自律の種をまく教室 動画分析から始まるマット運動の自己調整学習
器械運動を指導する上で、高い壁の1つとなるのが「自分の体は自分では見えない」という事実です。
愛知県東郷町立春木中学校 教諭 阪野 一輝
100回の言葉より、1度の客観的な事実
本人は一生懸命、腰を上げているつもり、足を伸ばしているつもり。
けれど、その「つもり」と「実際」の間には、大きなズレが横たわっています。
そのため、教師がいくら言葉を尽くして「もう少し腰を高く上げてみて」と助言をしても、子どもの動きはなかなか変わりません。
本人の中にある感覚と実際の動きのズレが埋まらないまま、「できない」という事実に直面し続けることは、子どもにとって大きなストレスとなります。
やがてそれが、運動への苦手意識や諦めを生む原因になっていくのです。
これが、多くの教室で起きている見えない壁の正体でした。
そこで私は、どう動くかを教えることを一度脇に置き、自分の姿を映し出す鏡として、子どもたちにタブレット端末を手渡しました。
ターゲットは側方倒立回転です。
ある子が自分の試技を撮影した動画を確認した瞬間、叫びました。
「えっ、めっちゃ曲がってるじゃん!」
動画に映っていたのは、本人がイメージしていたまっすぐな倒立とは程遠い、腰が引け、膝が大きく曲がった自分の姿でした。
教師である私が「曲がっているよ」と100回伝えるよりも、たった一度、自分の目で事実を確認したことの衝撃は何ものにも代えがたいものでした。
その瞬間、子どもの中で自己調整のエンジンが回り始めます。
問いかけが生む、自律的な練習選択
私は「次はこうしなさい」とは言いませんでした。
代わりに、
「動画を見て、どんなことに気づいた?」
「今できてないところを改善するために、どんな練習が必要そう?」と、見るべき視点だけを提示し、問いかけました。
すると、子どもたちは自分たちで考え始めます。
「腰が上がってないから、もっとカエルの足打ちで感覚をつかんでみる」
「手をつく位置がバラバラだから、まずは川渡りでまっすぐ進む練習をしなきゃ」
教師に与えられた練習メニューをこなすのではなく、自分の課題を解決するために、必要な練習を自ら選択する。これこそが、自律的な学びの第一歩です。
正解を求める目から、分析し調整する目へ
動画分析は、単なるICTの活用ではありません。
客観的な自分を直視し、理想とのギャップを埋めるために思考をめぐらせるプロセスそのものです。
そのサイクルを繰り返すうちに、子どもたちの目は教師に正解を求める目から、自分の動きを分析し、調整する目へと変わっていきました。
自分の現在地を正しく知ることで、初めて「次はどうすればいいか」という本物の目的が生まれるのです。
次回は、技能の向上だけでなく、挑戦の裏にある心の動きにフォーカスします。
恐怖心という壁に対し、子どもたちが自らレベルを選択していく跳び箱運動のエピソードをお届けします。

阪野 一輝(ばんの かずき)
愛知県東郷町立春木中学校 教諭
公立学校教諭。大学院にて運動生理学を専攻。これまで約10年間、小学校を中心に、体育における「自己調整学習」の実践研究や、子どもたちが主体的に運営する学級経営に注力している。授業や学級経営を通じ、子どもたち一人ひとりの心に「自律の種」をまく実践を大切にしている。
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