2026.10.13
  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「得意」を生かして会社をつくる 子どもたちの学級

好きや得意を生かして、子どもたちが自分たちで会社を立ち上げる。漫画100冊の制作や漫画フェス、毎週のお笑いライブ、運動場を使ったイベントなど、活動は次々と広がっていきました。
教師が一歩引いて見守ることで見えてきた、子どもたちの「やってみたい」を形にする力。その姿から、子ども主体の学級づくりについて考えます。

愛知県東郷町立春木中学校 教諭 阪野 一輝

自分の得意を生かして会社をつくる

これまでの体育の授業では、自分の力に合った課題を選び、どうすればできるようになるのかを考えながら、何度も試行錯誤する子どもたちの姿が見られるようになってきました。 

そんな子どもたちの姿を、今度は授業の外でも生かせないか。そう考えて始めたのが、子どもたちによる「会社活動」です。

これまでの係活動では、黒板係、配り係、給食係など、学級生活に必要な仕事を子どもたちが分担することが中心でした。

そこで私は、クラスに必要な仕事を分担するだけではなく、自分たちの得意なことや、やってみたいことを生かして、クラスをもっとよくするという活動にしてみることにしました。それが、子どもたちによる会社活動です。

会社をつくるとき、私から「○○会社をつくりなさい」と指示したわけではありません。

「自分の得意なことは何だろう」
「好きなことを生かして、クラスのために何ができるだろう」

そんなことを考えながら、子どもたちは自分たちで会社を立ち上げていきました。

絵を描くことが好きな子どもたちは、イラスト会社。手先が器用で、折り紙が得意な子どもたちは折り紙会社。そして、人を笑わせることが大好きな子どもたちは、お笑い会社をつくりました。

お笑い会社は、毎週金曜日の終会でライブを開催しました。

「今週は何をやろう?」
「このネタならみんな笑ってくれるんじゃない?」

休み時間に、そんな相談をしている姿も見られました。

一見すると、ただの「遊び」にも見えるかもしれません。しかし、私はそこに、会社活動の大きな価値を感じていました。

自分たちの好きや得意を生かして、仲間に喜んでもらう。そのために考え、準備し、実際にやってみる。うまくいかなければ、また工夫する。

これまで授業の中で大切にしてきた自分で考えて、試して、修正するという学び方が、学級生活の中でも生まれ始めていたのです。

100冊を超えた「漫画会社」

中でも、私が驚いたのが「漫画会社」でした。

物語を考えたり、漫画を描いたりすることが好きな子どもたちが集まり、休み時間などを使ってオリジナル漫画を描き始めました。一冊描いて終わりではありません。

「次はこの続きを描こう」
「新しいキャラクターを出そう」
と、どんどん作品が増えていきました。

気がつけば、教室の棚には100冊を超える自作漫画が並んでいました。100冊という数にも驚きましたが、私がさらに面白いと感じたのは、その後の子どもたちの動きでした。

「せっかくこんなに描いたんだから、もっとみんなに読んでもらいたい」

そこから、漫画会社の子どもたちは「漫画フェス」を企画しました。ところが、話し合いを進めていくと、また新しい課題が出てきます。

「どうしたら、みんなが漫画を読みに来てくれるかな?」
「漫画を読むだけじゃなくて、何かイベントもあった方がいいんじゃない?」
「じゃあ、漫画を借りたり、イベントに参加したりするためのポイントをつくろうよ」

そして、子どもたちは自分たちで会社専用の通貨までつくってしまいました。漫画をレンタルしたり、イベントに参加したりする際に、その通貨を使う仕組みです。

私は、子どもたちがつくった通貨を見ながら、そこまで考えるのかと驚きました。しかし、よく考えてみると、これは特別なことではありません。

「もっとみんなに楽しんでもらいたい」

その思いから出発して、子どもたちなりにどうすればうまくいくのかを考え、必要な仕組みをつくっていったのです。漫画を描くことから始まった活動が、いつの間にか、イベントを企画し、仕組みまで考える活動へと広がっていました。

「自分たちのクラス」から「みんなの学校」へ

会社活動の広がりは、やがて学級の中だけでは収まらなくなっていきました。ある会社が企画したのが、テレビ番組『逃走中』をヒントにした運動場での鬼ごっこです。

「自分たちだけでやるのではなく、他のクラスの友達にも参加してもらいたい」

子どもたちは、そんな思いから企画を始めました。もちろん、テレビ番組の企画をそのまま学校に持ち込むわけにはいきません。

「どうしたら安全にできるかな?」
「ハンターはどこに配置する?」
「どんなルールなら、みんなが楽しめるかな?」
「ミッションはいつ出す?」

子どもたちは、自分たちで話し合いながらルールを考えていきました。やってみたいという思いだけでは、うまくいきません。

みんなが楽しめるようにするにはどうするか。安全に行うにはどうするか。実際にやったら、どんな問題が起こりそうか。

そうしたことを一つずつ考えながら、活動を形にしていきました。そして、子どもたちが中心となってイベントを運営しました。

教室の中で始まった小さな会社活動が、いつの間にか学級の枠を越え、学校の仲間を巻き込む活動へと広がっていったのです。

教師は任せるのではなく、見守りながら引く

ここまで子どもたちが動き始めると、「先生は何もしなかったのですか?」と聞かれることがあります。もちろん、何もしなかったわけではありません。

むしろ、私自身が意識するようになったのが、どこまで教師が関わるかということでした。会社活動が始まったばかりの頃は、「何をしたらいいか分からない」と、活動が止まってしまうこともあります。

そんなときには、
「今、何に取り組んでる?」
「困っていることはある?」
と問いかけます。

すぐに答えを教えるのではなく、子どもたち自身が次の一歩を考えられるようにするのです。そして、子どもたちが動き始めたら、少しずつ手を引きます。

教師がすべてを準備してしまえば、活動はスムーズに進むかもしれません。でも、それでは自分たちでつくったという実感は生まれません。

だからこそ、必要なときには支える。子どもたちが自分たちで進めるようになったら、一歩下がる。

会社活動を通して、私自身も教師が手を出さないことと、子どもに任せることは違うのだと学びました。

得意が誰かの役に立つ学級へ

会社活動を始めて、子どもたちの姿を見る目も変わりました。

絵が得意な子は、イラスト会社で活躍する。折り紙が得意な子は、折り紙会社で活躍する。人を笑わせることが好きな子は、お笑い会社で仲間を楽しませる。漫画が好きな子は、100冊を超える作品を生み出す。

これまでの一律の係活動では、なかなか見えてこなかった子どもたちの得意や好きが、会社活動という場を得ることで、誰かの役に立つ力へと変わっていきました。そして、その姿を見た周りの子どもたちも、「自分も何かやってみたい」と思うようになります。

自分の得意なことを生かして、誰かを喜ばせる。
その経験が、自分も学級の一員なんだという感覚につながっていったように思います。

体育の授業で育ってきた、自分の今の力を知り、どうすればできるようになるかを考え、試してみるという姿は、教室でも少しずつ見られるようになっていました。

体育では技をできるようにするために考える。会社活動では、クラスをもっとよくするために考える。場所は変わっても、自分で考えて、試して、よりよくしていくという学びの姿は同じでした。

子どもたちに何をするかを決めて与えるのではなく、何をしたらクラスがもっとよくなるかを自分たちで考えてもらう。その小さな違いが、子どもたちの動きを大きく変えていきました。

そして私は、会社活動を通して、子どもたちが自分たちのクラスを少しずつ自分たちの手でつくっていく姿を目にすることができました。

次回は、学級会を自分たちの力を試す場所として捉え直した実践についてお届けします。教師が口を出すのを少し我慢して見守ってみると、子どもたちは私たち教師が思いつかなかったような方法で、課題を解決し始めました。

任せてみるからこそ見えてきた、子どもたちの驚きの解決策を紹介します。

阪野 一輝(ばんの かずき)

愛知県東郷町立春木中学校 教諭


公立学校教諭。大学院にて運動生理学を専攻。これまで約10年間、小学校を中心に、体育における「自己調整学習」の実践研究や、子どもたちが主体的に運営する学級経営に注力している。授業や学級経営を通じ、子どもたち一人ひとりの心に「自律の種」をまく実践を大切にしている。

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop