2023.12.18
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一斉指導から個別最適な学びへ。自分に合う方法で学力の定着を目指す(後編) ICTを活用して、全ての子どもたちに「新しい景色」を見せる

今回は、SDGs活動でさまざまな賞を受賞するなど先進的な教育に取り組む、茨城県取手市立取手西小学校での実践を取材した。前編では、児童が自分に合ったスタイルで九九を学べるよう、練習方法が複数用意された「かけ算九九づくり」の授業の様子を紹介した。後編では授業者の大塚萌南教諭と石塚康英校長へのインタビューを紹介する。

インプット&アウトプットともにタブレットを積極的に活用

大塚萌南教諭

―教員用と児童用のタブレットをどのように活用されているか、教えてください。

大塚教諭 教員用タブレットは、図工や体育で説明する際によく活用しています。動画だと細かな動きをわかりやすく伝えられるので重宝しています。最近では「NHK for School」の動画を使うことが多いです。また授業の導入部分や、子どもたちの集中力が途切れてきた時にクイズアプリ「Kahoot!」を活用しています。クイズなので子どもからの食いつきは良いですね。

児童用タブレットは「ククハチジュウイチ」などの学習アプリや、「eライブラリ」(ドリル)を主に用います。また写真や動画を撮ったり、発表をする際に「まなびポケット」にある子ども向けのプレゼンテーションソフトを使用するなど、アウトプットの場でも多用しています。

最近では教材研究をしている方が有益な情報をネットで発信しているので、適宜チェックしています。今日の授業で使った「デジタルアレイ図」もそういったサイトで見つけました。今後も積極的に情報を集め、活用していきたいと思っています。

―教員になられて3年目とのことですが、大学時代のイメージと違ったことはありますか。

大塚教諭 正直、大学時代は「教員生活はとにかく過酷でしんどい!」と想像していたのですが、実際は全くそんなことはなかったです。児童とうまくコミュニケーションがとれず、仕事が手につかなくて、たまってしまった時など、何か困っていると、他の先生方が優しく声をかけてくれるので、悩みを抱え込むということはありません。

また石塚校長は「失敗しても大丈夫だから、何でもやってごらんなさい」というスタンスの方なので、いろいろなことに挑戦できています。今日のような取材に、私のような若い教員を出してもらえるのも、石塚校長のおかげですね。環境には本当に恵まれていると思います。

拠点校指導教員の寄り添った指導に感謝

―初任者研修やOJTで印象に残っていることを教えてください。

大塚教諭 1年目のOJTでは拠点校指導教員に週に1日授業に立ち合っていただき、指導アドバイスをいただけました。新任教員としては非常に助けられていましたね。放課後の教材研究の時間が本当に楽しみでした。

また児童との関係でアプローチ方法がわからず悩んでいた時も、その先生に「私があなたの仕事(宿題の添削)をやっておくから、休み時間に子どもたちと遊んできて」と提案していただけたんです。休み時間に外で子どもたちと一緒に過ごしたことで、授業では見えない一面を知ることができ、解決の糸口を見出すことができました。さまざまな場面で親身に寄り添っていただいたので、「毎日来てほしい」と思っていたほどです。

―今後やってみたいことを教えてください。

大塚教諭 今日の「ICTを使った個別最適な学び」の授業はインプットがメインとなったため、今後はアウトプットを通じて展開していきたいですね。自分の想いやアイデアを他の児童に伝えることで、新たな発見があると思います。また他の教科でも「ICT×個別最適な学び」という要素をどんどん取り入れていきたいです。

学校全体で取り組んだサステナブル学習

―今年、いばらき理科振興事業 幡谷教育振興基金表彰校や、「げんでん財団学校賞」に選ばれたとお聞きしました。どのような取組をされているのですか。

石塚校長 総合的な学習で行った、SDGsをテーマとした取手市「サステナブル学習プロジェクト」などを評価していただきました。例えば4年生では脱炭素やカーボンニュートラルといった環境教育を取り入れ、東京都市大学と三井物産のご協力のもと、探究学習を実施しています。5年生では食品ロス問題と関連した学習を取り入れました。強酸性の給食残渣に石灰を色々な割合で混ぜて堆肥を作り、ヒマワリの生育の実験に活用するなど、資源循環型栽培の体験を通して、食品ロス問題を考えていくという取組です。4、6年生は専科の教員が、5年生は教頭が理科の授業を担当していますが、研究の指導も行っています。

「プレゼン力」を高めてほしいという想いから、これらの活動を始めました。当校の児童は素直で実直な子どもが多い一方、自分の考えを表現するのが苦手な傾向がありました。解決するためには、プレゼンを行うスペシャルな場を用意することが最善の策と考えました。

大きな舞台だけでなく、空き教室をプレゼンテーションルームにする取組もしています。1・2年生用、3・4年生用、5・6年生用と3つ作り、記者会見のような雰囲気で、朝の会の3分間スピーチや、総合的な学習の時間の発表などを行っています。今回、賞金として100万円いただいたので、電子黒板を2台購入し、プレゼンテーションルームに設置する予定です。今1台だけありますが、普通の大型ディスプレイと比べると、発揮できる表現力に大きな違いがありますね。児童の表現力をより向上させるためにも、多くの場面で活用していきたいです。

全ての子どもたちに新しい景色を見せる

―先日、教育委員会がプレスリリースを出していた、テレプレゼンスロボット「kubi」を使った、給食室模擬探検授業についてご紹介いただけますか。

石塚校長 生活科の「わたしの町はっけん 給食室や給食をつくる人のひみつはっけん」という単元で行った取組です。給食室にkubiを設置し、映像中継を通じて模擬探検をしました。同日の3校時と5校時の2コマで行い、前者では調理風景を、後者では後片付けの様子を観察しました。

当校の給食室は廊下から全く見えない構造のため、調理員への感謝の気持ちを持ちにくいという一面がありました。普段入れない給食室の様子を知ることができ、また、自分たちの生活を支える調理員とリアルタイムで交流できたことは、貴重な学びになったと思います。

児童からは「いつも食べている給食がどんな風に作られているかがわかった」「調理員さんに感謝して、残さず食べるようにしたい」といった声があがりました。また片付けを観察したことで、自分たちの食べ残しの量が可視化されたので、食品ロスへの意識も高まったことでしょう。

石塚康英校長

―テレプレゼンスロボット「kubi」はパナソニック教育財団の実践研究助成で購入したとのことですが、応募することになった経緯を教えてください。

石塚校長 文部科学省はこれからの学校教育のあり方として、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を示していますが、当校においてはまだまだ教師主導型の授業が多く見受けられました。

一方で、子どもたちのタブレットを扱うスキルは非常に高い。ICTを活用して課題解決を図ることで、自ずと「個別最適な学び」「協働的な学び」の両立が実現できると考え、応募に至りました。

研究課題のテーマは「テレプレゼンスロボットの活用による児童の思考力・表現力の育成」とし、サブタイトルには「障がい児も含めた全ての子どもたちに新しい景色を見せる取り組みを通して」としました。

リアルタイムで交流できる「kubi」は、おかげさまでさまざまな授業で活用できています。また修学旅行先に機材を持ち込み、肢体不自由の児童に円覚寺(鎌倉市)での座禅体験など旅先の様子をリアルタイムで見てもらうことができました。他の児童にとっても良い経験になったと感じています。消防署の指令室に持って行って、置いてもらったこともあります。

また、kubiが遠隔授業に役立つことに着目し、現在、不登校児童の学習用としても活用しています。クラスのメンバーがその子を「クラスの一員」と認識できることも有益であると思いますね。まさに研究テーマでもある「新しい景色を見せる」を実現できたと言えるでしょう。

記者の目

授業中、一人ひとりで九九の練習に取り組む際、児童たちが迷うことなく練習方法を選んでいたことが印象的だった。小2という年頃から「他の子が何を選んでいるか」が気になりそうだが、全くそのような様子はなかった。歌を聞きながら自ら歌う子ども、塗り絵に熱中する子ども、タブレットを自在に操る子どもなど、まさに「多様性」を感じた。自分に合ったやり方を選べることで、学びは確実に深まるといえるだろう。多重知能理論を用いた指導は、今後、各方面から注目が集まりそうだ。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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