」といった疑問がわいてきて、自然と社会の仕組みについて考えられるようになりますよね。

―教材づくりについて、どのような工夫をされていますか。

石元 まずは教師が面白いと思うかどうか、その一点に尽きると思っています。教師が面白いと思わなければ、子どもたちが興味を持つ教材はつくれないと思うんですね。

それから、「Aは○○なのにBは△△なのはなぜだろう」のようなズレがあるもの、矛盾があるものは「これは、子どもたちと一緒に考えたらおもろいやろな」と、すごく魅力を感じ、取り上げるようにしています。

ICTを有効活用し、限りある授業時間を有意義なものに。

―ICTをどのように活用していますか。

石元 社会科の授業では、子どもが調べるときに使ったり、資料を渡したり、パソコンで書いたものを回収したりということに活用しています。

パソコンで資料を共有すると、紙に印刷したものと違って、自分が見たい部分を拡大して見られるため、新しい発見につながることもあり、良いなと思っています。

―パソコンを使用すると、教科書や資料で調べるよりも簡単に答えにたどり着くこともありそうですが、その辺りはいかがですか。

石元 私は良いことだと思います。というのも、調べたことは結局その後、みんなで共有することになるんですね。パソコンで素早く検索できれば、調べる時間が短縮でき、限られた授業時間で完結できる部分が増えるので、どんどん活用していきたいと考えています。

『越境する学び』を目指したい

―今後やってみたいことを教えてください。

石元 社会科は社会を勉強する教科なので、小学校の中の閉じた学びではなく、社会に出ている方とどんどん出会う『越境する学び』にしていきたいです。

例えば、ゲストティーチャーと子どもたちが対話するような授業を考えています。ゲストの方が専門家として教えるのではなく、お互いに意見を交換し合い「ああ、そういうふうに考えているのか」と、お互い新たな発見があるような、社会的に意義のある授業をしていきたいですね。

記者の目

食から歴史を探る45分間の特別授業は、さながら楽しいワークショップのようだった。教室全体に漂う好奇心と一体感。先生も児童も一緒になって1つのテーマを追っていく。数十年前の私が経験した、ただ教科書を眺めるだけの退屈な社会の授業とは大きくかけ離れ、小学校の授業を取材していることすら忘れてしまいそうだった。
社会科は、私たちが生活する「社会」の基礎を学ぶ教科である。「社会が楽しいと思いながら小学校を卒業してほしい」と話す石元教頭先生の授業には、子どもたちが未来の社会を生き抜くために必要な教えが詰まっているように感じた。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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