2026.07.16
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カナダBC州から届ける、日本語を「つないでいく」ための学び~言葉のコードスイッチング~(第5回)

今回は、日本語学校で日本語から英語への字幕翻訳を始める中で、子どもたちが二言語を行き来する様子について伝えたいと思います。

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師 高井 マクレーン 若菜

日本語から英語への字幕翻訳で見えた難しさ

いざ日本語学校で日本語から英語への字幕翻訳を始めてみると、子どもたちは日英バイリンガルなのに、はたまた日英仏トライリンガルなのに、一筋縄ではいかない難しさがありました。

コードスイッチング(注)という言葉があります。複数言語を操る人たちがコミュニケーションの中で言語を入れ替える作業のことを言います。
日本語学校の子どもたちは、瞬時に状況や相手に応じてこのコードスイッチングを行っています。日常において、まるでスキップでもするかのように軽やかです。
しかし、じっくりと意味をくみ取りながら日本語と英語を交互に操っていく翻訳という作業には意外にも苦戦しているかのように見えました。

私自身の英語習得との違い

私自身は第二言語である英語を臨界期(注)を過ぎてから学びました。初めて英語に出会ったのは中学1年生の英語の授業でした。
外国語としての英語習得を、意図的、そして戦略的に行ってきた過去があります。

私個人の場合ですが、まずは英語の音に興味を持ったことで、何度も繰り返しフレーズや会話を聞いては真似をしました。学校では文法を身に付け、英語で本を読みたいという理由から英文学部に通いました。

大人になってからは、書きたいのに圧倒的に語彙が足りないことに気づき、精読と多読を一定期間、日課としました。文脈の中で語彙を増やしていったのです。

当時はこのような道筋を計画したわけではなかったものの、結果として臨界期を過ぎた外国語習得としては典型的な順序をたどったような気がします。

子どもたちの軽やかなコードスイッチング

代わって、目の前にいる継承語としての日本語の学び手たちは、生まれたときから日本語に囲まれ、今ではコミュニケーションをとる相手や場所によって、たやすく日英仏のコードスイッチングを利用します。

たとえば家庭内で母親とは日本語を使い、学校の授業中はフランス語、廊下でクラスメートと話すときは英語、兄弟姉妹では英語が主で日本語も少しなど。
彼らの脳内での言語の切り替えが圧倒的なスピードで行われるのが見てとれます。

通訳のような場面で感じる負荷

一方で、コードスイッチのような言語の素早い行き来を繰り返して行うと、複数言語で幼少期から育っていない私の場合は途中で困難に陥ることが多いです。

通訳とコードスイッチングはまた少し異なりますが、たとえば我が家の場合、日本語のテレビ番組を見ながら、娘と私は日本語で内容を理解しつつ画面へのコメントを日本語で行います。

その中で、夫は内容の英語解説を私たちに求めます。私または娘が、内容を同時通訳のような形で夫に英語でリレーし、夫の英語のコメントにこちらも英語で答えるというような現象が頻繁に起こります。
私の脳は15分足らずで疲弊し、ギブアップとなります。

翻訳で可視化された「考える力」

通訳と異なり、翻訳は〆切はあるものの、瞬時に行う必要はありません。
むしろどのような表現が好ましいか、背景には別の意味があるのではないか、などと熟考します。頭の中で言語文化や背景を切り替え、戻し、また切り替えるなかで「考える力」(注)が求められます。

頻繁に一つの言語に思考や感覚を持っていかれ、日本語を英語にそのまま訳しただけの直訳からなかなか離れられずぎこちない訳も生まれます。
作業中には、出来上がった訳を見ながらコードスイッチングを切り、いったん思考を英語に切り替える様子がありました。英語で会話をして適訳を探しながら、また日本語の原文にも戻る、という様子です。

翻訳の言葉を置き換えるとは言語双方向に行き来するもので、繰り返すことで思考が何層にもなることを実感している様子が伝わってきました。

それは「考える力」が可視化された場面でした。
この「考える力」は、「これは英語では表現がない!」「もっとぴったりはまる訳があるはず」と懸命に話し合い、何通りもの表現を出し合う形で表れていました。
それを本人たちが楽しんでいたのが見てとれました。

注: コードスイッチングについて、また複数言語使用による「考える力」については、応用言語学者である萓忠義氏が書いているこちらのコラムが詳しいです。「言語の切り替え(コードスイッチング)と知能の関係 ~バイリンガルの柔軟な思考~

高井 マクレーン 若菜(たかい まくれーん わかな)

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師


群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務めた後、カナダ国ブリティッシュ・コロンビア州へ移住。現在はBC州の公立学校で教えながら、継承語学校でも日本語日本文化を教えている。

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