2022.07.04
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GIGA先進校は、なぜ成功したか? 私立学校の事例から学ぶ。 New Education Expo 2022 リポート vol.5

GIGAスクール環境の本格的な活用が、2年目に突入した。1人1台やクラウドを用いて、子供たちが日々学びに励んでいる学校もあれば、未だ道半ばの学校もあり、その差が開き始めている。そこで本セミナーでは、いち早くGIGA環境を整備した私立の小・中・高等学校3校が登壇。どんな活用を行っているのか、成功のポイントは何なのか、語ってくれた。

1人1台端末に関する私立学校の取組

森村学園初等部 ICT担当 榎本 昇氏
立教池袋中学校・高等学校 教務部長 酒井 一哉氏
千葉明徳中学校・高等学校 ICT Education Center CIO 梅澤 俊秀氏

完全オンラインで映像を制作し、子供たちの創造性が高まった

iPad +Google Workspace

森村学園初等部 ICT担当 榎本 昇氏

2015年からタブレット端末の実証を開始し、2022年には1人1台の整備を完了した、森村学園初等部。全学年で、端末を用いた学びが盛んに行われている。

たとえばプログラミング教育も、低学年から高学年まで全学年で実施中。低学年はViscuitなど、中学年はmicro:bitなど、そして高学年はSphero Boltなどと、発達段階に応じて使い分けている。このプログラミング教育で大切にしているのは、「5つのC」だと、榎本先生は言う。

「中でも特に重視しているのが、CommunicationとCreative processの2つです。プログラミングは、個別作業になりがちです。だから周りの友だちと話したり、お互いのプログラムを見せ合ったり、コミュニケーションをしっかり取らせることを意識しています。

また、プログラミングは、正解が一つではありません。一人一人、目的も過程も異なります。お互いの多様性を認め合おうと、子供たちに伝えています」

同校の実践で特に目を引くのが、「映像制作」の活動だ。子供たちが「思い」や「メッセージ」を伝えるその動画は、脚本や演出も凝っており、とても小学生が作ったとは思えない出来映えだ。

この映像制作で、GIGA環境がフルに活用された。2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、テーマの話し合いから作品の制作、上映まで、すべてオンラインで実施したのだ。映像制作の活動は以前から行っていたが、1人1台環境を用いるようになって子供たちに大きな変化が生じたと、榎本先生は振り返る。

「まず、制作スピードが速まりました。1人1台とクラウドを使えば、情報共有も速いし、試行錯誤もしやすい。先生が指示せずとも、自分たちで何をすべきかを考えて進めるようになりました。

そして子供たちの創造性も、高まりました。クラウド上でお互いの思いやこだわりをぶつけあい、建設的な議論を重ね、自分たちならではの映像を作り上げていきました」

先生と子供、両者にとっての「使いやすさ」を追求した

Windows +Microsoft Office

立教池袋中学校・高等学校 教務部長 酒井 一哉氏

2018年から1人1台の整備を進めてきた、立教池袋中学校・高等学校。現在は全学年で1人1台環境を整えており(高校生はBYOD)、課題の作成や提出、資料の閲覧、英語の音読やリスニング練習、Excelでのグラフ作成など、5教科はもちろん美術や音楽でも、GIGA環境を使った学びが日常的に行われている。

全校で活用が進んだのは、「使いやすさ」にこだわったからだと、酒井一哉先生は振り返る。合い言葉は、「打倒スマホ」。そのポリシーが顕著に表れているのが、「使用制限」ルールだ。学校内と学校外とで、ルールを変えたのだ。

たとえば中学生の場合、学内ではSNSやメール、ゲーム、動画配信などにはアクセス不可だが、学外(家庭のWi-Fiに接続等)なら、アダルトサイトなどを除きアクセスフリー。アプリも、学内ではOfficeなど学校が許可したもののみ使用可能だが、学外ではなんでも利用可能となっている。

「子供たちには、なるべく自由に使わせたい。自由に使ってこそ、学習の道具として使いこなせるようになるからです」と、酒井先生が言う通り、子供達は変わり始めている。わからないことがあれば端末で検索する習慣が身につき、調べたことを端末で整理し、まとめはノートに書くなど、学習方法も多様化している。

一方で、学内での使用を一部制限したのは、先生にとっての「使いやすさ」を追求したからだ。

「学内でも完全自由にしてしまうと、先生方の指示や指導が煩雑になり、授業で使おうと思ってもらえません。生徒と先生、両者にとっての『使いやすさ』が両立するように、苦心しました」

先生方からは、「以前と比べて授業でできることが格段に広がり、生徒一人一人を見守り指導する時間が増えた」と、好評だという。

先生が教える時に使う「教具」から子供が学ぶ時に使う「文具」へ。

iPad +Google Workspace

千葉明徳中学校・高等学校 ICT Education Center CIO 梅澤 俊秀氏

千葉明徳中学校・高等学校では、2017年度から1人1台の整備を開始し、2019年には全学年で整備を完了した。先生方も生徒もこの環境を日常的に活用中。フォームを使った健康観察や、カレンダーと連携した日程管理、Slackでの教職員間の連絡、クラスルームを使った教材共有、ロイロノートを使った双方向型授業など、今では1人1台やクラウドが「なくてはならない存在になった」と、梅澤俊秀先生は言う。

しかし、と梅澤先生は続ける。1人1台の整備を始めてから5年が経過し、「マンネリ化している感がある」と言うのだ。

「そもそも1人1台を整備したのは、授業改善が目的。しかし、肝心の授業改善が、足踏みしている感があります」

その原因は、「先生のマインドセットが変わっていないから」と、梅澤先生は指摘する。新学習指導要領が求める新たな学習観や授業観への認識不足、大学入試対策の優先、部活動など先生の労働時間が軽減されていないことなどが、その背景にあると分析する。

先生の意識をなんとか変えようと、研修に力を入れるなど様々な手を尽くしてきた。教室の黒板をすべてホワイトボードにリプレイスする計画も進行中だ。黒板中心の授業からの脱却を促すのがねらいだという。

しかし最近は、「先生の意識を変えるよりも、生徒のICT活用を変えた方が手っ取り早いのではと感じてきた」と、梅澤先生は言う。生徒の使い方が変われば、生徒の姿も変わり、その成長を目の当たりにした先生の意識も変わり、授業が変わっていく。そんな波及効果を期待しているのだ。

「GIGA以前のICTは、先生が教える時に使う『教具』でした。しかし1人1台は、生徒が学ぶ時に使う『文具』。教師主導型のICT活用から、学習者中心型のICT活用へ、転換をしていかねばなりません」

そこで同校では、探究型学習に力を入れようと考えている。

「一人一人が自分の課題を追究する探究型学習と、1人1台は相性がいい。パフォーマンス課題を意識した学習形態を取り、観点別評価をしていこうと考えています」

記者の目

GIGA先進校がたどってきた道は、これから多くの学校が歩む道だ。成功事例やその秘訣、現在直面している課題など、とても参考になる話が次々と披露され、参加した先生方は熱心にメモを取っていた。3校に共通していたのは、どの学校にもその学校ならではの理念やねらいがあり、そのための方策を自分たちで苦心して編み出し、試行錯誤しながらも前進を止めない点だった。これこそが、GIGAを成功に導く秘訣なのかも知れない。

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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