マット運動で育てる自己調整学習
なぜなら、子どもたちはそもそも「自分の課題がどこにあるのか」「それを解決するためにはどんな練習をしたらいいのか」が分かっていないからです。
自ら選択し、試行錯誤するためには、その選択を支える豊富な選択肢(環境)が教室や体育館にデザインされていることが不可欠です。
愛知県東郷町立春木中学校 教諭 阪野 一輝
体育館に広がる「学びのテーマパーク」
教師の本当の仕事は、主役となって大声で指示を出すことではなく、子どもたちが主役になって学ぶことができる環境をデザインすることにある――。
そう気づいてから、私のマット運動の授業では、体育館がまるで子どもたちの好奇心をくすぐる「学びのテーマパーク」のようになりました。
園内(体育館)を見渡すと、子どもたちの多様なニーズに応じた、魅力的なアトラクション(練習の場)が散りばめられています。
例えば、前転の勢いをつける感覚がつかめない子のための「坂マット」。
開脚前転や開脚後転で足が開かない子のために、マットの上に細いマットを縦に敷いて足を開きやすくする場所。
あるいは、壁にセーフティマットをくっつけて倒立の恐怖心を和らげる場所。
真ん中に1本、ピッとテープが貼ってあり、自分の技がまっすぐ進んでいるかを確認できるマットもあります。
もちろん、最初から全員が完璧に場を選べるわけではありません。中には「自分がどの練習の場に行ったらいいか分からない」と迷ってしまう子もいます。
迷わず選ぶためのトレーニングマップ
そこで私は、課題に応じて必要な練習の場がどこにあるのかを一目で示した「トレーニングマップ」を作成しました。
テーマパークのガイドマップのように、自分の弱点や「こうなりたい」という願いに合わせて、目指すべき場所へナビゲートしてくれる地図です。これがあることで、子どもたちは迷子になることなく、安心して自分の課題に向き合うことができるようになりました。
こうして現在地と目指す場所が分かると、子どもたちは自ら場を移動し始めます。
「勢いが足りないから、まずは坂マットでスピードに慣れてこよう」
「開脚のときに足が閉じちゃうから、あの細いマットの場所で練習してみる」
教師が「あなたはあっちに行きなさい」と言わなくても、自分の心と体に対話しながら、自ら場を渡り歩くのです。
技のコツを感じ取る仕掛け
さらに、それぞれの場には、技のコツを視覚的・感覚的につかませるための仕掛けも散りばめました。
手のつく位置や足の踏み切りに迷う子のための「手形・足形のシート」。
大きな前転や跳び前転で体が小さくなってしまう子が、より遠くに大きく回れるようにした場所もあります。ペットボトルとゴムひもをつないで「このゴムひもを飛び越えてごらん」と設定しました。
極めつけは、シンプルにゴムひもだけを置いた場所です。ここでは、子どもたちがゴムひもを使って自由に練習をしていきます。
友達にゴムひもを高く上げてもらうことで、側転(側方倒立回転)や倒立前転をする際、自分の足がしっかりと高く上がっていれば、空中で足がゴムに触れる仕組みです。
「あ、今当たった!足が上がってる証拠だ!」
「当たらなかった。次はもっと足を振り上げてみよう」
そんな声が自然と聞こえてくるため、教師が横で「足をもっと上げて!」と叫ぶ必要はありません。
ゴムに当たったかどうかが、子どもにとって最高の、そして的確なフィードバックになるのです。
他にも、2枚のマットの間にあえて隙間を空け、その空間に頭を抜くことで、首を痛めずにきれいに後ろ回り(後転)ができる場なども大人気でした。
こうして基礎的な感覚をつかんだ子は、マットを縦につなげて並べた「超ロングマット」の場所へ行って連続技に挑戦したり、さらに高度な応用へと自らステップアップしていきます。
場の設定は教師からの無言のメッセージ
「場の設定」とは、教師から子どもたちへの無言のメッセージです。
言葉で教え込むのを手放す代わりに、子どもたちが自分で気づき、自分で選択して修正できる環境を徹底的に作り込む。
トレーニングマップを片手に、デザインされた場と対話しながら何度も試行錯誤を繰り返す子どもたちの姿こそ、まさに自己調整学習そのものでした。
次回は、こうして場の中でつかんだ身体感覚を、さらに確かな学びに変えるため、子どもたちが工夫し始めた「言葉の力」についてお届けします。

阪野 一輝(ばんの かずき)
愛知県東郷町立春木中学校 教諭
公立学校教諭。大学院にて運動生理学を専攻。これまで約10年間、小学校を中心に、体育における「自己調整学習」の実践研究や、子どもたちが主体的に運営する学級経営に注力している。授業や学級経営を通じ、子どもたち一人ひとりの心に「自律の種」をまく実践を大切にしている。
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