2025.11.01
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試行錯誤の世界史探究ーKCJ法(知識構成型ジグソー法)をアレンジ!古代ローマ帝国史の授業実践ー(5)

「知識構成型ジグソー法」から、「知識"再"構成型ジグソー法」にしました。
KCJ法(知識構成型ジグソー法)は、生徒が複数の資料を分担して読み、協同的に知識を構築していく学習法です。
手応えが増しました!

神奈川県立伊勢原高等学校 教諭 朝倉 由真

2回目のKCJ法実践

前学習項目の「古代ギリシア史」に引き続いて、共和政から帝政開始までのローマ史の授業を、以下のようにKCJ法で行いました。使用教科書は帝国書院の『新詳 世界史探究』です。生徒に読解させる資料については、今回は塩野七生著、新潮文庫『ローマ人の物語』第1・2巻と、山川出版社『詳説世界史研究』、第一学習社『グローバルワイド最新世界史図表』を使用しました。

メインクエスチョンは「共和政を維持することは、難しいことなのだろうか?」とし(アテネの民主政治を学習した後なので)、今回はサブクエスチョンは設けませんでした。エキスパート課題は、次のとおりです。

Q1.「共和政ローマとは、どんな国だろう?(どのような流れで成立したの?どんな特徴があるの?)」
Q2.「戦争は、社会を変えるのだろうか?(ローマ社会の場合)」
Q3.「カエサルって、何をした人なの?」

建国から共和政期、内乱の1世紀を経て元首政が確立するまでの流れを、「知識構成」できるように、以上を組み立てました。今回、実際に授業を行ってみて分かったことは2点です。1点目は、古代ギリシア史教材での反省を生かして調整した文章量・語彙レベル、課題数がちょうど良かった、ということです。2点目は、「市民権」とは何か、「元老院」とはどういう存在か、「ポエニ戦争を経て変化したローマ社会」などについて、生徒が自力で理解するには手こずる設計だった、ということです。

用意した資料と問いの間の開き(飛躍)が、やはり大きかったのです。前回と同じ失敗を繰り返しています…。私が補助講義や机間指導・個別指導を事前想定より多く行ったことと、生徒がよく粘ってくれたことで答えを導き出すことはできましたが(無理やりともいえます…)、大半の生徒の反応は「むず~~~い」というものでした。
今回の実践で、さらに教材改善が必要であることとともに、「先に概略講義を行なった方が、この子たちには合っているかな?」との分析に至りました。つまり、資料読解と問いに答える作業を通じてゼロから「知識を完全自力で構築する」のではなく、一度大まかな流れや主要用語を解説してから、より詳細な資料に触れて問いについて考察する「復習方式の知識構築」にしたほうが良いのではないか、ということです。これを勝手ながら、一人で「知識”再”構成型ジグソー法」と名付けました。

知識”再”構成型ジグソー法を実践(KCJ法3回目)

さて、古代ローマの帝国史に突入です。「再構成型」になるよう、教材を組み立てました。メインクエスチョンは「ローマ帝国と今日のヨーロッパは、どのように繋がっているだろうか?」とし、STEP1は、概略講義です。穴埋め式のよくある講義用プリントを作成し、チョークアンドトークを行ないました。A3プリント1枚にまとめ、スピードを速くし、”ダレないように”を強く意識しましたが、ごく一般的なスタイルです。

STEP2が、ジグソー法のエキスパート課題です。
Q1.「パクス=ロマーナの頃、ローマ帝国に生きた人々は、どのように生活していただろうか?」
Q2.「なぜキリスト教は、ヨーロッパの主要宗教となったのだろう?」
Q3.「混乱した社会って、どのような状況だったのだろう?(※軍人皇帝時代以降を題材に)」

STEP3でエキスパート課題の共有(ジグソー活動)をし、メインクエスチョンに対する答えを導き出すところまでいきます。

STEP4では、ここまでの活動を踏まえて、
Q.「なぜトルコはEUに入れないのだろうか?」
という問いに、時事ニュースも調べながら答える課題を設定して、世界史と現代をつなぐことを意識しました。

今回の「再構成型」は、成功したと感じています!「一回聞いた用語だから、資料が読みやすかった」「なんとなく流れが分かるから、資料を読んで課題の答えを考えるのが分かりやすかった」「ローマ帝国ってめっちゃ今とつながってるじゃん」といった生徒の声を聞くことができました。3人目の声は、まさに今回の授業のゴールだったので、とてもうれしかったですね。私から見ても、生徒の手が止まることはそんなになく、理解と考察、概略講義で得た用語や流れの理解と、読解から得た情報をうまく結びつけることができていたように思います。

概略講義に1コマ、STEP2~4に1.5コマをかけました。講義をした後に、講義と同じ内容を深めるという形でジグソー活動をしていますから、学習内容は重複しています。「同じ内容にそんなにコマ数は割いていられないよ」と思う先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、他教科では説明して終わりではなく、演習時間も確保されています。私が経験したり見聞きしてきた社会科目授業は「講義をして終わり」というスタイルが多かったですが、それで定着可能なのは、やはり自学能力が高いか、社会科目が好きな生徒に限られる傾向があります。

次から次と講義を進めても、既習事項が定着していなければ結局は進みが悪くなります。そう考えると、時間数を割いているように見えて、今回のやり方の方が効率がいい、とも感じました。何より、生徒のいきいきした様子! 眠さと戦うかつての生徒たちを思い返すと、講義一本には戻れないなぁというのが現在の心境です。

引き続き、この「知識”再”構築型ジグソー法」で授業を進めていく予定です。

朝倉 由真(あさくら ゆま)

神奈川県立伊勢原高等学校 教諭


神奈川で高校教員として働き始めて10年ほどになります。教壇に立ち始めた頃、地歴科の大先輩に、「10年授業をして、納得できる授業なんてそのうち2~3あるかだ」と教わり、驚きましたが、まさにそうだなぁと実感している日々です。史学科を出ているわけではありませんが、専門は世界史です。
生徒がそれぞれに生きやすい社会をつくりたい、自分の力でのびのびと生きていく力を身につけてもらいたい、少しでも世界平和に貢献したい、と思って教員を務めています。

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