試行錯誤の世界史探究~KCJ法アレンジによる世界史探究の授業実践の総括~(7)
今年度も3年生の授業が終了しました。
最後の課題からは、社会科目を通じて身に付けてほしかった思考の姿も見て取れ、生徒の持つ力に改めて感銘を受けました。
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭 朝倉 由真
世界恐慌から第二次世界大戦を扱った最終単元の授業構成
<最終単元>
さて最後の学習項目は、世界恐慌から第二次世界大戦でした。前回と同じく、「知識”再”構成型ジグソー法」の授業です。その際、概略講義を行いましたが(以下で示すSTEP1)、STEP2~4をすべて行う時間はとれず、講義のあとは読解ワークに取り組んでもらいました。
ワークの目的は講義内容を演習することでした。具体的な事例を読み解き、さらに理解を深めること、そして現代社会の事柄にも考察をつなげることを狙いとしました(STEP2とSTEP4の抱き合わせ)。
知識“再”構成型ジグソー法を用いた授業実践の工夫
【知識“再”構成型ジグソー法】
STEP1:単元内容について概略講義
STEP2:ジグソー法エキスパート活動(生徒が個人で担当課題に取り組む)
STEP3:ジグソー活動(班で知識を共有し、共通課題に取り組んで、学習内容の全体像を組み立てる)
STEP4:解説・現代の諸課題につなげて考える
第二次世界大戦についての学習においては、ドイツ(ワイマール共和国)でナチ党が政権を取るまでの過程と、ホロコースト、反ナチズムへの弾圧・迫害を、重点的に扱いました。ヒトラーユーゲントなどについての詳しい情報を用いて、10代後半の生徒が等身大で捉えやすいように工夫したつもりです。
資料読解を通して示された生徒の思考と記述
最後の課題より、生徒の記述答案を抜粋して紹介します。
設問:資料を読んで、これまでの世界史学習もふまえ、自由に意見を述べなさい。
生徒A「子どもたちにも政治を身近なものにして、憧れの的となるように仕向けて、また子どもたちのことも差別的な扱いをすることで差別意識を植え込んだ。悪いことが悪くないという認識になり、それが正義になっていく恐ろしい政治状況ができあがったと思った。(中略)だから(著者注:そういうことを繰り返さないためには)いつまでも私たちは考えることをやめてはいけないし、意見してもいい環境が大切だと思った」
生徒B「(中略)ヒトラーは、方法さえ違って、もっと民主的で世界をより良くしようという考えを持った人物であったら今の世界がまた少し違ったものになっていた可能性があるんじゃないかなと思う。それくらい、ヒトラーの政治力と統治力はかなり優秀なものだと思う」
生徒C「独裁的で非人道的な政策を行う政党や政治家はいつでも現れうる。独裁政治はギリシャの僭主政にはじまり、カエサルやナポレオンなどの偉人と呼ばれる人物も行っており、必ずしも悪いものではないと思う。しかし、非人道的な政策は絶対にあってはならず、ナチスのような政党や政治家の再来を防ぐには、私たち国民の一人一人が歴史を学び、責任をもって選挙に行くことが大切だと考える」
生徒D「敗戦や恐慌によって弱ったドイツを、やり方はどうあれ立て直したヒトラーは、単純にすごいと思った。今でもプロパガンダは自分が目にする情報の中にも混ざっていると思うので、気を付けなければならないと思った(以下略)」
一時的な用語暗記に終始せず、それぞれに多様な視点で、講義や資料ワーク、教科書から学んだ内容や、現代社会のありようについて、自身の中で構築し、よく考えを表現できていると思います。
世界史探究におけるKCJ法アレンジの可能性
<KC J法への継続的なチャレンジを振り返って>
高校生向けに書かれた教科書や参考書ではない、生徒にとっては慣れない文章表現であることが多い各種資料に対して、私が編集を加えているとはいえ、多くの生徒は難解さを感じたり、文字量にめげたりしていました。しかし、2学期・3学期を通じた学習の結果、読解への抵抗は減り、既習事項や自分事とつなげた考察を、客観的に理解できるように言語化する力も強化されたと分析しています。
「難しい~~」と言う生徒は最後までいましたが、それでも、とにかく読もう、書いてみよう、という姿勢に至るまでの腰は軽くなりました。2年間指導してきた中で、それは彼らの成長だと感じています。「教科書を読むより資料を読む方が楽しかった」「当時の様子が想像しやすい」と言ってくれた生徒もおり、私としてはそういう想像性も狙いとしていたので、うれしかったですね。用いる資料によって得られる情報が変わるのだ、ということも、実感を重ねてもらえたと思います。
だからといって教科書を疎かにしてよいわけではありません。ただ、ある人物の生涯に焦点を当てたり、1つの事件を立場の異なる複数人の視点で捉えたり、一般人の平穏な1日を辿ったりといった具体例を、講義のみで語り聞かせる授業よりも、資料を自力で読み解くワークを通じて触れさせたほうが、読解力や言語化能力、語彙力、文筆力の強化も期待でき、教育効果は高いと思います。そうして獲得したイメージを駆使して、教科書学習に戻れば、歴史は彼らにとって、ずっと身近で未来志向の知識へと飛躍するはずです。
生徒の様子や実力を見取りながら調整を重ねることで、知識構成型ジグソー法は、どのような学校でも実施可能だと思います。3単位でも、学力に自信のない生徒が大半であっても、実施は可能です。続けることで生徒の能力が少しずつ伸びるわけですから、授業準備をする自分自身が無理のない範囲で継続できるようにする、ということもポイントです。
私もこれまで、だいぶ試行錯誤・紆余曲折を重ねました…。ジグソー法は本来、①個人でエキスパートワークに取り組む、②同じエキスパートワークに取り組んだ者同士で、それぞれの回答を確認整理・改良する、③異なるエキスパートワークの者同士でグループを組み替え、全体像をつくりあげていく、という形式ですが、私は②の段階を削っています。さらに、先に概略を講義したうえで、生徒に復習と知識の再構成を促すワークを実施する、という形にアレンジしました。
そのため、これではKCJ法になっていないよ、と感じる方もいるかもしれません。それでも、私としてはこれが、現実的に実行できる、KCJ法へと主軸を切り替えた授業でした。そしてチャレンジの結果、生徒の成長も確認できました。定期試験で終わらず、長く使える技能として身につく世界史の、そして私自身も楽しむことができる授業の型として、安定してきたと思っています。
新課程となり、授業スタイルを模索している方や、それぞれに事情を抱えた各校の世界史探究の授業実践で、迷いを感じている方もいると思います。私自身も完成したとは考えていませんが、今回のチャレンジが、どこかで参考になれば幸いだなぁと思います。

朝倉 由真(あさくら ゆま)
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭
神奈川で高校教員として働き始めて10年ほどになります。教壇に立ち始めた頃、地歴科の大先輩に、「10年授業をして、納得できる授業なんてそのうち2~3あるかだ」と教わり、驚きましたが、まさにそうだなぁと実感している日々です。史学科を出ているわけではありませんが、専門は世界史です。
生徒がそれぞれに生きやすい社会をつくりたい、自分の力でのびのびと生きていく力を身につけてもらいたい、少しでも世界平和に貢献したい、と思って教員を務めています。
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