2022.07.18
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

深い学びを支える〜情報活用能力×GIGA端末〜 New Education Expo 2022 リポート vol.7

6月2日~4日、東京・有明にて教育関係者向けのイベント「New Education Expo 2022」が開催され、3日間で延べ6,000名の教育関係者が来場した。ここでは6月4日(土)に実施されたセミナー「深い学びを支える〜情報活用能力×GIGA端末〜」をリポートする。11台端末の活用や情報活用能力の育成の進め方について、鳴門教育大学准教授泰山裕氏の解説を交えながら、3人のパネリストによる実践や未来の教育の在り方が紹介された。

深い学びを支える「情報活用能力×GIGA端末」

壬生町教育委員会指導主事 稲木 健太郎氏
飯能市立奥武蔵小学校 児玉 日左治氏
松茂町立喜来小学校教頭 土井 国春氏
【コーディネータ】
鳴門教育大学准教授 泰山 裕氏

GIGA端末×情報活用能力とは?

鳴門教育大学准教授 泰山 裕氏

冒頭では、コーディネーターの泰山氏より本セッションの狙いが述べられた。

現在、一人ひとりの理解度に応じた学びの提供など、学びの進化に向けて端末を使う時期が来ている。そのキーワードとなるのが情報活用能力だ。 情報活用能力は学習指導要領では『学習の基盤となる資質・能力』と位置付けられ、さらに、教育の情報化の手引きでは『コンピュータ等の情報手段を適切に用いて情報を得たり、情報を整理・ 比較したり、得られた情報を分かりやすく発信・伝達したり、必要に応じて保存・共有したりといったことができる力であり、さらに、このような学習活動を遂行する上で必要となる情報手段の基本的な操作の習得や、プログラミング的思考、情報モラル等に関する資質・能力等も含むもの』と書かれている。学習の中で情報活用能力が発揮されることで、教科の学びが深まり、同時に情報活用能力自体も向上することが想定されている。

「私たちが育てたいのは、自律的に探究できる子ども。つまり、必要な情報を自分で集め、整理、分析し、まとめ、表現し、次につなげる資質です。本日は3人の先生の実践をお聞かせいただき、『情報活用能力を発揮された授業とは、どのような姿なのか?』『さらに、それをどのように学校で実現するのか』の2つをおさえることができたらいいなと思います」(泰山氏)

3校の実践紹介

「GIGA端末×情報活用能力」が発揮された授業とは?

Windows × Google Workspace

壬生町教育委員会指導主事 稲木 健太郎氏

栃木県壬生町教育委員会指導主事 稲木健太郎氏からは、今年3月まで勤務していた壬生町立睦小学校での実践が発表された。まずは、同校での小学4年生の探究を軸とした授業動画を紹介。「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」のサイクルを回しながら、子どもが課題や学習方法を自己選択・自己決定しながら学習する様子が示された。

子どもたちは自分で課題を決め、課題を解決するための方法も計画する。課題や学習方法は端末に書き込み、共有して参照し合う。

「計画はそれぞれの学習方法に対する特性の理解があるからこそ可能です。学習方法の特性を理解して選び、使うことで、さらに理解の深まりが出てくるという姿も見られました。つまり、方法の特性の理解によって、内容と方法を一体的に考える子どもの姿がみられるようになりました」と稲木氏は説明する。

情報収集の際には、端末で言葉の意味のイメージをつかむために画像検索する子どももいた。画像、動画、URLを子ども自身で獲得し共有するという、教師を介さない情報共有も目立つ。さらに、学びのまとめを端末に書き込むことで、クラス全員からコメントが寄せられていた。

従来の教師を介しての発表や活動から、端末とクラウドがあることで、教師を介さず子どもが主体となって学ぶことが可能になっていた。また、個別、協働、遠隔協働が混在し、情報活用能力を発揮して学ぶ姿が目立った。安定した端末操作スキルやキーボード入力、情報やツールに対する特性の理解、そして自己選択・自己決定していくことが情報活用能力の発揮に結びついていると稲木氏は指摘。これらは、GIGA端末によって、学びのサイクルが加速するという。

「学習の基盤となる情報活用能力を発揮して、深い学びにするためには内容と方法を一体的に考えていくことが重要。特に『自己選択・自己決定』で、見方・考え方が働くかどうかがカギになります」と稲木氏は説明する。

「GIGA端末×情報活用能力」はどのように指導すべきか?

Windows × Google Workspace

松茂町立喜来小学校教頭 土井 国春氏

徳島県松茂町立喜来小学校教頭土井 国春氏からは、情報活用能力の基盤作りのための実践が紹介された。

「GIGAスクール構想スタート後、“授業を変えなければいけない”という雰囲気はあったものの、具体的な策は示されなかったので、気持ちだけが焦っていいた状況でした」と土井氏。同校ではまず、授業に端末のカメラを活用することを重視した。初めは撮影することだけを意識し、続いてまとめ作業に撮った写真を活用。徐々にトリミングなどの加工スキルが上達し、さらには写真や情報の整理、階層構造の理解へもつながったという。「『困った!』『どうする?』から始まる情報活用能力もあると気づけた1年でした」と土井氏は振り返る。

この1年間では、意図的教育観から成功的教育観への転換が図れたことが最大の成果と土井氏は語る。これには1人1台端末により子どもの資質と能力の向上に着目できたことが背景にあるという。「1年間を通して授業観が変化したことで、子どもの力こそ必要ということが判明しました。これこそが情報活用能力です」と土井氏。

個人の学びが豊かになったら、次にクラスで共有するのが理想とのこと。一方で「協働」を円滑に進めていくためには、注意すべき点もあるという。「『集団で学ぶ際には、一人で考えるよりも、極端な決定になったり、不適切な結論になったりすることがある』、といった集団での意志決定の特徴や傾向性を伝えたり、『集団での学びは一人で学ぶよりもずっと深まる』といった協働することの価値を伝えたりしています」(土井氏)

一人で限界まで考えた後に、他者の考えに触れるという授業は、GIGAスクール環境だからこそ設計可能になったとのこと。一人で考え、クラスで考え、さらに一人で振り返るというサイクルを回すことで、より深い学びにつながるという。

「授業観や学習観が変わりつつある今こそ、情報活用能力の育成のチャンス。そのチャンスを活かすために、今後はさらに学習の個性や協働的な学びを授業に組み込んでいきたいと考えます」と土井氏は意気込む。

「GIGA端末×情報活用能力」を学校全体でどう進めるべきか?

iPad×教育用アプリ

飯能市立奥武蔵小学校 児玉 日左治氏

埼玉県飯能市立奥武蔵小学校教務児玉 日左治氏からは、タブレットPCを活用した実践が紹介された。同校は飯能市の山間部にあり、全校児童は74人、1学級あたり10数名という小規模校だ。3つの地域の小学校の統廃合により、平成31年に小中一貫校としてスタート。開校時から1人1台端末が整備された。

同校では、文科省が示唆する「主体的、対話的で深い学びを支える情報活用能力」を「情報活用のスキルを活かして、得られた情報をもとに、まず自分の考えをしっかり持ち、友達と対話できる能力」と捉え、4つの手立てを行った。

  1. 「情報活用能力育成目標リストタブレット版」の作成
    これは、仙台市の教育センターのリストを参考に考案され、9年間の情報スキルの目安を「〇〇することができる」などと具体的な姿を定めた。例えば、基本操作ではiPadと基本学習ソフトの「ロイロノート」「MetaMoJi」操作スキル、探求スキルでは情報収集・比較・分類・整理・発表・表現の技能、プログラミングでは、プログラミングソフトを使った活動、情報モラルではマナー、個人情報、健康と安全といった具合だ。
  2. 目標リストの年間指導計画への位置付け
    学習内容項目に印をつけ、例えば「探求スキル、B項目4番」といったように、項目を達成するための活用方法が示されている。
  1. 「タブレットの活用例」の作成
    教師が実践を共有するためのもので、科目が並ぶ表をクリックすると活用すべき能力が表示。さらに、クリックすると写真と動画が表示される。
  2. 「児童アンケート」の実施(年3回)
    上述の目標リストとリンクされ、子どもたちに「とても当てはまる」「だいたい当てはまる」「あまり当てはまらない」「全く当てはまらない」という4段階で自己評価させる。子どもたち自身が、何ができ、何ができないかを自覚させる機会にもなる。

「タブレットの活用により意欲的に調べられ、友達と協力して発表資料を作り、わかりやすく表現できるようになったことが大きな成果。主体的、対話的で深い学びを支える力につながったと実感しています。今後は、目標リストの改善、タブレットの活用例を増やすことに注力していきたいです」(児玉氏)

同校では他の教育機関との交流も情報活用能力発揮の場と捉え、博物館との遠隔授業を昨年度行った。また、内田洋行のサポートにより、沖縄県宮古島との交流オンライン授業を実施。現在は、オーストラリアの小学校との交流授業を計画しているという。

これからの学習はどうあるべきか?

続いて、今後実現されるべき学びの方向性、実践での苦労した点などについて各パネリストが発言した。

稲木氏は、学習指導要領の「自律的な学習者を育てる」という観点においては、今はまさに情報活用能力と学び方を鍛える時期と指摘した。「漫画『ドラゴンボール』に例えるなら、今までの授業は教師が“元気玉”を作ろうとして、子どもから情報(意見)を集め、教師が満足する大きさになったら教師がまとめて放っていました。ですが今は、子ども自身が情報を集め、整理分析してまとめて”元気玉”を放たなければいけません。つまり教師が”孫悟空”でいるのではなく、子ども全員が”孫悟空”になる必要があるのです」と話した。

土井氏は、情報活用能力の資質を教師全員が理解するのは容易ではなかったと語る。「子どもがタブレットに興味津々なこの時期にこそ、端末を積極的に使って勉強の楽しさを教えるべき。面白みを感じながら使わせ、できたことを褒める。今行っていることを情報活用能力として認め、その積み重ねで学びの在り方を変化させていくことが要になるはず」と提言した。

児玉氏は、教師の情報活用能力の捉え方そのものを研鑽する必要があると指摘。奥武蔵小学校にはプログラミングを導入できていない教師もいて、時には教務担当の児玉氏が授業を担当することもあるという。「教科内容や探究的な学びの中で情報活用能力をどう使うかが今後の焦点。いかに当事者意識を持つかがカギになると思います。本校の強みは大規模校とは違い、小回りが利くこと。新たな取り組みもどんどん導入していきたいです」と語った。

最後に、泰山氏は「情報活用能力“で”学ぶことで、情報活用能力“を”学ぶ」という考え方を紹介。この2つを繰り返すことで深い学びにつながることを示唆した。加えて、これらの学びはGIGAスクール構想が前提になっていることも強調。「教科を通して情報活用能力を発揮し、深い学びに到達するというような授業を実現できれば」と幕を閉じた。

記者の目

本セッションで紹介された実践例は、栃木、徳島、埼玉と地域も学校規模も異なるが、未来社会で活躍するために必要な資質は全国各地で同じであることに改めて気づけた。GIGAスクール構想の実現によって、オンラインでの学びが容易になった今こそ、奥武蔵小学校の実践のような遠隔地とつながる授業も子どもにとって大きな価値があるに違いないだろう。

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop