試行錯誤の世界史探究~日々の授業実践のなかで、具体的に考えていること~(3)
神奈川県高等学校社会科部会・歴史分科会の世界史研究推進委員会で活動を始めました。
学び得た実践例などを手本に、夏休み明けの授業づくりに生かしたいと、あれこれ検討中です。
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭 朝倉 由真
高大連携講座
神奈川県高等学校社会科部会・歴史分科会では毎年夏に、大阪大学や東京都立大学などの歴史学教授の方々にもご参加いただき、高校と大学の授業や研究内容、授業方法などを共有し、互いの知見を広げるために、模擬授業や研究協議などを行う「高大連携講座」を開催しています。3日間にわたって実施し、この夏のテーマは「結びつく世界をどう学ぶか?ー20~21世紀のユーラシアー」でした。主に世界史や歴史総合に生かせる題材となります。
神奈川だけでなく、東京や茨城、埼玉の先生方も参加されます。研究協議を通じて他県の授業実践や学校運営について情報交換ができ、とても勉強になります(高大連携は、全国的な活動でもあります)。
今回私がとても感銘を受けたのは、「知識構成型ジグソー法」を毎回の授業スタイルとして取り入れているという実践報告でした。これはグループ学習の一種で、あるテーマに対して生徒がそれぞれ異なる課題を担当し、その知識をグループ内で共有することでテーマの全体像を理解する学習方法です。ジグソーパズルのように、それぞれのピース(知識)が組み合わさって全体(課題解決)を完成させるイメージから、この名前がついています。連載第2回で、自由進度学習に挑戦していると書いた次第ですが、実はこの学習方法も日常的に採用したいと考えていました。
知識構成型ジグソー法
もう少し具体的にお話しします(文科省を始め、多くのウェブサイトが紹介している手法なので、そちらをご参照いただくのもおすすめです)。
例えば、「なぜナチスは政権獲得に至ったのだろうか?」という大きな主題(メイン・クエスチョン)について学ぶため、3~4人のグループを結成し、1人1つずつ、課題(スモール・クエスチョン)に取り組みます。
この主題の場合、
A. ナチ党はどのような選挙活動を展開したのか
B. なぜユダヤ人は迫害されていたのか
C. 当時のドイツの暮らしはどのようなものであったのか
といった課題になります。
このA~Cの課題はエキスパート資料とも呼ばれ、それぞれの問いに対する答えを導き出せるよう複数の資料で構成されています。生徒は自分が担当する課題のエキスパートになり、他の課題を担当する班員に対して、学び取った知識を共有します。班員全員の共有によって、A~Cの知識(パズルのピース)がそろい、主題に対する答え(パズルの完成図)が導き出されます。
課題に取り組む過程で、読解力や考察力を、共有過程では伝達力や複合的な思考力、協調性を鍛えることもできます。
教員の講義によって「第一次世界大戦後のドイツでナチスが台頭し、ホロコーストに至った過程・ドイツ国民の生活の変化」を学ぶのではなく、資料を読み、チームでの共有を経て、生徒が自分たちの力で「知識を獲得していく」わけです。聞いただけの知識よりも定着度が高く、教科書よりも具体的で詳細な、等身大に捉えやすい資料に触れることで強く関心を持ちやすくなります。教員による課題(問い)設定がうまくいけば、生徒の「なぜだろう?」を強く引き出し、能動的な学びにつながります。
授業手法として推進されているのですが、教員の準備量がかなり多いという難点があります。生徒の力や興味関心をよく把握したうえで、「考えたくなる問い」を生み出し、より専門的で、詳細な情報を収集し、教材として落とし込む必要があります。
問いの設定がうまくいかずに、生徒を引き付けられない、ピースが不揃いになる、資料が多すぎて難解になる、逆に少なすぎる、独善的になって生徒が置き去りになる、偏見を助長してしまうなどの、事態は避けなければいけません。カリキュラム上、身につけさせるべき知識と作成する資料がリンクしていることも必要です。正直なところ、業務がクラス経営や授業だけであってもハードルが高い手法です。日本ではこれに加えてさまざまな校務があり、1コマの授業づくりにそこまで手間暇をかけていられない……のが非常に苦しいところです。
ですが、講義だけでは、生徒にどのくらい定着しているのかを、その都度把握するのは難しいです(テストや別の課題が必要)。そして何より、生徒が圧倒的に受け身になりがちです。興味関心の強い生徒でなければ、自分の身の回りのことを学びと結びつけることも少なく、学ぶ意義を見出しにくいのです。本物の生きる力を身に着ける学習活動に取り組んでほしいと願うなら、知識構成型ジグソー法には、絶大な効果があります。
チャレンジ宣言
実は私も1年度だけ、この手法を日常的に実践したことがあります(2~3コマに1回の割合で実践していました)。新科目「歴史総合」の初年度でした。カリキュラム進度を気にしながら他の先生方と足並みを揃えるなど、さまざまな制約がある中でしたが、年度を通じてやり抜くことができました。生徒からの評判もとても良く、「問いについて考えるのが楽しかった」「現実社会と学校の知識が結びついた」「興味を持つと教科書勉強もやる気が出た」「読解力・思考力が伸びた実感がすごくあった」などの声をたくさんもらいました。
異動を経て、この授業手法を再び行う勇気と覚悟、余裕が足りなかったのですが、高大連携講座への参加で感化されました。やはり、生徒に多くを学び、身につけてもらい、何より楽しく学んでほしいのです。3年生の世界史探究では、2学期からこの知識構成型ジグソー法で授業を進めようと思います。
前回の1年間は、全国の先生方の教材に「おんぶにだっこ」でした。今度は、自分でもっと作成します。見様見真似から、創意工夫と発信へ、ネクストステップです。どのような教材を作り実践したのか、こちらで発信できたらと思います。

朝倉 由真(あさくら ゆま)
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭
神奈川で高校教員として働き始めて10年ほどになります。教壇に立ち始めた頃、地歴科の大先輩に、「10年授業をして、納得できる授業なんてそのうち2~3あるかだ」と教わり、驚きましたが、まさにそうだなぁと実感している日々です。史学科を出ているわけではありませんが、専門は世界史です。
生徒がそれぞれに生きやすい社会をつくりたい、自分の力でのびのびと生きていく力を身につけてもらいたい、少しでも世界平和に貢献したい、と思って教員を務めています。
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